入場
豪華絢爛なボールルーム。
集まったのは、世界各国の王族や要人。
世界最高峰のオーケストラ演奏が会場に響き渡り、テーブルには各国から取り寄せた最高級の料理が並んでいる。
「すっげー!マジの舞踏会じゃん!」
「こらアリス。ここでは貴賓ある淑女として振る舞うのよ。」
「判ってるって!ん?ありゃなんだ?見たことない料理だ!」
「あ、ちょっと!…もう。アリスったらぁ。」
まるで、初めてここに来た時の自分みたいだった。
「あ、お姉ちゃん。」
ミディの元に、先に到着していたアルテがやってくる。
アルテは両手いっぱいに紙を抱えていた。
「よかった。間に合ったんだね。」
「何とかね。アルテ、その書類は?」
「なんかの招待状三割ラブレター七割ってとこかな。人気者って楽しいね。」
「貴女はまだ子どもなんだから、変な大人に付いてっちゃだめよ。」
「判ってるって。大いなるモテモテには、大いなる責任が伴う、でしょ?」
「行く前に伝えたことと凄く違う気がするけど、まあそんなところよ。」
アルスケインの皇族は、美貌と権威の双方を兼ね備えている。
こういった社交の場では、とにかくモテた。
「んじゃ、うちはもうひと口説きしてくるね。お姉ちゃんももたもたしてたら、うちとアリスちゃんに全部とられちゃうかもよ〜」
アルテは手のひらを宙に揺蕩わせながら、喧騒の中へと消えていった。
(王子は…見当たらないわね。まだ来ていないのかしら。)
入り口付近でまごまごしていても仕方ないので、ミディも舞踏会会場に身を沈める事にした。
「山脈の裏から騎馬兵が押し寄せてきたと聞いた時は、流石に驚きましたぞ!」
「がはははは!貴国の重装歩兵と正面からやりあう程、うちの軍師も愚かでは無いのでな!」
右方では、ワインを片手に敵国同士の国王が談笑している。
「ですからどうか、今年だけは貿易税を免除して頂けないでしょうか。」
「うむしかし…それでは貴国の国民に負担が…」
「貴方様の為でしたら、この程度の犠牲は些細な問題ですとも!」
左方では、国王が別の国王に媚びへつらっている。
「美しいお方。僕と一曲、踊ってくれませんか?」
背後から、聞き慣れた美しい声がした。