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71(甲編) 俺、犯人たちを捕まえ、勇者に思いを馳せる。

 本話は長すぎたので、4つに分割します。申し訳ありません。

✿✿✿❀✿✿✿




 その日のうちに、ダリオロは和鈴(かりん)の町にあるもう1つのギルドに、援軍の要請を出していた。名をライネージ=カーネージという。


 和鈴(かりん)の町にあるのはその支部で、主に魔物を討伐することを業務としていた。

 北方大陸における最大手のギルドは、とりもなおさずドラ=グラと、このライネージ=カーネージだといってよい。広範の冒険者たちに、魔物と戦ううえでの目安を示す魔物討伐協会も、ほとんど北菔鳳(ほくおう)とライ=カーによって成り立っている。正真正銘、ドラ=グラに匹敵する巨大なギルドだった。


 和鈴(かりん)の町のライ=カー支部は、ダリオロからの奇妙な依頼に、困惑しながらもうなずいた。とりもなおさず、それは犯人の確保に、協力して欲しいというものだったのである。


「事情は分かったが……我々の専門は魔物退治だ。対人戦では、あまり役に立てんぞ?」


 それが単なる謙遜か、それとも事実を指摘したにすぎないのか。ダリオロには分からなかったが、どのみち心配は無用だろうと、苦笑を浮かべて首を振る。


「突っ立ってくれているだけでも、逃げる側からしたら相当な脅威だよ。そちらの人員を、警備として配置してくれるだけでも、こちらとしては十分に大助かりだ」


「……その程度でいいならば、喜んで助太刀(すけだち)しよう」

「恩に着る」


 差し出された手を、ダリオロは握り返す。


「気にするな。方法は違えども、互いにこの町を守ろうとする者同士だ。何かあれば、力を貸すのは当たり前だろう」


「……すまない。いつかこの借りは返させてもらう」


 義に厚いライ=カーの代表に感謝しながら、ダリオロはギルドをあとにする。

 まさか、このときの負債が、倍以上の大きさになってしまうことなど、ダリオロはおろか、ライ=カーの人間でさえまだ知らなかった。




✿✿✿❀✿✿✿




 コズホゥゼによる、悪魔の提案があったからというわけじゃないが、俺のほうでも、希勇(きゆう)の志士確保に向けての準備を始めていた。プロ=ボリには、手助けが不要だと断られてしまったが、やはりカリナのためにも、事件はさっさと解決して欲しい。


 だが、肝心のタイミングが俺には分からない。俺の頭では、プロ=ボリがいつ確保に動くのか、そこまで推測することができなかったのだ。


「どのくらいで逮捕するつもりなんだろう。早くしないとダメだと思うんだけど、応援を呼ぶって言っていたし……今日中にはしないつもりなのかな?」


 現場での捜査が終わった俺たちは、宿屋に戻って来ていた。ドロシーの知恵を借りようと、俺は彼女に疑問を投げかける。


 作業の手を止め、硬貨の整理を中断したドロシーが、俺のほうに軽く顔を向けた。


希勇(きゆう)の志士は、大半のメンバーを逃がしています。残った少人数では、何をするにしても、夜中にしか行動できないでしょう。それはこれからも変わらないことですし、自治ギルドの人たちも、その点は承知していると思います。だから、今日の夕方には、捕り物が始まるんじゃないですか?」


「なるほど」


 相変わらず、頭の回るドロシーに感心しながら、俺は取り逃がした場合に備えて、ひそかに水車のほうにも、ソーニャたちに行ってもらおうと計画していた。相手は自分の命と引き換えにしてでも、水車の破壊を実行しようとする凶悪犯だ。どさくさに(まぎ)れて、爆破することだって考えられるだろう。……分かっているよ。本当は、そういう危ないところには、女の子じゃなくて、俺が行くべきなんだ。でも見てくれ、俺のこの貧弱なステータスを。


 せめて俺にできることをしよう。

 日暮れまでには、まだいくらかの時間がある。今のうちに胃に物を入れるべきだろうと、俺はドロシーに再び声をかけていた。


「昨日みたいに何か手伝う?」


 落ち着いて待っていることができそうになかったので、俺はそういったのだが、すげなくドロシーに断られた。たぶん、俺が役立たずだからだろう。


「ん? 兄貴も調理をしたのか?」

「そうそう」


 言いながら、当時のソーニャは、タマーラの知り合いに稽古をつけてもらっている最中で、コズホゥゼと出会ったときのことを、全く知らないのだと思い出した。


「へぇ、いいな」

「あれ? ソーニャって料理が得意だったっけ?」


 そんなイメージがなかったので、思わず俺は尋ねてしまう。

 だが、ソーニャが言いたかったのは、俺が想像したのとは別の部分らしい。


「いんや、全然。俺がいいと思ったのは、そうやってみんなで何かすることのほうさ」


 変わった部分を羨ましがるソーニャに、俺は少しだけ罪悪感を抱いてしまう。もっとも、あれはドロシーからの罰則という側面が強かったのだし、俺にしてみれば、集団での作業ほど辛いことはない。


 だが、ソーニャがそれを好むというのであれば、みんなで1つのことをするという機会を、なるべく設けたいと思った。このメンバーの中では、たぶんソーニャと一緒にいる時間が、一番短いはずだからだ。


 安定のホワイトシチューでパンを食べ、体の中に活力を注入した俺たちは、日没を見計らって、希勇(きゆう)の志士の拠点へと向かう。こちらのメンバーはドロシーとベロニカ。ソーニャのほうにスザクを同行させ、危ないので、コズホゥゼは宿屋で待機という形だ。


『……置いてけぼりにしたら、容赦しないから』


 そう言って、コズホゥゼが渋々部屋へと戻っていったのを覚えている。今から考えると、なんとも恐ろしい発言だ。


 ほどなくして、俺たちは大きめの白い建物の前に来ていた。ここが希勇(きゆう)の志士の拠点になる。詳しい場所が分からなかったので、ダリオロの現在地を参照したのだが、間違いなかったようだ。俺たちの到着に、ダリオロが苦々しい表情を浮かべていたが、ルッツと女のほうは好意的なようで、ドロシーに手を振っていた。……俺の記憶が確かなら、ついさっき、ドロシーとは言い争ったはずなのだが、もう切り替えたということなのだろうか。


 そのほかに、知らないメンバーが2人。遅れて、さらに1人の人員が加わると、ダリオロがみんなにうなずいてから、建物の扉を(たた)いた。


 激しめのノック。

 だが、返事は何もない。()()()に、中から話し声のようなものも聞こえて来るのだが、その内容までは俺にも分からなかった。


『誰だ?』

『プロ=ボリだな』

『人数が多い……これは様子見じゃないな。戦闘になるぞ』

『いったいどうして……』

『考えるのはあとだ、サベージ』

『あぁ。ウィロウ、準備しろ。お前は1人で水車の破壊に向かうんだ』

『これだけの人員を回しているなら、向こうの警備は少ない。肩の力を抜いていけ』


 殴るようにして、再びドアを(たた)いたダリオロが、周囲の仲間に目配せをした。これ以上待っても応答がないようなら、扉を壊して突入するという腹づもりなのだろう。


 その空気が、はたして中にいる人間にまで伝わったのか。それは定かじゃなかったが、こちらの威勢をそぐようにして、まもなくドアが内側からゆっくりと開かれた。


「……こんなに大勢で、いったいなんのご用ですかね?」


 男が首を出してくれたので、俺にも顔を確認することができた。すぐさま、世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)の情報を更新しようと、俺はダリオロとの間に割って入っていた。


「こいつの名前、分かる?」


 ダリオロが不審げに俺のことを見返したが、それでも答えてはくれる。


「たしか、サベージだったはずだが……」


 反転。

 素早くドロシーの陰に隠れて、世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)を――。


「ご主人様、いつもこそこそと何をされているんですか?」

「……えっ?」


 ドロシーの声に、俺は口から心臓が、飛び出そうなくらいに驚いていた。実際、ちょっと何か得体の知れない物が、喉を()いあがっていた。


 確かに、彼女の言うとおりだ。

 スザクであればともかく、ドロシーほど聡明な人間が、何度も行われた俺の不自然な行動を、疑問に思わないはずがない。


 どう言い訳すればいいのか分からず、俺は首が縮こまったまま顔を上げる。だが、俺に見えたのは、ドロシーの滑らかな後頭部――美しく流れる赤い髪の毛だけで、その視線が今も前を向いていることを、すぐに理解できた。


「……。後ろ、振り返らないほうがいいですか?」

「えと、あの……その」


 間接的にとはいえ、自分が(うそ)をついていることを指摘された俺は、ドロシーの問いに答える()()を持っていなかった。「はい」といって白状することも、「いいえ」といって拒絶することも、俺には選べなかったんだ。


(さっき見逃したのに、ここで詰めるのはやっぱりダメですかね……)


 ドロシーのため息。


「……分かりました。今はそれどころではないでしょうから、気にしないことにします。でも、私たちメイドは、仕える相手を見極めないといけないんです。ご主人様も、そのことは忘れないでくださいね」


 それは、ドロシーと出会ったときにも言われた言葉だった。あのときから俺はずっと、自分なりのヒーロー像ってやつに、もとるようなことはして来ていないつもりだ。


 でも――それでも、不羈(イリーガル)の存在だけはひた隠しにしている。

 ここにいるみんなとの関係を築きあげられたのは、ひとえに俺に世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)という、超常のスキルが与えられたからだ。そして、それは文字どおりに、なんの努力もせずに押しつけられたものなのであって、俺が地道に頑張って手に入れた力じゃない。かりそめの能力だ。この(うそ)を引き剥がしてしまえば、あとに残るは、無力な中二病の陰キャだけになってしまう。それじゃ、関係の構築は望めない。


 少なくとも、ユリアーネに成長した姿を見せるまでは、俺には(うそ)をつき続ける必要があるだろうと、どうにか自分で自分を弁護して、ドロシーに応じる。


「うん。いつか必ず俺の秘密を伝えるよ」


 心の中で、そんな未来が来なければいいのにと願いながら、俺は懸命に世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)をめくった。

 サベージのプロフィールに、素早く目を走らせていく。

 希勇(きゆう)の志士での活動には、水車の破壊を3人で共謀していると書かれてあった。

 サベージを押しのけ、ダリオロが力任せにこじ開けた扉の中から見えたのは、サベージを含めて男が2人だけ。


 1人足りていない。


「2人のほかにも、ウィロウっていう女がいるはずなんだけど!」

「探せ!」


 俺の声を聞くやいなや、ダリオロが仲間に号令をかける。

 扉へと近づいてくプロ=ボリ。それが交戦の引き金となった。

 ツアツア火球(ファイヤーボール)

 建物の中から、男がダリオロに向けて火球を放つ。これにはたまらず、ダリオロが回避。

 ダリオロが離れたことで、自由になったサベージが、今度は俺のほうに手のひらを向けて来た。面倒な発言をする俺を、早めに黙らせようというつもりらしい。


 飛来する剛速球――水の塊。

 直撃は免れないかと思ったが、そばにいたベロニカが、それをどうにか払いのけてくれた。なんだかんだ言いつつも、彼女も一応は、俺のことを守ってくれるらしい。


 衝撃の光景を目撃したルッツが、驚愕(きょうがく)に顔を(ゆが)めている。


「マジかよ。あんなのダリオロだってやらないぞ。いったいどんな身体能力をしているんだ?」


 ルッツの言葉に、ベロニカは軽く肩を(すく)ませるだけだ。さすがに、成人男性の2倍という、ぶっ壊れのステータスは伊達(だて)じゃない。心なしか、希勇(きゆう)の志士の男も舌打ちをしたように見えた。


(あのメイド……護衛用の武闘派か。このぶんじゃ、魔法の火はいくらやっても、全部払いのけられると見ていいな。それなら、ルズルズ熾手(エンバータッチ)ならどうだ? 大金を出して買った魔法だ。こっちは文句ねぇだろう!)


 険しい表情をした男が、円卓の上に置かれてあった紙の束を、無造作に(つか)みとる。

 その薄っぺらな紙は、男の触れたそばから発火していって、あっという間にぼうぼうと燃え始めてしまった。


 その様子に、一同が目を見張る。ただの魔法だろうと思った俺は、ここでも理解が遅れてしまった。

 あとで分かったことだが、魔法という超常の現象は、物理的な作用に乏しいらしい。火の魔法なら当然熱いし、物の表面を焦がすこともあるけれど、その炎が隣に移ったり、近くのものを燃やしたりすることは、存外少ないのだという。つまり、何かしらのプロセスが異なるのだ。


 男がやってみせたのは、触れた物体に火をつけること。だから、通常の魔法とは完全に独立した何かだと分かる。早い話が、これはツアツア火球(ファイヤーボール)のように、高い威力によって相手を倒そうというものじゃない。


 揺れる炎が男の手元を離れ、俺とベロニカを囲むようにして輪を作る。

 ……熱い。

 周りを火で囲まれてしまった俺たちに、逃げ場はなかった。


「ほら、ゼンキチ様」


 ぐいっと俺の肩を押したベロニカが、バランスを崩した体を抱きかかえるようにして、俺を持ちあげる。そのまま(おり)から脱出しようと、ベロニカは火の中を歩き始めてしまった。


「……ルズルズ熾手(エンバータッチ)に、こんな効果があったかね?」


 武闘派のメイドは、訳の分からないことを(つぶや)くばかりだ。

 服の焦げる匂いに、俺は(はじ)かれるようにして下を見おろした。あまりにも彼女が平然としているので、突然、魔法が消えたのかと思ったが、そんなことあるはずがない。ベロニカは、単に平気なふりをして、火の中を歩いているだけなのだ。


「ベロニカ!」


 俺は悲鳴に近い叫びを上げたのだが、ベロニカはまるで意に介さなかった。


「うるさいね! 耳元で大きな声を出すんじゃないよ。火傷(やけど)をしたのは私であって、ゼンキチ様じゃないだろうに。こんなの唾つけときゃ、そのうち治るさ」


「そうなの? んべぇ……」


 武闘派のメイドは、自然の治癒力もレベチなのか。そう思った俺は、火の輪から脱出するなり、ベロニカの足下に向けて舌を伸ばしたのだが、返って来た反応は至極まともなものだった。


「殺されたいのか、ゼンキチ様?」


 ……ですよね。俺もおかしいとは思ったんだ。

 俺たちの無事を、苦笑と共に見届けたダリオロが、仲間に対して合図を送る。


「今のは、ラユラユ操火(フレイムダンス)との混合だな……。ホーラスノ!」

「はいよ!」


 昨日の女がダリオロに応じ、手を(たた)いてから地面に触れる。その瞬間、俺たちを追って向かって来ていた炎の動きは、あからさまに緩慢なものとなった。大げさにいえば、止まって見えるほどだ。


 ダリオロが力いっぱい声を張りあげる。


「しばらく互いに魔法は用済みだ! この間に取り押さえるぞ!」


 ホーラスノの手は、魔法に特有の光を帯びていたので、あれはスキルじゃないだろう。魔法の中には、相当に強力なものもあるのだと、俺は魔術の奥深さを思い知らされた気分だった。


 だが、すぐに頭から雑念を追い払い、俺はメイドに声をかける。


「肉弾戦なら俺たちに()がある! ドロシー!」


 負傷したベロニカに任せるのは、酷だろうと思ったからこその発言だったのだが、それは本職の不興を買っただけのようだった。


「おいおい冗談だろう、ゼンキチ様。あいつはグラントリーに会うために必要な、私の大事な足を傷つけたんだ。この足はグラントリーがたくましいって、褒めてくれたものなんだぞ? あいつはグラントリーのぶんまで、私がぶん殴るしかないだろうさ」


「あぁ……うん。よろしく」


 ……なんだろう。ほとんどグラントリーのことしか、話していなかった気がする。

 プロ=ボリの男たちを押しのけて、アジトの入り口へと突撃していくベロニカの背中を、俺はぽかんとしながら見送った。


 ドロシーのほうを振り返りながら、俺はおずおずと彼女に尋ねる。


「……ねぇ、ドロシー。ベロニカっていつからあぁなの?」

「あぁというのは?」


 間髪入れずに聞き返され、触れちゃいけない話題なのかと思った俺は、大人しく引き下がった。


「いや、ごめん。なんでもない」


 だが、ドロシーもまた諦めたようにして口を開く。


「……。元から、若い男の人に対して、過度に親しみを覚える人でしたよ」


 なるほどね。最初からショタコンだったのね。

 ホーラスノの魔法を理解したサベージが、懐からナイフを取り出して彼女に向ける。横から来たプロ=ボリのタックルを、紙一重でかわしたサベージの凶刃が、ホーラスノへと迫った。


「――ッ」


 振りあげられたナイフが、ホーラスノに命中することはない。ダリオロが背後から、サベージの腕を()じっていたからである。


「この野郎!」


 すぐに仲間の応援が駆けつけて来て、サベージは取り押さえられた。

 希勇(きゆう)の志士の確保をほかの人員に任せたダリオロが、ホーラスノへと走り寄る。


「大丈夫か、ホーラスノ! どこにも怪我(けが)はないのか、早く見せてみろ」

「落ち着いて、ダリオロ。私は何もされていないわ」


 ナイフが彼女に接触していないことは、ダリオロ自身が確かめたことだろう。明らかに、それは過剰な心配だった。


 ダリオロもすぐに、自分が慌てていることに気がついたようだ。


「……すまん」


 頭を抱えてダリオロがうつむく。大げさな案じ方だったとはいえ、そこまで落ちこむものではないだろうと、俺は少し不審がった。


 ホーラスノが、ダリオロの肩に手を置いて慰める。


「分かっている。長年、軍人として戦っていたんだもの。心がおかしくなるのは、無理もないことだわ」

「すまない……」


 どうにもプロ=ボリのリーダーは訳ありらしい。

 サベージが確保されたことで、アジトの中へは容易に侵入できるようになった。そちらを見れば、ベロニカがもう1人の男に対して、ちょうど容赦のない裏拳を決めていたところだった。昏倒(こんとう)する男の横で、ギルドの人間が叫ぶ。


「女の子なんていないぞ!」

「裏口は?」

「ダメだ。内側から鍵がかかっている」


 その言葉に釣られるように、俺たちもアジトのほうへと近づいていく。

 表の入り口は、ほかでもない自分たちで封鎖していたのだ。完全な密室。逃げられるような場所はないはずだった。


「……最初からいなかったのか?」


 俺の間違いなのではないかという空気が、現場に流れだす。

 だが、これは世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)で調べた結果なので、情報に誤りはない。そして、プロ=ボリのルッツもまた目ざとい人間であり、希勇(きゆう)の志士が発した(わず)かなシグナルを見逃さなかった。


「いや、そうじゃないな。()()()に今、サベージが笑ったように見えた。……それに、あれだけの魔法を使うんだ。こいつらは2人ともアタッカーだよ。少人数で事を起こそうというのに、補助の人間が1人もいないなんてのは、やっぱり不自然だろう?」


 うなずいたホーラスノがルッツに同意を示す。彼の判断を信頼しているようだ。


「その女が補助役ってわけね」

「恐らくは……。自分じゃ戦えない補助の人間が、1人だけ別のところで待機しているというのは、ちょっと考えにくい。自治ギルドに狙われる覚えがあるなら、なおさらだ。女はさっきまでここにいた……。そして、魔法かスキルかを駆使して、この場から脱出したと見るべきだろう」


 仰天の仮説にホーラスノがルッツを遮る。俺も、そんなことができそうな相手には、1人くらいしか心あたりがない。


「ちょっと! まさか瞬間移動したなんて言わないでしょうね? そんなのハヤテさんと同じじゃ()()のよ!」


 こんなところでも、タマーラの秘蔵っ子は知られているのかと、俺は少しだけびっくりする。それとも、これが王都に近づいている証左なのだろうか。


 だが、ウィロウの使った能力は、瞬間移送(テレポート)並みのものではないだろうと、ルッツは首を横に振る。


「そこまで強力な効果なら、ハヤテさんのときのように、人材確保のために鋩の行方(ディスタンス)が、居場所を探しあてているだろうさ。まぁ、こうして自分たちも、まんまと逃げられているのだから、(けな)せるほど弱いものじゃないだろうがね」


 俺のあとを追って来たドロシーが、すかさず小声で耳打ちをした。


「正解でしたね、ご主人様」


 水車のほうへ、ソーニャたちに向かってもらったことを、指しているんだろう。


「あくまでも、念のためだよ。スザクにみんなと共闘なんて無理だろうし、本当に別動隊が役に立つなんて、俺も思っていなかった」


「でも、よく考えると、スザクさんたちでは、水車の破壊を止められないかもしれませんね。きっとスザクさんが、壊しちゃうでしょうから」


 ドロシーが不吉なことを言っていたが、あながち否定できない内容だった。


「あぁ……そこまで考えていなかったよ。そのときは、あとで弁償します」

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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