71(丙編) 俺、犯人たちを捕まえ、勇者に思いを馳せる。
風邪が長引いています……。丁編(71-4話)はもうしばらくお待ちください。申し訳ありません。
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ゼンキチが寝静まったあと、ガールズたちは、ソーニャの部屋に集まっていた。コンクールの準備に忙しいカリナはともかくとしても、コズホゥゼの同行が確定したので、早めに距離感を縮めておこうと、ソーニャが企画したためだった。
ソーニャのベッドに腰かけるコズホゥゼに、ドロシーが髪を耳にかきあげながら尋ねた。
「以前、天教会の元聖女だって言っていましたけど、それってラトリンノ天教会のことですか?」
「そうよ。よく知っているわね」
感心したようにコズホゥゼが答えるが、対するドロシーは微妙な反応だった。
「……世界で一番有名な教会の1つじゃないですか。むしろ、天教会なら、ラトリンノ天教会以外を知りませんよ」
「そう……なんだ。ごめんなさい。私がいたところって、ラトリンノ天教会のほかにも、天教会がいっぱいあったから」
聖女としての生活が長かったコズホゥゼには、一般的な感覚が分からない。困ったように笑うコズホゥゼに、ドロシーは口を真一文字に結びながら応じる。
「でしょうね……」
ソーニャが2人の会話に割って入ったのは、このタイミングであった。
「俺の町に来ていたのは、どこの人間だ?」
教会が町に存在していないことと、信心深い人間が不在であることは、必ずしも一致しない。小さな集落では、教会を立てられないこともままあるし、適切な人材が不足していることも多い。それを補うために、臨時で大手の教会から、人員が派遣されることがある。
巡礼だ。
ほかでもなく、ゼンキチがロングフェローと出会ったのは、この巡礼によるためだ。
ソーニャは渚瑳の町に対する巡礼が、どこの教会によるものなのかを、コズホゥゼに尋ねたのである。
「私に聞かれても……どこの町?」
「渚瑳の町」
常識を知らないコズホゥゼに、地名だけを伝えたところで意味がないだろうと、ドロシーが即座に言葉をつけ足す。
「ネモフィラ地方にある南部の町です。雪乃の町には巡礼がなされないので、信仰に熱心な方は、渚瑳の町まで行くんですよ。そこれそ、クレバリアス家の主人もそうでした。私がお屋敷に呼ばれた頃には、すでに足腰を弱めていたのであれですけど、ベロニカさんなら、同伴したことも何度かあるんじゃないですか?」
思いもよらない内容で発話を促されたベロニカは、後輩メイドの問いに、少しだけ考えこんでから答える。
「そうさね……1~2回くらいはあったっけね?」
「おい! 俺の質問はどこに行った?」
憤りを露わにするソーニャに、コズホゥゼが苦笑して応じる。
「あぁ、はいはい。北方大陸の南部でしょう? 別に、管轄とかが決まっているわけじゃないんだけど、巡礼に積極的なのって限られているのよね。たぶん、ルミステザ聖教会や、セノーラヤ勇教会のどっちかだと思うよ。でも、絶対じゃないからね? 来たのが聖女なら、ルミステザ聖教会だと思う」
コズホゥゼの詳しい説明に、ソーニャが感心するようにうなずく。
そして、その解説がつまびらかであるがゆえに、ソーニャは別の疑問を抱いてしまう。
「へぇ……。そもそも、なんで巡礼なんてものがあるんだよ」
途端に、ドロシーがため息をついた。
「あぁ……。ソーニャさん、それを聞いちゃうんですか」
簡単な問いでありながら、複雑な背景が絡んでいる内容ゆえに、コズホゥゼは困ったように笑う。
「まぁ、ちょっと前まで本職だったし、いいよ。1から説明しようか?」
「いいです。やめましょう。ソーニャさんに分かるわけがありませんから」
気を利かせて解説をしようとする元聖女を、ドロシーは食い気味に止める。
「おい、ドロシー。今、お前俺を馬鹿にしたな?」
突っかかるソーニャを、横からベロニカがたしなめた。
「……歴史の勉強が多少入るが、それでもいいのか?」
武闘派とはいえ、いくらかの教養を持つベロニカは、教会側の抱える事情を、常識以上に理解していた。もっとも、これはベロニカが特殊だったというより、クレバリアス家の主人が、そういう趣味を持っていたからといってよい。
いずにせよ、ソーニャは、ベロニカの発言に露骨に顔をしかめた。
「いや、俺は感覚派だからな。一言で述べてくれ」
「勇教会に聖女がいないから」
「分かりやすい! お前、姉貴って呼んでいいか?」
直截な物言いにソーニャは感動していたが、一方のドロシーは、純粋な知識階級であるがゆえに頭を抱えていた。
「……そんなに雑でいいんですか? 第一、ソーニャさんは、勇教会がどこを指しているのかだって、あんまり分かっていないでしょうに」
「あぁ、もう! これ以上、私にどうしろっていうのよ」
そんなに文句があるのならば、代わりに自分で説いてくれと、コズホゥゼはドロシーに抗議するが、さすがに本職でない彼女に、そこまでの背景を述べられるほどの知識はなかった。
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翌朝、俺は広場へと向かっていた。昨日とは一変して、ドロシーたちが打ち解けていたことに少し驚いたが、おおかた俺が寝てしまった間にでも、仲良くなったのだろう。決して、これは意図的に、俺が仲間外れにされたわけじゃないはずだ。……えっ、嘘だよね?
みんなの関係以上に、俺は大勢の住人たちが広場に、集まっていることに仰天していた。
……何かイベントでもあるんだろうか?
俺を誘ったソーニャの姿をきょろきょろと探しながら、俺は横にいるドロシーになんともなしに話しかける。
「ずいぶんと人が多いんだね」
「見世物ですから」
広場の中央を見渡せるように、高台のほうへと俺を誘導しながら、ドロシーが応える。
「見世物? なんの?」
ドロシーの言わんとしていることが、俺には全く分からなくて、オウム返しで尋ねてしまう。つくづく自分のことが馬鹿だと思った。昨日の今日で、その儀式に俺は思いいたらないんだから、さすがにマヌケが過ぎる。
「えっ……」
息を飲むドロシー。
そのまま俺の腕を掴んで、ただちに反転を始めていた。
「ご主人様、宿屋に戻りましょう。きっと見ないほうが――」
だけど、俺を引っぱるドロシーの言葉を遮って、コズホゥゼが解説していたんだ。
「何って……刑罰の執行でしょう? あんまり詳しく内容を聞いていないけど、人死にが出ていないってことだったから、小指を切り落としておしまいだと思うよ」
すかさず、ドロシーがコズホゥゼのことを睨みつけていた。
俺はというと、コズホゥゼに聞かされた言葉が、自分の常識とうまく噛みあわなくて、ちょっとだけテンパっていた。額から変な汗が出て来る感じがしたんだ。
「指……えっ?」
ドロシーのほうを見ながら、コズホゥゼが俺にうなずく。
「もうゼンキチには禊之儀も見せちゃっているんだし、別に神前契約の説明をしたって、今さら混乱なんかしないと思うよ」
「そういう意味じゃ……」
どうにもドロシーにとっては、見当違いの返事だったようで、疎むようにしてコズホゥゼのことを見返していた。
(この子はどっちかっていうと、知りたくないんじゃ……)
余裕のなかった俺は、ドロシーに構わずにコズホゥゼに聞き返す。
「えっと……刑罰で指を切り落とすことが、その神前契約っていうのに関係があるの? たぶん、それって教会の話だよね?」
俺の問いに、コズホゥゼはなんでもないふうにうなずいている。
「そうよ。伉配之儀――つまり、結婚しようとしている人たちが、聖女の力を借りて結ぶのが神前契約。これだけが神前契約じゃないんだけど、話を簡単にするために今はそう思っておいて。自慢じゃないけど、伉配之儀は、私も1回だけ執り行ったことがあるの」
「う、うん……」
コズホゥゼの話している内容が、俺のした質問とどう関係しているのかが分からず、俺は曖昧に首肯していた。
(聖騎士になるための聖誓も神前契約なんだけど……きっと、こっちはまだ説明しないほうがいいんだよね? ドロシーは嫌がっているみたいだし。でも、ゼンキチってドロシーが心配するほど、うつけじゃないと思うんだけどな)
ちらりとドロシーのほうを一瞥してから、コズホゥゼが話を続ける。
「簡単にいうと、相手が浮気したり不埒なことをしたりしたときに、天罰がくだるようにするのが伉配之儀なの。そのとき、相手にどのくらい強い縛りを与えたいかによって、契約を結ぶ指の位置を、変えるっていう習慣があるのよ」
俺は自分の手を見つめながら、ぽつりと呟く。
「指……」
「そう。親指から順に、ほかの人と話しちゃダメとか、手を握っちゃダメとか、ハグをしちゃダメとか、チューをしちゃダメとかね。一応、聖女の名のもとに執り行う儀式だから、相手が約束をたがえたら、ちゃんと指は吹き飛ぶわ。普通は、儀式が手間だから、そんなにしっかりとしたものはやらないんだけどね。ほら、つい先日の禊之儀でも、結構な時間がかかったじゃない?」
ようやく、俺にもコズホゥゼの言わんとしていることが理解できた。
左手の薬指だ。
日本でも婚約したとき、もしくは結婚したときに、相手の左手に指輪を贈る習俗がある。なんでも、これは薬指が、心臓と繋がるものだと考えられていたかららしい。だから、右じゃなくて左手っていうわけ。
「左手の薬指ってこと?」
「あんまり左右は関係ないかな。でも、左手の人も中にはいるよ。とにかく、そういうわけだから、どうしても相手に指があるのかどうかっていうのは、見ちゃうものなのよ。恋愛の場面だと特にね――っていっても、私も聖騎士から聞きかじったことしか、知らないんだけどさ」
恥ずかしそうにコズホゥゼが側頭部をいじるが、俺はそれどころじゃなくて、彼女にうまく返事をできない。
「それって……あの女の子も?」
冷静になれない俺は、ウィロウという名前さえも出て来なかった。
俺が何を言いたいのかは、すぐにドロシーが察してくれる。
「ギルドの話では、町からの追放だけで終わるみたいです。男性2人については、小指と薬指の切断もあります」
昨日、ダリオロの言っていた追放という言葉の意味を、やっと俺もすべて把握した。
正直、カルチャーショックだった。
こんな簡単に身体刑が行われるなんて、思ってもみなかったんだ。
そりゃ、俺の生きていた現代にだって、国によっては、残酷な刑罰を科しているところもあった。
でも、はっきり言って、それらは時代遅れだ。罪を認めることが、決定的なものとされていた時代の遺物――拷問して自白をさせるっていう、魔女狩りの時代の悪しき遺物なのであって、自分の行ったことに対するけじめとは、全く関係がない。第一、十分に科学の発達した時代に、行うようなものじゃないだろう。
俺は馬鹿だから詳しいことは分からないけど、もっと非の打ちどころのない捜査方法があるはずだし、それに見合った刑罰も存在するはずだ。おまけに、ワールドに限っていうなら、正真正銘、魔法の実在する世界なのだから、魔女狩りもクソもなかった。
もちろん、全部をやめろとは思わない。
俺だって、あの日、うんこ野郎のケンジを殴ったし、殺そうともした。できなかっただけでね。そうするだけの理由が、ケンジにはあったからだ。
だけど、サベージたちはそうじゃない。
希勇の志士がやったことなんか、たかだが水車を1基破壊しただけだ。人を殺したわけでも、ましてや相手の指を切り落としたわけでもない。少しの努力で作りなおせるものを、派手に壊しただけだ。
相手をぶん殴ることと、相手の指を切り落とすこと。
修復可能なものと、不可逆的なもの。
周りがカバーできるものと、一度きりでどうしようもないもの。
その違いが、刑罰という表現をもって、こんなにも不明瞭に行われる世界に、俺はものすごく怖くなってしまったんだ。……そりゃ、あたりどころが悪ければ、殴って死ぬこともあるだろうけどさ、そういう話と次元が違うことくらい、言わなくても分かるだろう?
俺は心のどこかで、ワールドのことを、ありふれた異世界なんだと、甘く見ていたのかもしれない。
正直、耳を塞いでしまいたかったのだが、コズホゥゼがさらに説明を続けて来る。
曰く、刑罰によって与えられる傷は、戦士たちの名誉の負傷と区別するべく、第2関節を基準とするのだ、と。
魔物と戦うことが当たり前の世界なので、残念だけど、生活の中で指を丸ごと失ってしまうというのは、往々にしてある。ただ、身体刑の場合には、犯罪をしたために指を失ったのだということが、一見して分かるようにするべく、少しだけ指の根元を残すのだ。
もちろん、戦いで負った怪我に見せかけるため、あとから指の全部をそぎ落とすことは可能だろう。
でも、ここはワールド。
現代日本じゃない。
ろくな麻酔も存在していない世界で、自ら進んで指を削るのは、生半可な覚悟で臨めるようなことじゃなかった。
俺はもう、広場のほうなんか見たくなかった。汍瀾のときでさえ嫌な気持ちになったのに、こんなのは分かりきっている。
せいぜい汍瀾のときとは違って、希勇の志士は、分かりやすく私利私欲で暴走したので、いくらか自分を慰めやすいだけだ。
なんでこんなところに連れて来たんだと、俺はソーニャを恨めしく思ったのだが、彼女はぶれない。
「どんな結果になろうと、最後まで関わるのが筋だろう? 兄貴は、そういう気概で臨んだんじゃねぇのかよ?」
「……」
何も言葉を返すことができず、俺は黙ったまま広場のほうに視線を向けた。
まもなく、捕らえられたままのサベージが、群衆に向けて声を張りあげていた。
「この世界には勇者が必要なのだ! なぜ、誰も気がつかぬ? なぜ、誰も現実を見ようとしない! ライ=カーが魔物の棲息地に踏み入り、すべてのモンスターを倒してくれるのか? 北菔鳳が、襲い来る魔物の全部を退けてくれるのか? 断じて違う! 勇者だ。勇者に率いられた精鋭のみが、世界平和を実現できる!」
思い出すのは、往年の勇者才蔵が、各地に自分の仲間を配したという話。
はっとした。
そのとおりだと思った。
俺だけじゃない。ワールドで生まれた人であれば、きっと全員がサベージの言うことを、肌で理解している。だけど、ここで暮らす人たちにとっては、あまりにも当たり前の事実で、本気でそれと向きあうような、精神的土壌がないんだろう。
サベージは嘲笑する市民に向かって、さらに叫ぶ。
「俺たちには勇者が必要だ! それが、なぜ分からない! なぜ、誰も声を上げようとしない? このような生活を続けていてはダメなのだ。どれだけ同じことをくり返したところで、勇者が現れなければいつまでも同じことだ! 俺たちが今も、勇者を厚く信仰していること。これを天に示す必要がある! そうでなければ、勇者は決して遣わされない」
「うるせぇ、さっさと始めろ!」
威嚇するような市民の野次に、負けじとサベージも怒鳴り返す。
「北菔鳳では勇者になりえない! 俺たちには、当時の生活に立ち返る義務があるのだ! 和鈴様は水車など用いてはおらぬ!」
そんなサベージを黙らせるようにして、刑罰の執行が始まる。
長机のような台の上に、サベージたちが上半身を押しつけられながら、並ばせられていく。血管が浮き出るほど強く握られた拳を、2人がかりでほどかせて、その節くれ立った指に向けて、小ぶりの斧を力いっぱい振りおろす。
指が宙を舞うだとか、そんな劇的な光景はない。
ただ、ダンという金属が木にぶつかる音があるだけだ。それでも俺の耳には、ぐにゃりという聞こえないはずの、骨の潰れる音が届いたような気がした。
……そんなにダメなことなんだろうか。
呆然と前を見つめたまま、俺は思う。
「……」
水車の破壊はもちろん悪いことだ。たとえ、それが今は使われていないものだったとしても、勝手に壊していいことにはならない。
だから、希勇の志士は確かに方法を誤った。
だけど、それは勇者を願うサベージの志まで、間違っていることにはならないんじゃないのか。
往年の勇者は、どうして各地に自分の伴侶を向かわせたのか?
決まっている。
そこに均分転移があるからだ。
瘴気の濃度に応じて、勝手に魔物がテレポートされるという、悪意に満ちみちた仕組みがワールドに存在する限り、魔物を全滅させるまで、この世界に恒久的な平和は絶対に訪れない。サベージの言うように、ワールドには勇者が必要なんだ。
そして、この均分転移の存在をはっきりと自覚しているのは、ひょっとすると、この広いワールドで俺1人だけなのかもしれない。伝説の勇者でさえ、地方の守備力を上げるっていう対症療法でしか、これに抗うことはできなかった。
敗北したんだ――世界の真理に。
勇者でやっとの現象に、一般市民が刃向かおうとしても無理だろう。
焼け石に水だ。
それじゃあ、勇者を願うサベージたちが、間違っていないのだとしたら?
この世界に勇者が必要なのだとしたら?
魔物を全滅させる役目を持っているのは、ほかでもなく、ワールドの現象を理解している人間その人に、なりはしないのだろうか。
……なれるのか、この俺に。
中二病のヒーローではなく、本当に本物の勇者に?
「これから、あの3人はどうなるの?」
分かりきったことを俺はドロシーに尋ねていた。たぶん、勇者の問題から目を背けたかったんだ。
「通例どおりなら、傷の治療を終えたあとに、町から追放されるでしょうね。雪乃の町みたいにドラ=グラがいると、ちょっと複雑なんですけど……。ここには自治ギルドしかいないようなので、特に何もありません。単に、彼らが和鈴の町に戻って来たら、ぼこぼこにされるだけですよ」
まるで指の切断がイベントのピークだったかのように、市民たちが各々のしていた作業へと戻っていく。
薄情だと思った。
今回の騒動と無関係な人間にとっては、罰を受けたらチャラになるんじゃないのか?
大抵の市民にとって、希勇の志士は、ちょっと不思議な隣人くらいにすぎないはずなのに、あまりに薄情だと思った。
本当に大変なのは、これからだろう?
「ドロシー。……何枚か金貨を出して」
「渡しに行くつもりですか?」
驚きに目を見開いたドロシーが、俺に怪訝な視線を向けていた。
「うん……もう十分だろう? これ以上はやりすぎだよ。コズホゥゼの言うとおりなら、たぶん恋愛だって、この先できなくなっちゃうんだよ」
「それは、そうかもしれませんが……」
言い淀むドロシーに、コズホゥゼが加勢する。
「私もお金をあげちゃうのには反対だな。あの人たちって、勇者の過激な信者なんだよ? ゼンキチ、ちゃんと分かっている? 勇教会だって迷惑しているの」
俺はとっさに、コズホゥゼを黙ったまま見つめてしまった。教会を逃げるようにやめた人間が、今さら教会の肩を持つのかと思ってしまったんだ。
「ごめん、今のは……俺が意地悪だった」
いくら苛ついているからといって、女にあたるのは最低だろう。
気がついていないのか、それとも意に介していないのか。いずれにせよ、コズホゥゼは肩を竦めて首を振る。
「別にいいけど」
「分かった。じゃあ、金貨じゃなくて銀貨でいいよ。せめて、道中の路銀くらいは渡したい」
これ以上は、無益な言い争いになるだけだと思ったのだろう。コズホゥゼが口を開くよりも先に、ドロシーがそれを遮っていた。
「まぁ、強いられていた女性のこともあります。それくらいはしたほうが、女性のためかもしれないですね」
反対しづらい言い方をしたドロシーに、コズホゥゼが渋々と同意を示す。
広場からは人がいなくなっていたので、希勇の志士に近づくのは簡単だった。もちろん、俺たちがすでにプロ=ボリと、顔見知りだったっていうのも大きい。
接近する俺たちのほうに顔を向けたサベージが、独り言ちるようにして呟く。
「コズホゥゼ……」
思ってもみない発言に、俺は驚いていた。
「知り合いなの?」
慌てて彼女に尋ねてみるが、コズホゥゼは困惑するように首をぶんぶんと横に振る。
「いや……私のほうに覚えはないんだけど」
サベージが一方的に知っているだけなのか。元々、コズホゥゼは聖女だったわけだし、彼女のことを覚えていても、不思議じゃないのかもしれない。
「なんの用だ?」
切られた指を押さえながら、不審げに俺のことを男が見つめる。
「これ……」
言葉に詰まった俺は、ほとんど無言で手を差し出していて、それを見かねたドロシーが、横から銀貨を奪い取って、手短に説明してくれた。
「そちらの女性が、一緒に追放されるのを憐れんでのものです」
淡々と話すドロシーに対して、サベージが苦々しげに鋭い視線を向ける。
「……お前らなんぞに心配されずとも、ウィロウは立派な希勇の志士だ」
サベージの後ろから、男が同じように痛みを我慢しながら口を開く。
「まぁ……もらっておくほうがいいんじゃないですか? 何かと……ね」
仲間に諭されたサベージが、渋々と了承して、ドロシーの手から路銀を引ったくった。
簡単な治療を施されると、希勇の志士たちは追い払われるようにして、和鈴の町から去っていく。
本当に町から離れたのかを確認するため、希勇の志士に最後までつきそっていたのは、やはり自治ギルドであるプロ=ボリの人たちだった。
なんだか、俺は昨日の捕り物以上に、体の疲れを感じてしまっていた。
コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。
次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




