80(前編) 俺、呪術師に出会う。
投稿が遅くなり、申し訳ありません。
また、本話は長すぎたので、前編と後編に分割します。申し訳ありません。
俺たちは職人街の中を、奥へと向かって歩いていた。
目印となるのは紫色の建物だ。
これとそっくりな建物が、職人街の入り口付近にも見えたのだが、あいにくとそちらは、アクセスの悪そうな立地にあった。
チェレステにもらったお告げは、凄腕の呪術師との遭遇。いくらなんでも、高名な術者の住んでいる物件には、見合わなさそうだったので、さすがに違うだろうということで、一旦は放置している。もしも、ほかに見あたらなければ戻ってみるつもりだ。
「……」
整理された区画のせいか、道にはひっきりなしに店屋が並んでいる。こちらもすごい活況だ。
市場広場に比べれば、行き交う冒険者の数が目に見えて増えているので、場所ごとの特色はどうしても出てしまうのだろう。
俺も一応は冒険者の扱いなので、並んでいる金ぴかの武器や防具に、目移りもするのだが……自分の戦闘センスを考えるまでもなく、使う機会がなさそうだった。このメンツで俺が前衛になったときにゃ、すでにパーティーが崩壊しているに違いない。
ふと、周囲に注意深く視線を巡らせていたドロシーが、俺の裾を引っぱって注意をそちらへと向ける。
「目ぼしい建物はなさそうですね。存外、人嫌いなのかもしれませんよ」
「さっきの狭い路地にあったやつが、そうだって言いたいのね」
「はい。いささか想定外でしたが、戻ったほうがいいのでは?」
だが、俺とドロシーが話をしている間に、カリナが1つの店屋に強い興味を示してしまっていた。
「何あれ!」
みんなからはぐれて、カリナは勝手にずんずんと進んでいってしまう。いったい何を見つけたのかと、釣られて視線をそちらに向けてみれば、そこには世の中学生がいかにも好きそうな、黒と赤で彩られた奇抜なショップがあった。
個性的すぎる看板には、ドクロのマークがでかでかと自己主張をしており、もはや店の名前が完全に隠れていて、俺でなくとも読めなくなってしまっている。日本ならば、お化け屋敷と見紛うところだろうが、あいにくと、ここはワールド。そんなファンシーな店じゃないだろう。
……カリナって、こういう中二病的なのが好きだったっけ?
俺は不思議に思いながらも、彼女のあとを追っていく。
近寄れば、先に店頭についたカリナが、1つの商品を手に取って俺に見せて来た。
「ねえねぇ、ゼンキチ。ほら、これ。とっても綺麗だと思わない?」
そう言って、彼女が差し出して来たのは刃物だった。刃先に滑らかな曲線があるので、包丁というよりも、果物ナイフに近い見た目をしているが、案の定、そっちについての造詣も持たない俺には、それ以上の感想が出て来ない。
「……そうだね」
お願いだから、刃先を俺に向けないで欲しい。図工の時間に、冗談半分で彫刻刀を向けられたときのトラウマが、よみがえって来ちゃうからさ。カリナに他意はないんだろうけど。
「意匠が凝っているよね」
「あぁ、うん。よかった。そうだよね。そっちがメインだよね」
そりゃそうだ。カリナが馬鹿正直に刃物に興味を持つわけがない。危うく、カリナを中二病の同士と認定して、いらんことをいうところだった。……まぁ、それはそれで俺が恥をかくだけだから、別に構わないのか。
柄の部分に掘られたボタニカルな模様は、溝の深さや素材などをうまく調節しているようで、光を反射した花の部分だけが、きらきらと輝いて見える。色彩にもこだわれば、もっと美麗な装飾品として仕上がりそうなところだが、刃物としての意地までは、さすがに捨て去れなかったらしく、男っぽい見た目は維持されたままだった。
遅れてやって来たコズホゥゼは、短刀に夢中になっている俺たちのことを、ゆっくりと交互に見つめては、やや不満げに言葉を発する。
「場所の見当がついたのなら、先に呪術師に会っちゃったほうがいいと思うんだけど……」
「ちょっと待って! 今、これだけはどうしても、頭の中にちゃんとしたイメージを入れておきたいの」
カリナは店先に食いついたまま離れようとしない。
下手に引き剥がして暴れられては困る。俺以外に怪我をしなさそうなのが、なんとも不思議でならないが、たぶんカリナ自身も傷を負ってしまうだろう。
「どうするよ、ゼンキチ様?」
「どうしよっかね」
急いで会わなくても大丈夫だと俺は思うのだが、コズホゥゼのことを考えると決断しがたい。
そんな俺の背中を押したのは、やはりドロシーだった。
「別にカリナさんの好きにさせていいんじゃないですか? この間に、店主に先ほどの建物で合っているのか、尋ねましょうよ。ここも妖刀を扱っているみたいですから、本当に呪術師がいるのであれば、まさか知らないってことはないでしょうから」
「そうだな、ドロシーの言うとおりだ。……それで文句はないかい、ゼンキチ様」
「うん。全く」
……やっぱり呪術師がなんなのか知らないのって、俺だけなんだ。分かっていたけどさ。あと、さらっと知らない用語が増えたし。何、妖刀って?
不本意ながら、自力に期待できない俺の場合、世界攻略指南を使わなきゃ、いつまでも埒が明かない。店主のほうへと向かって歩くドロシーたちを横目に、俺は店内を物色するふりをしながら、適当な品物を手に取ってスキルを発動させていた。
物品を手にしていれば、それに対する知識が足りていなくとも、該当の項目の書かれたページを開けるというのは、グラントリーの札で学んだことだ。俺だって成長していないわけじゃない。……ごめん、今のは嘘。
一応、この世界の常識について理解する、という扱いのようで、名前を事前に把握しておく必要はないらしい。一般常識にしては、ちょっと詳しすぎるような気もするが、そこはスキルならではのおまけってやつなんだろう。
記載されている説明を、眠くなりつつもどうにか読み進めれば、ドロシーの言っていた内容が、ほとんど正確であったことを俺は理解していた。
……なるほどね。確かに、商品の説明に妖刀ってあるや。
じゃあ、肝心の妖刀は何かと、さらに深掘りをしていく。
解説が複雑で、俺の集中力が一瞬で切れたが、平たく言えば、呪詛で作られた武器のことらしい。呪いだから、呪術師と関係があるってことなんだろう。
……あれ? それだと、魔動具と何が違うんだろう。
「……。眩暈がしそうだ」
自分のことであれば、間違いなく投げだしていたところだろうが、コズホゥゼのためだと思ってどうにかこらえた。
魔法と呪詛の違いについて、世界攻略指南を読み進める。
ほどなくして、呪詛について網羅的に書かれているページを、本の端に見つけることができた。
≪肉体エネルギーを消費して成就させる奇跡であり、汎用呪詛と特殊呪詛に区分される≫
やばい、初めてかもしれない。
1文字も理解できなかった。
……コーザって、俺の頭の出来を分かったうえで、世界攻略指南のスキルを渡して来たんだよな? 大丈夫? テキストの難度が生徒と全然合っていないよ?
もう俺は泣きそうだったが、要点だけは掴もうと必死だった。っていうか、実際、ちょっと泣いた。
理解できた範囲で要約を試みるなら、魔法と呪詛の違いは、厳密な意味での魔動具にあたるものが、ないという点になるんじゃないだろうか。
妖刀は魔動具っぽいが、魔石を使わない。
そのせいで、武具の形をしていても、魔力に相当する何かが必ず消費されてしまうんだ。……あれだよ、イメージは『りりょくの杖』的な感じなんだと思う。
「参ったな、ホントに」
この感じからして、消費されるのは魔力じゃないんだろう。
俺自身、魔法を使ったことがないのもあって、魔力自体もいまいちピンと来ていないのだから、本当に難しい話は勘弁して欲しい。世界攻略指南の解説では、肉体エネルギーということだったが、なんとも不穏な響きだ。さらっと言っているが、これって要するに命に直結するってことじゃないの? 俺が馬鹿すぎて早とちりしているだけ? もう誰か、代わりにおいらに教えてくれよ。
溢れそうになった涙を、衣服の袖でごしごしと拭っていれば、タイミングよく、店主に話を聞いたドロシーたちが戻って来ていた。
「間違いないってよ」
「呪術師が住んでいるという話でしたね」
彼女たちの背後から、商機を逃すまいと店主も俺のほうに歩いている。
「呪詛に興味があるってんなら、あんたたちも何か買っていかないかい?」
「えっ? でも……」
これ、さっき学んだやつだと、俺はすぐに反応しそうになったが、寸前で思いとどまる。
とりもなおさず、確信が持てなかったんだ。
肉体エネルギーという単語は、ワールドの一般人にも伝わる用語なのかと、俺は言葉に詰まってしまっていた。
均分転移がその好例だろう。
概念としての魔物の異常発生は存在しても、それは均分転移という用語で表されるわけではない。加えて、その仕組みだって世界攻略指南でもなけりゃ、不明のままだろう。同様に、肉体エネルギーは、ワールドを解説する、世界攻略指南ならではの用語なのか、そこが俺では判断できなかったのだ。
不思議そうに俺を見つめる店主に促され、どうにか違う言い回しを俺は導き出す。
「えっと……でも、妖刀だと体から力が抜けてしまうんでしょう?」
「恨みの力か。そりゃ多少は必要になって来るだろうけどな。……だが、妖刀はあくまでも武器だぜ? 本場の呪術師とは違うんだ、そこまで大きな代償は要求されないぞ」
僅かでもリスクが上がるのであれば、不要なんじゃないかと思ってドロシーに判断をあおげば、代わりに答えていたのはスザクだった。
「……悪くはありませんが……。どれも私にとっては、あまり脅威とは思えません」
「「でしょうね」」
思わず、俺とドロシーの声は重なっていて、それを耳にしたスザクは、ぎょっとしたように閉口していた。
残念がったのは店主も同じで、小さく息を吐いたあとに商品の自慢を始めて来る。
「……そうか。必要になりそうだったら、すぐに寄ってくれ。妖刀の利点は、誰でも扱えば一定の効果が見込めるところにある。魔法だと、それを覚えているやつしか使えないからな」
なるほど。
それなら魔動具よりも、虎獟とかに近いんだろうか。
「魔剣みたいなものってことっすか?」
「そうだが……魔剣は値段が高すぎる。一般の冒険者が、簡単に手を出せるような価格じゃないだろう? 後衛や補助職であれば、なおさら武具の調達は後回しにされがちだ。そういった支援者であっても、非常事態に備えておけるっていうのが、妖刀の一番の魅力だと俺は思っているぜ。……そういう意味じゃ、お前さんのパーティーには、ずいぶんと女性が多いようだが?」
正鵠を射ているとは思うが、あいにくと俺には購買の意思がない。体に何が起きるのかがはっきりとしていない状態で、無謀な賭けに出られるほど、俺は勇敢じゃなかった。
俺に買う気がないことは、ドロシーも察してくれたようで、ドローレスさん譲りの知識でもって、店主に力強く抗してくれる。
「それなら、人工魔剣という選択肢もあるのでは?」
思ってもみない反論に、店主は面食らったように口を閉ざしたが、それもほんの一瞬だ。こういった拒絶には慣れているようで、ドロシーの発言にあった問題点を、すぐに指摘していく。
「……さすがはメイド、知識人だな。確かに人工魔剣なら恨みの力とは無関係に、出力が保証されるだろうよ。だが、人工魔剣は魔動石を食いすぎる。いくら安めの本体を買ったところで、その消費は馬鹿にならないだろうぜ」
「えぇ。ですから、当家の主人は、私たちメイド2人を雇えるほど、資産には困っていないという意味です」
あまりに直截的な言い方に、今度は店主のほうがぎょっとしてドロシーを見返した。次いで、俺の肩に手を置くと、まるでお前も苦労しているんだなとでも言いたげに、店の奥へと戻っていった。
だが、実際のところ、今の対応はドロシーが普段ではしないような、断固たる態度だった。
身内にはあたりの強いドロシーだが、対外的には、一応は波風を立てないようにふるまっていたはずだ。なぜ、今回は厳しい対応をしたのかと、俺が疑問に思っていれば、その視線に気がついたドロシーが、呆れたように眉を曲げていた。
「はぁ……。これから呪術師に会いに行くのですから、妖刀を持っておいたほうがいいのかどうかは、その方にお話を伺ってからのほうが、いいのではないかと思ったのですが、どうしますか? とりやめますか?」
「すいませんでした。素晴らしい手際です」
ジト目を向けて来るドロシーに、俺は平謝りをするしかない。そうして、俺がメイドに謝罪をくり返していれば、カリナのほうの作業も終わったようで、俺たちは職人街の入り口へと戻っていたのだ。
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次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




