70 俺、ドロシーのおかげで、どうにか犯人の決定に成功する。
女の言葉が、魔術の専門家としての意見を、仲間に求めたものであることは、俺にも容易に察せられた。
3人目のギルメン――ルッツは、ゆったりとした動作で口を開いていく。
「爆発系統の魔法は、そんなに多くの数が知られていない。自分の知る限り、損害の状態はどれとも一致しないな」
魔法ではないとしたら、いったいどんな方法だというのか。頭の悪い俺には、想像することができなかったのだが、すぐにダリオロは別解を思いついたようだ。
「……スキルか?」
「スキルなら、爆裂の魔女が持つ能力が、ワールドで一番有名だろうな。彼女は今、王都の商会に雇われているという噂だ。こんなところにはいないだろう」
その内容に興味を引かれたダリオロが、踏みこんだ問いを投げかける。
「たかだか一介の商会が、魔女を抱えておけるものなのか?」
魔女という異名は、本来勇者の時代のものらしい。平たく言えば、往年の勇者が苦戦した相手に送った、二つ名ということになる。伝説の勇者がいた頃から、すでに多くの時が流れてしまった今、魔女の称号は、もっぱら北菔鳳が苦戦した相手に贈る、最高の賛辞という扱いになっているようだった。
「どうにも凄腕の女商人らしいな。2人の絆は、単なる雇用関係だけにとどまらないそうだが、真相までは自分も知らん」
そこまで情報が増えれば、俺にも思いあたる節があった。王都を根城にする凄腕の女商人になんて、この世に1人しかいないだろう。タマーラだ。
俺が心あたりの人物を頭に浮かべていれば、ベロニカも俺に向かって同意を示していた。
「間違いない。あの銀髪だ」
武闘派のメイドに、過敏な反応を起こさせるほどの人物。たしかに、魔女と呼ばれるにふさわしい女なのだろう。
俺たちの会話を無視して、ルッツが話を続ける。
「そういったスキルかどうかはさておき、今回の痕跡には1つだけ覚えがある。斜め上に広がっていく特徴的な爆発……魔動兵器の中に、これと似たような破壊を引き起こす物がある。〚傷爆なる玉〛だ」
耳なじみのない言葉に、俺は追加の説明を求めようと、ルッツのことを見やる。魔動兵器のことを理解できなかったのは、俺だけじゃなかったらしい。ダリオロのほうも、ルッツにさらなる解説を促していた。
「魔動兵器……たしか、魔石を使った兵器だったか?」
「もっと単純に、魔動具の武具版だと考えればいいさ。〚傷爆なる玉〛の研究には、王国の秘密部隊『末奇七』が携わっていたという、妙な噂も巷にはあるようだが、実際には違う」
断言するルッツに、ダリオロが訝しむ。当然だろう。いくら専門家とはいえ、詳しすぎるルッツの発言には、俺も不信感を抱いた。
「なぜ、言い切れる?」
「こいつの原型を作ったのが、自分の知り合いだからだ。もう死んじまっているがね」
「……?」
胡乱な視線をダリオロがルッツに向ける。俺がダリオロでも、きっと同じことをしたはずだ。
「邪推はよしてくれ。他意はない。ただの事故さ。魔動兵器の研究なんかしているんだ、長生きをしないのは承知のうえでだろうよ。人を殺すための兵器だぞ? まともな死に方なんか望めん」
「ねぇ、その話ってまだ長くなるの?」
そろそろ俺も似たような感想を抱きそうだったので、女の呟きは素直に嬉しいものだった。
呆れるような表情を浮かべたルッツが、女のほうに向きなおる。
「……。お前さんにも決して無関係じゃないぞ。なにせ魔動兵器を作っていたのは、シンジケートだからな。これの後継が、お前さんのよく知る❛殺人哲学❜だ」
新出語の連続に、俺の頭は痛みを訴えだしていた。決して、異世界を舐めていたつもりじゃないが、ここまでぽんぽんと、未知の用語が溢れ返るとは思わなかったんだ。
「へぇ……。最高ね、俄然やる気になって来たわ」
恐ろしげな笑みを見せる女から視線を外し、俺は今一度状況を整理する。
シンジケートという用語は言葉どおり、犯罪をくわだてる集団のことだろう。いくら希勇の志士が過激な信者とはいえ、その目的はあくまでも信仰にある。第一義を犯罪としていない以上、希勇の志士のような団体は、シンジケートに含まれないはずだ。要するに、今回の事件が希勇の志士によるものである以上、そんな大層な組織は関わって来ないのだ。俺たちと犯罪者集団は無関係。
そう結論づけた俺だったが、つまるところ、この楽観的な予測は誤りだったといえるだろう。俺は、俺のことを慕ってくれていた、女1人の命と引き換えに、こうしたシンジケートとも向きあうことになるからだ。そして、それは奇しくもこの和鈴の町に端を発した。
だが、もっかのところ、希勇の志士と❛殺人哲学❜には、なんの関係もない。俺は話を本筋に戻すべく、ダリオロに向けて口を開いていた。
「水車を壊したところで、町への影響は微々たるものだそうですね? 狙おうと思えば、風車を標的にもできたのですから、犯人たちがあえて水車を選んだことについて、もう少し考えを巡らしてみてはどうですか?」
町に被害を与えたいのであれば、風車のほうが効果的であることは間違いない。それを踏まえて考えるなら、破壊の対象を水車にしたことには、必ず犯人側の意図があるのだ。
ダリオロたちが希勇の志士を疑うよう、俺は必死に誘導してみたのだが、世界攻略指南というカンペを持たない女たちは、そうそう思いどおりには動いてはくれない。
「風車のほうは、いつも人が多いから断念しただけじゃないの? 犯人の立場になって考えるなら、目立つことは避けたいでしょうし」
俺のあからさまな促しには、ダリオロも辟易したようで、こちらに対して釘を刺して来る。
「お前は、どうしても希勇の志士を犯人にしたいようだが、俺たちは自治ギルドなんだ。疑っても、一言謝ればそれで済むような、気楽な立場にはいない。予断を持って捜査をするわけにはいかないんだよ」
内心、舌打ちをしたい気分だったが、あからさまな言動というのは、言い換えれば味方にも伝わるということだ。俺の不自然な誘導に、ドロシーが感づかないわけがなかった。
俺に肉薄したドロシーが、耳元で声を落として尋ねて来る。
「犯人は、その過激な団体で間違いないんですね?」
「うん……。でも、俺じゃ説得できないかも」
「分かりました」
(本当は、どうしてそんなことを知っているのか、そっちを聞いたほうがいいんでしょうけど……今はまだやめておきますか)
ドロシーの咳ばらい。分かりやすく、みなの注意を自分に向けさせた。
「手がかりとして残されたマークは、希勇の志士を予感させるものでしたよね。でも、犯人は別にいるかもしれない。そうだとすると、希勇の志士に見せかけることには、真犯人にとってどんな得があるのでしょうか?」
「希勇の志士のメンバーが、平時よりも少人数しかいないってことは、私たちにだって知られているのよ? 希勇の志士のふりをすれば、戦力を実際よりも少なく見せられるじゃない」
「弱く見せてどうするんです?」
続けざまの質問。
それをしつこいと思ったようで、女がドロシーのことを軽く睨んだ。
「私たちを油断させたいんでしょう」
「いったいなんのために?」
いよいよ不機嫌になった女が声を荒らげる。俺のほうも、ドロシーがなぜそんなに細かく問い詰めるのか、分からないでいた。プロ=ボリを説得しているようには、全然思えなかったからだ。
「はぁ? そりゃ本来の標的に対する犯行を、遂げやすくするために決まっているじゃない! だから、こうして訳の分からないマークを――」
だが、女の台詞は最後まで続かない。途中で、ルッツが彼女の発言を遮ったからだ。
「いや、待て……。そのメイドの言うとおりだ。自分たちは、大きな勘違いをしていたかもしれん」
俺にはまるで話の流れが理解できなかった。
だが、ルッツがドロシーの真意を解説してくれる。要約すると、それは次のようになるだろう。自分たちの戦力を弱く見せようとするのは、大きな力を持つところ以外には考えられない。誤解から過小評価した相手を、返り討ちにするのが目的だからだ。一方で、今度の事件が、ギルドの目を盗んで行われたことは、疑いようのない事実である。
高い戦力と、隠密行動。
仮に真犯人がいるとしたら、それらは、この2つのパワーを、両方とも持ち合わせていることになってしまう。これでは、今までの行動が説明できない。水車の破壊を、ギルドに気がつかれないように実行したのは、犯人たちが高い戦力を有さないからこそのもの。それが違うのだとすれば、わざわざ偽物の標的を破壊してまで、相手を騙そうとする意味がなくなってしまう。最初から、本命を狙えるだけの武力を持っているのだから、寄り道なんかする理由がないのだ。
「どういうこと?」
まだいまひとつ納得できないのか、女がさらにルッツに詰め寄る。
「こんな遠回りなことをしても、襲いやすくなるのは、せいぜい水車事件のせいで人が出払ってしまった、自分たちのギルド本部くらいってことさ。そして、プロ=ボリを狙いたいのなら、初めから陽動作戦をすればいいだけだ。こんな無駄な手間暇をかけてまで、希勇の志士の犯行に見せかける道理は、どこにもない」
感心したようにダリオロもうなずく。
ドロシーの手腕に、俺も感激しっぱなしだった。最初にワールドで出会えたのが、ドロシーで本当によかった。ひょっとすると、俺にとっての文字どおりの幸運ってやつは、世界攻略指南をもらえたことじゃなく、ドロシーに出会えたことのほうなのかもしれない。……世界攻略指南が手元になきゃ、ドロシーに会ったところで雇えないから、問題外か。さっすが、俺って馬鹿だねぇ。
「……つまり、犯人は、希勇の志士以外にありえないということか」
「そういうことになるな。自分たちは少々、深く考えすぎていた。犯人はいつだって、衝動的に行動するものだった。……だが、そうだとすると、少々まずいことにもなったな」
その返事は、ドロシーにとっても想定外だったようで、軽く眉根を寄せてルッツを見つめる。
「そのままの意味だ。〚傷爆なる玉〛だよ。希勇の志士に、魔動兵器を引っぱって来られるだけの、コネクションがあるとは思わなかった。いくら母体が巨大組織といっても、この町にある希勇の志士は、所詮支部だ。大したことはできないものと、高をくくっていた」
「相当な準備を重ねて来たってわけね」
「あぁ。このぶんだと、希勇の志士が仲間を減らしたことも、わざとなのかもしれない。町の外にいる人間には、どうしたって対処が遅れるからな。もしもこの先、両者が連動して来るのだとしたら……厄介なんてレベルじゃないだろう。受ける被害は想像したくもない」
「……」
黙ってしまった2人をよそに、ルッツがさらに言葉を加えていく。
「相手は希勇の志士だ。そこいらのチンピラじゃない。自分たちが調査していると知っても、計画を中断することはないだろう。是が非でも、もう1つの水車を破壊しに来ると考えていい」
「まさか、ぽっと出のチームが犯人であったほうが、俺らにとっては好都合だったとはな」
「普段、町にいない連中のほうが、何かとそぶりも目立つしね。そのぶん取り締まるのも簡単」
ダリオロと女の相づちに、ルッツが満足げにうなずく。
だが、複雑化してしまった議論を、ソーニャが強引に引き戻した。
「別に、恐れることは何もねぇだろうよ。兄貴、そいつらが水車の破壊を目指しているのは、間違いねぇんだろう?」
「そうだと思う」
「それなら、お前たちがさっき言っていたとおり、戦力は多いほうがいいだろうさ。わざわざメンバーの数を減らさねぇって。減らしたのは、そうしたほうが希勇の志士ってやつらの、得になるからしたんだよ。あんまし考えすぎんな」
ソーニャの台詞をきっかけに、今一度、人手を少なくすることの意味について、全員で捉えなおしてみる。
水車の破壊を実行すれば、当然、それは自治ギルドを動かす結果を導く。ギルドとの衝突。もしも、希勇の志士がそれを想定したうえで、あえて人員を減らしたのだとすればどうか。そこで得られるものは、たぶん1つしかない。
女が確認の意味を込めて、その答えを口走る。
「全面抗争を避けたかったってわけね」
希勇の志士は、この町の水車を破壊するために、結成された組織じゃない。あくまでも、勇者を厚く信仰している団体が、たまたま取った手段が過激だったというだけだ。正直、俺にはまだ、その心理的なプロセスがよく分からないが、希勇の志士は、寺岸和鈴の意思を、自主的に引き継いでいるのだろう。
そして、大規模な戦いを仕掛けずとも、水車の破壊は実行できるのだから、ここでギルドと真正面からぶつかり、人員を無駄に消耗させることは望ましくない。和鈴の意思は、水車の破壊にとどまらないはずだからだ。残ったメンバーでできることは、まだまだたくさんある。
「今なら、自分たちでも簡単に捕獲できるということだな」
ほっとしたように告げるダリオロを見るにつき、油断は禁物だと、ベロニカが気を引き締める。
「逆に、今も好んで残っているような連中は、それこそ今回の事件で、命を捨てる覚悟でいるってことだろうよ」
やはり武闘派は考えることが違う。和やかな雰囲気が、一瞬にして緊張感に包まれた。
「私たちだけでできるの? 向こうは人数が少ないんだし、そりゃ捕まえることはできるでしょうけどさ。市民に負傷者を出しちゃったら、私たちの負けでしょう? 死に物狂いでやって来る連中に対して、そこんところは大丈夫なわけ?」
女の心配はもっともだ。
ギルドの体裁はもとより、コンクールを無事に終えるためには、市民の犠牲があってはならない。一切の被害を起こさずに、完璧に取り押さえることが、カリナのためには必須だった。
増援はいたほうが確実によい。おまけに、乗りかかった船だ。
ようやく出番が来たことを、俺は最強の剣士に知らせようと、彼女の顔を軽く見つめる。
「うちのスザクは、ちょっと前までドラ=グラで働いていたよ」
嘘はついていないつもりだ。扱いの困難さから首になったというだけで、働いていた時期は確かにある。
俺の発言に、ルッツが感心したようにスザクのことを見返した。
「ドラッジ=グラッジって……すごいな。あそこは小手先の技術じゃなくて、純粋なパワーを求められるギルドだぞ」
このままスザクと、協力関係を結ぶことになるだろうと思ったのだが、俺の予想に反して、ダリオロははっきりと首を横に振っていた。
「恰好を見るに、お前たちは旅の冒険者だろう? 仮にも、俺たちは自治ギルドだ。これ以上、旅人の世話になるわけにはいかない。メンツもあるしな」
「だけど……」
シャフツベリーのコンクールに関係することなので、俺はとっさに抗弁していたのだが、ダリオロは笑いながら俺の肩に手を置いた。
「心配するな。なにも無策で挑もうってんじゃない。ちゃんとあてはある」
そう言われてしまえば、俺としてももう何も返すことができなかった。だが、俺の後ろで、コズホゥゼが、当たり前のように悪魔の囁きを告げていたんだ。
「なんで? 勝手に行けばいいじゃない。その人たちは、私たちを止めることもできないんでしょう?」
……温室育ちのくせに、あなたって結構えぐい発想をするのね。
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町の一角――目抜き通りから離れた閑静な場所。周囲にあばら屋が多いため、ほかよりも小綺麗で大きい建物というのは、それだけでもよく目立った。
希勇の志士のアジトにて、男はサベージを問いただす。
「なぜ、昨夜のうちに、水車を2基とも破壊しなかったんだ?」
その言葉には、一度にすべての標的を狙えば、自治ギルドに警戒されることもなく、目的を達成できただろうという、非難の色が当然ながら含まれていた。
だが、男の面詰は不当であると、サベージは静かに首を振る。
「市民の反応を見るためだ。俺たちはなにも、いたずらに町を破壊しようというのではない。……啓蒙だ。人々が勇者の必要性に気がつくこと。これが何よりも大切なのだ。この町の水車を破壊することなど、それに比べたら副次的な目標でしかない。勇者の必要性に気がついたらば、人々はおのずと水車を手放す」
なるほど、もっともだ。男はサベージの返答に納得したようにうなずいた。
「だけど、そんなに悠長に身構えていて、プロ=ボリのほうは大丈夫なんだろうな」
主張に同意するのと、現実の問題はまた別だ。男はさらに問いかけるが、対するサベージは自信満々の表情を見せていた。
「全く問題ないさ。やつらは当分、動けない。俺がメンバーを手放したことで、その影に怯えることになるからだ。まさか、単に仲間を逃がすためだったとは知らずにな。あえて希勇の志士だと示したことも、プロ=ボリを一層混乱させるはずだ」
「なるほどな。連中が首を傾げている間に、俺たちは市民の反応を調べるわけか」
「そのとおりだ。……ウィロウ、お前ならもう確かめてあるのだろう? どうだった」
鷹揚にうなずいたサベージが、ウィロウに話を振る。
「すでにギルドが調査を始めていました。しかし……」
自分の見聞きした中身を、全部正直に喋るべきなのかと、束の間、ウィロウは悩む。そんなウィロウの葛藤を察したサベージは、穏やかな声音で彼女に発話を促した。
「構わん。本当のことを話せ」
意を決してウィロウは口を開く。
「和鈴様のことについては、何も話題にのぼっていません。当初の想像どおり、製粉業などへの影響は見られませんが、水車と観光を結びつけていたパン屋などからは、クレームの声が上がっています」
それはゼンキチが町で見かけた店と、全く同じところを指していた。
「愚か者が!」
サベージが激しく机を叩きつける。リーダーの乱暴なふるまいを、薄々予想していたウィロウは、サベージの言動に怯えつつも報告を続ける。
「また、水車の使われていない動力を、香水の製作に用いようとする計画があったようで、そちらが頓挫したことで、芳香料組合からも、一部で非難の声が上がっています」
「何? ウォルシュが?」
予想だにしていない結果に、サベージはウィロウを訝しんだ。
渓谷薔薇は、寺岸和鈴の好んだ花としてよく知られている。今でこそ、和鈴の町の名産品となった渓谷薔薇であるが、勇者の時代にはそうではなかった。このバラには、渓谷にしか自生しないという性質があったためだ。この問題を解決し、町の特産品にまで一気に押しあげたのが、ウォルシュという老商である。
数ある花の中から、彼が渓谷薔薇を選んだことには、少なからず、和鈴に対する親しみがある。そんなウォルシュが、和鈴の心とはまるで無縁の、水車の利用を支援しているとは、サベージには到底思えなかったのだ。実際、渓谷薔薇の香水――渓華香の作成に、水車の動力は用いられていない。
もっとも、これはバラを熱しながら圧縮したいという、香料側の要請を満たすためであり、必ずしも、和鈴に対する信仰とは関係がなかったのだが、その点もサベージは高く買っていた。ゆえに、サベージは失望をもって、ウィロウの言葉に耳を傾けたのである。
慌てたように、ウィロウが首を何度も横に動かす。
「い、いえ……不満を持っているのは組合であって、今の時期だと、ウォルシュさんはコンクールの主催で忙しく、それどころじゃないんじゃないかと……」
安堵したサベージが、少しだけ居心地悪そうにウィロウに言葉を返した。
「……そういえば、あやつにはそういう趣味もあったな」
「どうするんだ、サベージ?」
男にとって、ウォルシュとの関係は重要ではなかった。大事なのは、希勇の志士という巨大な組織の中で、どれだけ自分が出世できるかという部分にある。
いくらか間を空けてから、サベージは男に応じる。
「そうだな。まずは、残りの水車を破壊する。それでも、目を覚まそうとしないのであれば、脳天気なパン屋の店主と、無能な組合には、消えてもらう必要があるだろう」
「殺しちゃ……うんですか?」
ウィロウの目が不安そうに揺れる。それを、不測の事態に対して、ウィロウが躊躇しているのだと誤解したサベージは、努めて落ち着いた声音で、彼女を元気づけた。
「最悪のケースを想定すれば、そうなるだろう。だが、心配するな、ウィロウ。お前にこれを任せることはない」
「いえ、そういう意味じゃ……」
ウィロウは抵抗するように声を発するが、それはあまりに小さな音量で、サベージにも男にも届かない。
「最悪のケースっていうんなら、ここにプロ=ボリが来ることも、考えておいたほうがいいんじゃないか? さすがに、いきなり連中が乗りこんで来るとまでは、俺も思っちゃいないが、様子見をするくらいなら、十分にありうるだろうよ」
男の指摘にサベージは首肯する。
「一理あるか……。ウィロウ、念のためにお前が〚傷爆なる玉〛を持っておけ。お前の手元にあるならば、間違っても、自治ギルドに発見されることはないからな」
「はい……」
指示されるままに、ウィロウは魔動兵器を受け取る。
「昨日、見せたやり方は覚えているな? 万が一のときには、お前がそれを使うんだ」
いきなり与えられた責任に、ウィロウは喉が詰まるような感覚を覚える。
自分にはできない。
そんな大事なことを果たせるほど、自分の能力は絶対に足りていないのだ。
足が震える。
命令を無事に遂行することが、ウィロウに価値を与えているのだ。とりもなおさず、委ねられた役割の失敗は、己の無価値を証明してしまう手段にほかならない。人から与えられた簡単な指示をこなすこと、これこそがウィロウの求める存在意義である。
だが、サベージからの叱責を恐れたウィロウは、突然の責任を拒否することもできない。
そんな仲間を気づかうように、男はウィロウに声をかける。
「大丈夫さ。サベージの言っていることだって、あくまでも非常時の話だ。うまくいくよ」
本当にそうなのか。
順調に進んでいるのであれば、自分のような存在に、大切な仕事を任せることは決してないだろう。作戦に瑕疵があったからこそ、自分に〚傷爆なる玉〛が手渡されているのではないのか。
気休めの台詞に、それでもウィロウは気丈に笑ってみせた。そうすることが、自分の生きているすべてであるかのように。
コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。
次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ




