いつもの日常的非日常
根津恵美理は、普通の中学二年生である。という事であれば物語にはならないであろう。そう、普通の中学二年生では無い。彼女は極限に眠くなると不思議な能力が発動してしまうのだ。しかし、困ったことにこの能力は選ぶことは出来ない。その時に役立つ事もあれば全く無意味な能力が発動してしまう事もある。
「… 眠い」
根津恵美理。通称「エミリー」は、昨日も、いや、今日も朝までネトゲ三昧で睡眠不足のまま学校へ来ているのだが、それはもういつもの光景で友人たちも特に咎める事も無く予定調和な毎日として受け入れられ平穏に過ぎてゆくいつもの姿。丁度お昼休みでご飯も食べ終わった後なので極限に眠く、極限にある種良い感じなのだ。
「エミリー、また何か変な力でちゃう?これ、でちゃうでしょ?」
近い間柄の友人達はエミリーの能力を知っているのだ。一緒にいる時間が長いのでその奇跡?を目の当たりにしていることも度々。とはいえ、勿論他に口外はしないし、何か起きてもやれる範囲でごまかすようにはしている。エミリーが異質な人間として差別や迫害を受けるかも知れないという不安や心配がある。当の本人は、特に気にせず呑気に過ごしていたりするのだが…。
「誰この人?え?うんうん」
どうやらエミリーには今誰かが見えているらしい。霊視の能力が今回は発動したようで、しばらく何かと会話している。
「なるほどねー。でも、もうかなり前だよね。うーん、折角見えてお話出来たからには何かの縁。協力はしたいけど… 。結果は保証出来ないよー。構わない?うん。眷属達にも協力してもらうからやれるだけやってみるよ」
「友達を眷属呼ばわりするな。変なゲームやりすぎなんだお前は!」
友人の渡辺悠子がエミリーの頭を叩く。
「ちょっと悠ちゃん!もっと優しく叩いてよ!思ってるより力あるんだから」
「軽く叩いてるけどなぁ…」
悠子はスポーツ万能でテコンドーの大会で全国大会に出るほどの力の持ち主。家がテコンドーの道場である為、英才教育を受けて育っている。その所為か普通の女子より突っ込みが強くなりがちなのだ。
「で、エミリー。何か厄介事でも引き受けたようだったが?」
「謝らずに話を摺り替えた。まぁ… 良いけど。えーとですね~」
話によれば、今回見えたのは戦争で無くなった青年の霊らしく、結婚を約束した女性がいたのだが願い叶わず青年は遠い島で命を落としてしまった。しかしながら彼女を思う強い念がこうして時を経ても消えず遂には故郷に帰還し、見える人間に出会うことが出来たので、その彼女がどうしているのかを知りたいという事のようだ。
「もう戦争が終わって相当経ってるからな。存命なら相当高齢な方だろう。でも仮にも
う居なくても、どんな人生を歩んだのかは気になるか。残してしまった人だもんな。…
泣けるなぁ」
「あぁ、悠ちゃん相変わらず熱いなぁ体育会系は… 」
「住所とかは分かってるのか?」
「うーん。昔の地名っぽいんだよね。この辺に住んでた筈だけど聞いたことない地名というか町名みたいな。古い地図とか資料が必要かもね。しかも女性なら嫁いだとすればさらに違う場所に引っ越してるだろうし」
「古い資料か。それなら里子の家だな。あいつの家なら古くからある神社だしきっと地図とかなんかあるだろう」
疋田里子。同級生でエミリー達の友人。家は、小さな山の上にある「蒼石神社」を代々守り続けている神主の家だ。
「なぁ里子。放課後良いよな?」
昼休みで自分の席で寝ていた里子に急に話しかける悠子。
「ふぇ?」
「よし、じゃあそういう事で」