51 俺、鋭い疑問を投げかけるも、やっぱり意味がなかったことを知らされる。
累計1万PV、ありがとうございます。
お礼として、新たにサブストーリーを1話考えます。
この町における政治の肝が、騎馬文化にあることは理解できた。
しかし、具体的には、どうやって文化の習熟度を確認するのだろうか。まさか、自己申告などではないはずだ。なんらかの試験があると考えるべきである。
それを俺が問えば、ディートリヒは明確な答えを提示して来た。
「半年ごとに、馬上試合が行われます。今期のものですと、あと8日ほどで開催です」
……そうか。戦って決めるのか。
それならば、勝敗の結果は誰の目にも明らかだろう。大勢の観客を前にしては、不正することも難しい。反面、積極的にやるつもりではなかったが、最終手段としては、この不正も選択肢に入っていたので、こちらについては却下となる。
……あれ?
だが、そこで俺はディートリヒの言葉に違和感を覚えた。
たしか、巴苗の町は、3つの領主が治める集落だったのだ。当然、そこにはエオガリアス家・テゾナリアス家のほかに、もう1つの家があることになる。
「えっ、ここにはもう1人の領主がいるよね? 文化を司っていたエオガリアス家でさえ、こんな状態なんだから、そっちも騎馬文化には詳しくないはずでしょう? でも、別に3番目の領主が没落している、なんて話は全然聞かないんだけど……」
事業が順調だとしても、町での発言力はあくまでも騎馬文化。エオガリアス家ほどではないにせよ、少なくとも、発言力は弱いと考えられるのだが、そんな話さえも耳にしない。
地元の人間ではない割に事情通の俺に、ディートリヒが素直に感心している。もちろん、世界攻略指南のおかげであって、これは俺の努力ではない。
「お詳しいですね。おっしゃるとおり、ワグトリアス家は経済と畜産を担っています」
また新しい名前。
……やばい。もう俺の頭じゃついていけないかも。
俺がその場で頭を抱えだせば、すぐさまドロシーが声をかけて来る。
「どうしたんですか、ご主人様?」
「な、名前が……いっぱい」
似たり寄ったりの家名に、本気で苦戦していることを告げれば、合点がいったとばかりにドロシーが手を叩いた。
「古語ですよ、ご主人様。『_リアス』って『上品な』って意味なんです。だから、名家とかに多い名前なんですよ。ほら、クレバリアス家みたいに」
「……そういうこと?」
上品なテゾナさん・上品なワグトさんって意味なのか。
これならば、まだどうにか俺でもやれるかもしれないと、ディートリヒの話に聞きなおった。
「馬上試合の中身というのは、なにも決闘だけではありません。乗馬したまま、牧畜を華麗に誘導するというのも競技の1つです。ワグトリアス家は、そちらで優れた成績を残していますので、テゾナリアス家には及ばないものの、町での発言力を維持しています。もっとも、実際の馬上試合は種目が5つありますので、もう少し事情は複雑なのですが……」
どこを取ってみても、エオガリアス家だけが不利という状況は、変わらないらしい。
それでも、大局的な観点に立てば、巴苗の町が発展するまでは、うまく回っていたといえる。三家のバランスが取れていたからだ。
だが、町の発展は交易の拠点としての性格を強め、この町の交通量を激増させた。おのずと、それに伴って、防衛力の底上げが誘発されたのだ。ありていに言えば、町の発展は、テゾナリアス家が単独で、力をつける契機になったことになる。
その流れは、今にいたるまで変わることがない。むしろ、その偏りが強まったと評することができるだろう。
……だが、やるしかないよな。
壁は果てしなくでかいが、それでも俺は、改めてグラントリーに加担することを決めていた。
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ゼンキチがディートリヒの邸宅で、エオガリアス家を立てなおすための方法を、しきりに模索しているとき、タマーラは、干し肉屋の店主であるスクワイアと共に、家畜の現物を見に訪れていた。その目で疫病の実態を確かめるまで、にわかには、スクワイアの説明を信じられなかったからだ。
ただし、スクワイアの手元にある生きた家畜というのは、数が非常に限られている。当然であろう。干し肉へ加工するまでの工程の大部分は、生産者自らが行っている。スクワイアも半ば趣味で携わるが、その量は比較にならない。
ゆえに、スクワイアがその手で屠殺するまで、一時的に家畜を保管するゲージを訪れてみても、そこに発症した個体はいない。それでも、何かしらのヒントがあるのではないかと、思慮深いタマーラは疑ったが、いくら切れ者の彼女であっても、分野としては素人であるため、手の出しようがなかった。
「先ほどもいいましたが、この件には、ンラウィルド族の仕業だという噂が出ています」
熱心にゲージの隅に視線を向けるタマーラに、スクワイアは言葉を向ける。彼女の注意を、自分のほうに引き戻したかったためである。
大別すれば、巴苗の町の畜産には、4つのグループがあるといえた。この中で、槍玉に挙げられているンラウィルド族だけが、ほかの3つとは異なり遊牧民であった。そして、この遊牧民であるということを理由に、他のグループはこれを嫌った。
歴史的に、遊牧民に対する偏見として、野蛮であるというイメージは根強い。この偏見が迫害の根底にある。
無論、聡明なタマーラが、そのような噂を信じる道理はない。
根も葉もない見聞が広まる程度に、両者の関係が穏やかでないことを、憂うばかりだ。
「知らない間に、そんなに悪化していたとはねぇ」
どれだけ他の部族が、ンラウィルド族を嫌っていようとも、今では巴苗の町を中心に生活している、同じ集落の仲間なのである。敵対する部族であればともかく、疫病の原因を隣人に求めるというのは、タマーラにしてみれば正気とは思えなかった。
だが、重苦しい表情で、スクワイアはタマーラに向けて首を横に振るう。
「いえ、それがどうにも、単なる噂というわけではないようでして……。疫病にかかっているのが、うちらの畜産だけなんです」
聞き捨てならない台詞に、タマーラの目が鋭く光る。蛇足だが、スクワイアの懇意にしている部族は、ンラウィルド族とは異なる。
ンラウィルド族が、ある程度まで巴苗の町に根をおろしていることは、すでに述べた。言い換えるならば、活動の範囲にこそ大きな差があれども、今日、他の部族と居住環境を、極端に異にするわけではないのである。
そうであるにもかかわらず、ンラウィルド族だけが無傷であるというのは、いささか尋常ではない。
「確かか?」
「はい。すべての族長に、聞き取り調査を行っています」
頭を捻るタマーラ。
もちろん、ンラウィルド族が疾病をばら撒いたなどと、馬鹿正直に信じるわけにはいかない。考えるまでもなく、いったいどうやってという疑問が浮かんで、終わりである。
ンラウィルド族だけが難を逃れた理由が、何かあるはずなのだ。
(……違いがあるとすれば、餌か)
「使っている牧草の種類に、差は見られるのかい?」
「いいえ、ありません。生えている場所が違うだけで、その大部分が、直並鴨茅という単一の植物です」
言葉どおり、直並鴨茅はカモガヤの一種だ。端的に言えば、牧草としては珍しくもなんともない。人間が食っても意味のないことも、他の牧草とは変わらない。
「牧草のほうに何か異常は?」
「……ないです」
その程度であれば、自分たちでも調べていると言いたげだった。失望こそ露わにしていないが、スクワイアは意外そうにタマーラを見返していた。彼女であれば、もっと理知的な指摘をして来ると思ったのだ。
だが、タマーラは素人同然。
専門的な知識がないにもかかわらず、一瞬で問題の最前線にまで到達したことを、スクワイアはもっと驚くべきであった。
(……お手上げだな)
苦笑を浮かべるタマーラの背後で、ふとジャスティンが、思いついたように声を弾ませる。
「そういえば、エオガリアス家のところには、あの少年が来ていましたね」
もちろん、ジャスティンが言わんとしているのはゼンキチだ。
何が言いたいのかと、タマーラが己の護衛に対して、無表情な視線を向ける。
すでに慣れてしまったジャスティンが、そんなタマーラの言動に怯むことはない。
「いえ、タマーラさんが、あの少年に何か期待しているんじゃないかと、そう思っただけです」
考えもしなかったことを言われ、しばしタマーラは顎に手をあてた。
ほどなくして、楽しげないたずらを思いついた悪童のように、恐ろしげな笑みを浮かべてみせる。
「うん……存外、悪くない選択肢かもしれないねぇ」
予想外に好感触な返事を受けて、却って、ジャスティンは焦った。取るに足らないと、一蹴されるものだとばかり思っていたからである。
「いや、俺はなにもそこまで――」
しかし、ジャスティンの言葉は、タマーラによって途中で遮られることとなる。
「だって、安いじゃないか。あの少年なら、たぶん、ただで協力してくれるよ」
タマーラの護衛として働き始めて、すでに6年目。
彼女の性格を、十分に理解しているつもりのジャスティンであったが、問題の解決を優先しようとする強引なタマーラに、今度ばかりは眩暈を覚えるのだった。
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