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88 俺、タマーラと共に呪詛を脱出する。

 下書きで申し訳ありませんが、先に投稿します(近日中に推敲(すいこう)したものに変更しますが、内容に大きな変更はありません)。

 追記:すでに清書のものに差し替えてあります。

 また、累計3万PV、ありがとうございます。お礼として、新たにサブストーリーを1話考えます。

 立ちあがったタマーラが、ぐんと伸びをしながら話す。


「まずは、少年のスキルを確認するところから始めようか。そのスキルで莫大(ばくだい)金貨(シルガ)を稼いで来たんだ。できる範囲はある程度まで、私にも予想がつく。人物のプロフィールは、どこまで分かるんだ?」


「顔と名前を知っていれば、結構詳細なことまで見られるよ。俺はあんまり使っていないけど……」


 宝の持ち腐れだなと言わんばかりに苦笑したタマーラが、それでもどこか納得した様子でうなずく。


「そうか。なら、私についてはどうだ? どんなことが書かれてある? ちょうどいいから、今読みあげてみてくれよ」


「……。お前のそのタマーラって名前、偽名だろう? 俺じゃ調べらんないよ。タマーラ商会についてのページならあるけど……そっちもメンバーのプロフィールが、あんまり埋まっていないせいで、ほとんど空白の状態」


「なるほどねぇ。名前が分からないときは、いつもお手上げなのかい?」

「実物に触ったままスキルを開けば、概要の書かれたページに飛ばされる感じ。そうだ! まだ、この空間に入ってからは、この方法を試していなかった!」


 てっきり俺は妙案を思いついたと思って、得意げにタマーラのほうを向いたのだが、対するタマーラは、落ち着いているというよりも、どこか冷ややかだった。


「やってみてもいいが、私たちは呪詛(じゅそ)に直接触れているわけじゃないんだ。恐らく、そのアプローチには意味がないと思うぞ。札が見えているならば、ともかくな」


「そっか……」


「おいおい。一々、こんなことで気を落とさないでくれよ、少年。仮に今、私の本名を知ったとして、少年のスキルはどういう反応を示すんだい?」


 俺の失敗を意に介さず、タマーラは淡々と話を進めていく。


「どういうって、普通に内容が更新される感じだけど?」

「ふむ。じゃあ今、私の体に触りながら、ちょいと発動させてくれよ。そして、スキルを使いながらでいいから、私の質問に答えてくれ。ブロンズデーモンの目玉が、高価で取り引きされているという話を、少年は当時、知らなかっただろう? あれは自分のスキルで、あとから学習した結果だという理解でいいんだよな?」


「そうだね」

「それなら、名前以外にも、情報が更新されるきっかけが、何かあったんじゃないか? なんでもいいから、思いあたることを話してみてくれ」


 タマーラが女ということを抜きにしても、シンプルにどこを手で(つか)めばいいのか悩んでしまった俺は、さんざん迷った挙句に、彼女の前腕を指でつつくという形に落ち着いていた。


「う~ん、きっかけって言われてもなぁ。邪法なら技を自分の目で見てみたり、観光名所とかなら現地に訪れてみたりとか、そういう感じになるんだと思う。……タマーラの項目は開けなかったよ。タマーラ商会についての簡単な説明と、その代表っていう紹介が載っていただけ」


 うなずいたタマーラが、くすぐったそうに俺の指から手を離す。


「助かったよ。接触の機会か、なるほどねぇ。言わば、人が何年もかけて調べあげる成果を、急速に獲得するというのが、その不羈(イリーガル)の本質なのだろう。分からないものは、ずっと分からないままで、ちょっとでも分かってしまえば、途端に膨大な知識へと変貌を遂げる」


 タマーラに言われて、俺自身も世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)について思い返してみたが、彼女の説明が的確なように感じられた。この短時間ですでに、俺以上に世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)のことを分析できているんだ。これを怪物と呼ばずして、いったい誰を怪物と呼ぼうか。


 それと同時に、タマーラが内ポケットから羽ペンを取り出した。


「見てくれ、少年。これは試作品の魔動具だ」


 手に持ったペンを、タマーラが俺のほうに差し向ける。世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)を発動しろと言いたいんだろう。促されるままに俺は自分のスキルを使った。


「〚筆拾に器(クイル)〛の改良版? 魔動技師(マギカナ)はヤグナノ……。魔動技師(マギカナ)っていうのは、魔動具の製作者でいいのかな」


「そうだ。ついでに言えば、ヤグナノはこの分野におけるエキスパートの1人さ。少年の反応からして、彼女のことは知らなかったと見えるから、超がつくほどの有名人であれば、ワールドの常識として、問答無用で情報が開示されるってことだな」


「うん。勇者とか、過去の英雄も、そのあらましくらいなら調べられるよ」

「便利なもんだね」


 本当にそう思っているのか、いまいち判然としない表情で、タマーラは相づちを打つ。


「さて、改良版という説明からも承知のとおり、この魔動具にはまだ正式な名前がなくてね。せっかくだから、今ここで名前を決めてしまおうか。名づけて、〚筆拾-小独に器(クスモイル)〛だ。当たり前だが、こいつはまだ試作品だから、世界にはたったの1つしか存在していないぞ」


「う、うん」


 流暢(りゅうちょう)に語るタマーラの意図が読めなくて、俺は若干困惑していた。


「〚筆拾に器(クイル)〛自体は、そこまで珍しい物じゃない。それなりの金持ちなら、持っていることもある魔動具だ。こいつは元々、人の声に反応して、話した内容を自動で書きとめるというものなんだが、〚筆拾-小独に器(クスモイル)〛では、それが小声であっても対応できることを目指した。隠さずに話せば、私の独り言を代わりに筆記してもらうというのが、当初の目的だったわけだな」


「なんだそりゃ……」


 たまにはタマーラでも、おかしなことを考えるのかと俺は思ったのだが、どうやら真相は違うらしい。寝る直前のアイデアを漏らさないため――つまりは、寝落ちする瞬間まで仕事をするために、この魔動具を作ろうとしたというのだから、単なるストイックさの現れでしかない。


「残念ながら、試みは失敗。存在しない音を拾ったり、書き取る内容が不明瞭だったりと、とてもではないが使い物にはならなかった。ヤグナノで実現が不可能だったあたり、根本的に無理なんだろうねぇ」


 ようやくタマーラのしようとしていることが、俺にも察せられた。彼女の解説に呼応して、世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)の内容がすさまじい速度で、更新されていっているのだ。本を(のぞ)きこんだタマーラが、満足した声音で告げる。


「……書かれている文字が増えたことは、私でも分かる。成功だな」

「そうだけど、これって脱出に関係すること?」


 単純に世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)の情報がアップデートされるのか、確認してみたかっただけなのだろうか。

 俺の言葉を無視したタマーラは、発言を終えるやいなや、貴重な羽ペンを地面に(たた)きつけてしまう。


「お、おい!」


 そのまま、制止しようとする俺の体を押しのけて、タマーラは魔動具を何度も踏みつけていた。当然、〚筆拾-小独に器(クスモイル)〛は完全に破壊されてしまっている。


「たった今、1本しかない〚筆拾-小独に器(クスモイル)〛が姿を消した。ワールドから消滅したわけだ。というわけで少年、魔動具の紹介文が変わったんじゃないかな?」


「そりゃそうだろうけど……」


 言い表せないもやもやとした気持ちで、俺はタマーラの顔を見返すが、彼女にそれを気にするそぶりは見られない。いつもと全く変わらぬ表情で、俺に視線を送るだけだ。


「じゃあ、これだけ丁寧に解説したんだ。そいつが()()()壊れたのかについても、多少は書かれてあると思わないかい?」


 ぞくりとした。

 発想の本質が俺とは完全に異なっている。

 にやりと笑ったタマーラに触発され、急いで俺は〚筆拾-小独に器(クスモイル)〛の項目を、斜め読みしていく。


 はたしてそれは、あった。

 そこには確かに、愛朱香(あすか)の塔で展開した第三遍展封(レネ・ビビキーユ)内において、落下の衝撃によって壊れたという文言が、記述されていたんだ。


「……すごい」


 思わず、息を飲む。

 もう十分にタマーラの持つ頭脳の高さについては、思い知らされたつもりだったが、それでも彼女は格が違った。俺が同じ羽ペンを持っていたとしても、こんなふうに扱うことは想像できなかっただろう。


「魔動具については心配しなくてもいい。元々、失敗作だったからねぇ。新しくするつもりではいたんだ」


 すでに壊れてしまっている以上、尋ねなくてもいいことのはずなのに、気になってしまった俺は言葉を重ねていた。


「ねぇ、聞いてもいい? なんで、そんな失敗作をわざわざ懐にしまっていたの? 本当は大事なものだったんじゃないの?」


「おかしいな、不羈(イリーガル)のほうの説明は読まなかったのか? 〚筆拾-小独に器(クスモイル)〛は正真正銘の不良品だよ。ただ、捨てると、ヤグナノが怒るのさ。それはもう、えらい勢いでね」


「……」


 本当かどうかを確かめられない俺には、何も答えることができない。そんな俺の目線をどう受け取ったのか分からないが、彼女は自嘲気味な微苦笑を浮かべていた。


「冗談だ。記述する内容が不正確でも構わない分野でなら、まだ使い道が残っているだろう? 夜中に自分が寝言を(しゃべ)っているのか、不安になってしまう自意識過剰の貴族にでも、売りつけようと思っていただけさ。試作品とでも銘打てば、筆記する中身自体に誤りが含まれていても、大した問題にはならないからねぇ」


「どうしてお前はそんなに嫌なやつなんだ……」


 なんでもない独り言のつもりだったが、彼女は平然とそれに答える。


「さてねぇ。自分よりも性格の悪い人間に、出会わなくて済むようになるからじゃないか?」


「……」

「そんなに悲しそうな顔をしないでくれよ。これでも、友達には優しくするほうさ。……さて、話を戻そうか。その第三遍展封(レネ・ビビキーユ)については、どんなことが書かれているんだい?」


 タマーラとは正しい意味で、友達になることは絶対にないだろうという確信を、独り強めながら、俺は諦めたように世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)を引く。


「レマハーユⅠ型の亜空間を作り出す汎用呪詛(じゅそ)だって。正規の出口か、もしくは、同じ階級以上の軋束封(あっそくふう)による解呪(かいじゅ)で、ここから抜け出せるみたい。……ごめん、前半は何を言っているのか、よく分かんないや」


「私にもまるで理解できないから、気にするだけ無駄だろうさ。レマハーユという名前自体は、ヌーベルエクヘと同じ時代の、呪術師だったように記憶しているが……いずれにしろ、私たちからすれば無関係だな。レマハーユⅠ型だろうが、ヌーベルエクヘⅠ型だろうが、タマーラ様最高Ⅱ型だろうが、大差がない」


「えっ、うん。……そだね。タマーラって意外と、そういう子供っぽいこともいうんだね」

「泣き虫のお友達を笑わせてやろうという、私なりの配慮だよ。少年、念のためにハヤテのプロフィールも閲覧してみてくれ」


 むっとしつつも、俺の招いたことなので、極めて冷静な返事を努めた。


「ハヤテの?」

「あぁ、そうだ。見られるようなら、優先売買の利用履歴を知りたい。ヌーベル九間(きゅうかん)との対比から、この呪詛(じゅそ)が複雑なものじゃないことは、薄々分かっていたが、簡易的な呪詛(じゅそ)に偽装した地雷だったらば、目もあてられないからな」


 タマーラの台詞(せりふ)を聞きながら、俺は世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)のページをめくる。


「……目ぼしい情報は、なさそうだよ」

「まぁ、それなら素人のやった、ハヤテに対する嫌がらせで確定だろう。もっとも、本当にハヤテ自身を狙ったわけじゃないだろうがな」


「じゃあ、誰よ?」

「そりゃ、メイナードだろう? ハヤテが引っかかっても、瞬間移送(テレポート)で脱出は容易なんだから。まっ、そいつもそこまで考えての行動だったのか、今となってはかなり怪しいけどねぇ」


 見知らぬ人間だろうと、淡白に相手を下に見ていく彼女の姿に、俺は自分の気持ちが沈んでいく一方だった。


「なんだかお前と話していると、俺のことじゃないのに、責められている気分になるね」

「失礼だな。こう見えても、お友達にはちゃんと親切なんだぜ――私は。今のところは順調だな。門外漢の私たちにも、出られる可能性が十分に高い。ここからは手分けしようじゃないか、少年。君は壁に手をあてて、一帯を探ってくれ」


「そんな安直な」


 迷路じゃないんだ。俺にでも浮かんで来そうな方法で解決するなら、そもそもタマーラに、世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)のことを告白していない。


 だが、タマーラは俺の不満を受け止めず、ただ否定する。


「いいから、やるんだ。私は剣で対応しよう」


 そう言って、タマーラは腰に()いていた短刀を引き抜く。このときの俺には全く想像できていなかったが、タマーラはここでも、世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)の情報を更新するために、俺にあれこれと意味不明な注文をしていたんだ。


 黙々と作業に励む。

 やがて俺の目は、タマーラの手が何度も光っていることを認めていた。

 とりもなおさず、それは魔法の発動に際して上がる光。

 剣を振るうたびに、何かしらの魔法を付与して行っているのだろう。

 俺の視線に気がついたタマーラが、ちょっとだけ恥ずかしそうに話す。


「なんらかの防御装置があったとしても、魔法による攻撃であれば有効かもしれないだろう? といっても、これだけやってなんの変化も見られないようじゃ、無意味だな。もう私たちにできることはない、お手上げだ。あとは少年の世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)に賭けるしかない。第三遍展封(レネ・ビビキーユ)の項目が更新されていれば、私たちの勝ちだ。さぁ、運命の瞬間だ。めくってみてくれ」


 彼女にせっつかれ、俺は該当のページを開く。

 そこには、やはりと言うべきなのだろう。情報が更新され、出口は中央付近にあることが基本だと、記載されていた。


「タマーラ!」


 叫ぶようにして、俺は世界攻略指南(ザ・ゴールデンブック)の内容を彼女に伝える。

 再び短刀を握りしめたタマーラが、俺に説くようにして話を始めていた。


「ヌーベル九間(きゅうかん)でさえ、入って来た入り口は存在していたからねぇ。そこから出られなかったというだけで。……そいつはつまり、伝説の呪術師をもってしても、出口をなくすことはできなかったってことだろうさ。それは同時に、ほかのことも暗示している。つまり、単に隠しただけなら、出口としてはなお有効だということさ」


 亜空間の中央で、素早くタマーラがダガーを振り抜く。

 その瞬間、紙を切り裂くような音が、俺の耳にも届いていた。

 変わる景色。

 カーテンを開けたときのように、目まぐるしいスピードで、視界に映るものが移動していった。


「ふぅ。ようやく、ミッションコンプリートでいいのかな? 面倒だったねぇ。もう私は今後一生、呪詛(じゅそ)には近づきたくなくなったよ」


 愛朱香(あすか)の塔へと戻って来た俺の隣で、タマーラは()()()()の山を見返しながら(つぶや)いている。


 対する俺は、窓の外に見える久しぶりの太陽に、目を細めながらぼやくように応じていた。


「羨ましいよ……お前が」

「なんだ、頭の話か? 気にするなよ。少年がいなきゃ、どのみち出られなかったさ。それに、何かをなそうとする志と、それに必要な能力ってやつは、いつだって見合わないものさ。私だって例外じゃない。だが……そうだな。以前に少年に言われたとおり、私にはスキルがなくてよかったと、今日、ほんの少しだけ思えたよ。ありがとう。……さぁ、急ごうか」


 引ったくるようにして、俺の腕から蛇のぬいぐるみを奪い取ったタマーラが、駆け足で階上へと向かっていく。踊り場の途中で振り返ったタマーラが、俺に意味深な視線を送って来ていたが、俺には彼女の言いたいことがなんなのか、まるで察することができなかった。


(しまった……。あのブロンズデーモンをいったい誰が封印したのか、ついでに聞いときゃよかったな)


「……どうかしたの?」

「いいや、なんでもないさ」


 目に悪そうなピンク色の扉を開くやいなや、ハヤテは(わめ)くようにタマーラを責める。


「もう、タマーラ。遅いよ! どこで道草を食っていたのさ!」

「悪いわるい。少々、見つけるのに手間取ってねぇ」


 メイナードに対する挨拶もほどほどに、ハヤテへと歩み寄ったタマーラが、顔のそばで見つけたばかりのぬいぐるみを、小刻みに動かしている。それを目にしたハヤテの顔色が、ぱあっと明るくなったのが俺にも見て取れた。機嫌を直してくれたのだ。


「気に入ってくれたかい?」

「えっ? う、う~ん。まあまあかな」


 照れ隠しのように、ハヤテが明後日の方向に目線を向ける。


「上等だ。それじゃあハヤテ、()かすようですまないが、風韻闘技場(ナッツ・アリーナ)まで送ってくれるかい? あっちのゼンキチも一緒で頼むよ」


「しょうがないな~、特別だよ?」


 もぞもぞと、もふもふを極めた海の中から()い出したハヤテが、全員に手のひらを向けるように指示をする。そうして集められた3人の指を、彼女は軽く握った。間髪入れずに、タマーラが言う。


「ところで、少年」

「何?」

「ソーニャ君の出場にかかる8000金貨(シルガ)は、どうやって払う算段でいる?」

「えっ?」

金貨(シルガ)のやり取りは、来賓用の入り口でしかできないからねぇ。いくら少年のメイドが優秀だとしても、難しいはずだぞ」


「……パトロンの俺が無断で中に入るのは、まずいってこと?」

「そういうことだな。だから、すでに私が支払ってある」

「……。ねぇ。さっきので俺が馬鹿だっていうのは、さんざん学んでくれたはずでしょう? もっと分かるようにいってよ」


「なに、単純な話さ。金貨(シルガ)の支払い先を、予選の運営者じゃなくて私に変えてくれということだ。まさか、友達のために事前に準備していた私を、少年は無下にしないよな? もちろん、色をつけてくれるだろう?」


 事情が俺にも飲みこめる。要するに、いつものタマーラってことだ。


「そういうことね。1割増しでいい?」

「完璧だ。それじゃあ、今度こそ行こうか。ハヤテ」

「いいけど、タマーラ。今みたいなの、あたし好きじゃない」


 ハヤテが言い終える頃には、すでに俺たちはコロシアムの観客席に突っ立っていた。瞬間移送(テレポート)の名にふさわしい埒外(らちがい)のスキルだ。


「そうか。なら、次からは、ハヤテの前でするのは控えよう」


 まるで言うことを聞かないタマーラに、ハヤテのツインテールが不機嫌に揺れている。


「ご、ご主人様?」


 いきなりの登場に目を白黒させながらも、ドロシーが俺のほうに近寄って来る。そんな彼女に謝りながら、俺は今一番大事なことを尋ねていた。


「もう始まっちゃった?」


 首を横に振るドロシー。

 こうしてタマーラと長時間一緒にいたからこそ、ドロシーの素晴らしさが身に染みる。……よく考えたらドロシーも十分にきつい性格をしていたわ。危ねぇ。最底辺と比較させられたせいで、ドロシーに()れるところだった。


「まだですが、もうまもなくだと思いますよ」


 ドロシーの発言に間を置かず、コロシアム全体にアナウンスの声が響く。


「大変長らくお待たせしました! それでは、これより拳闘士(グラディエーター)の予選トーナメントを開始いたします。ルールは、1ラウンド10分の勝ち抜け制。気になる第1試合のメンバーを、A・Bブロックから順に発表しましょう! 第1コーナーはケンジット対フランチェスカ。第2コーナーは――」


 観客を盛りあげようと、熱の入った声で、試合をする選手の名前が次々に呼ばれていく。

 間に合ったことに安堵(あんど)して、俺が気を抜いたとき、その瞬間は訪れていた。


「第4コーナーは、おぉっとなんということだろう。ここで外部生の登場だ! ソーニャ対ナサニエル!」


 いよいよ、ソーニャの夢を決する予選が開幕した。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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