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転生動機

「ねえ、本当にダメなの?」


「闘技場は白虎騎士の総本部です。ミディ兵科が迂闊に近付いて良い様な場所ではございません。どうかご理解下さい。」


皇宮前に止められた馬車の前。

ミディは、粗暴な相棒の帰りを待っていた。


「…ミディ様。そろそろお時間が…」


「ダメよ!まだアリスが…」


その時だった。


「おーい!へへ、走りやすい衣装で助かったぜ。」


しっかりと着付けを済ませたアリスが、ミディの元に戻ってきた。


「アリス!」


「わりぃ、思ったよりも数が多くてな。」


再開を喜ぶ二人。

だが、そう時間も無い。


「お二人とも早く乗ってください!ルソーフ共和国までは遠いのですから!」



〜〜〜



白虎騎士団本部。

ハクトルギルド。


「このハクトルの風上にも置けぬ雑魚共がああああああああ!!!」


決して広くはない団長室が、白虎騎士団長の怒号で揺れた。


筋骨隆々の身体。

老いにより白く染まり、然し力強さの失われていない髭と髪。

獣の骨で装飾された、銀色の兜と鎧。

目の周りに施された赤い化粧は、彼が部族の長である事を示している。

彼の名前は、ギ。動物の首の骨を折って殺すと言う意味だ。


「す…すみません!あいつ、俺たちの武器を奪う上に、すぐに急所を狙ってきやがって…」


「言い訳をするな見苦しい!35対人も引き連れて丸腰の小娘1人に惨敗し、挙げ句の果てに情けまでかけられおって…」


ギは、大剣を杖代わりに立ち上がる。


「弱者はハクトルには必要無い!罰として、撲打ち1000本を…」


「待てよ。爺ちゃん。」


いつのまにか部屋に居た男が、ギを制止する。


「何じゃ、パよ。儂に何か文句でもあるのか?」


黒髪。黒い瞳。

首から下は、正規品の鎧で覆われている。

パ。意味は、魚や小動物などを捻り殺すと言う意味。

ギの孫で、現在は副団長をしている。


「曲がりなりにも、彼らは誇り高き部族の戦士だ。それが35人も集まって全滅したんだったら、相手の方がおかしいに決まってるだろ。」


「つまり、相手が儂らよりも強いと?」


「さあ。俺もこの目で見たわけじゃ無いから解らない。でも、」


パは、鞘から剣を抜く。

それは鋼ではなく、極限まで研ぎ澄ました獣の骨だった。


「負け犬どもを懲らしめるのは、負かした相手を見てからでも良いんじゃねえかと思って。」


「むぅん…」


ギは座り直し、酒瓶を取り出してラッパ飲みする。


「奴は今何処にいる。儂が直々に挑んでやろう。」


「い…今頃は舞踏会かと。」


「何ぃ!?」


ギは酒瓶を背後に放り投げる。


「お…おおおお前ら、まままままさか、ここ皇女に手を出した訳じゃあ無いんだろうなぁ!?」


「いえ!相手はその付き人です!」


それを聞いたギは、ほっと胸を撫で下ろした。


「びっくりさせおって…良いか、くれぐれも麒麟騎士だけは敵に回すなよ!解っているな!」


「重々承知しております!」


この世には一定数、化け物と呼ばれる部類の人間が存在する。

麒麟騎士団はその筆頭で、皇国が他国と対等以上に渡り合えている一因でもある。

ギがまだ現役だった頃、上層部がクーデターを画策した事があった。

彼らは皇女に決闘を申し込み、当然断られたので、それを理由に皇女を殺した。


「奴らは、化け物じゃ…」


総勢七名の麒麟騎士によって、クーデターに関わった300名以上の白虎騎士が一夜にして一掃された。

この鮮烈な事件は、麒麟騎士とアルスケイン皇国の異常性を世界中に知れ渡らせるきっかけとなった。



~~~



「ふぅん。麒麟騎士ってそんなやべー奴らなのか。」


早馬に引かれる馬車の中。

アリスはミディから、騎士について教わっていた。


「不朽なる聖鎧を纏いし、七柱の英雄達。建国以来ずっと同じメンバーだって噂もあるわ。」


「へへ、何だよそれ。てことはあいつら、3500歳以上ってことか?」


「あくまでもただの噂よ。フルプレートで顔が見えないし、使ってる武器もずっと変わって無いからそう言われているだけだと思うわ。」


馬車は森を抜け、海を超える為の巨大な橋に入る。

舗装された道なので、揺れや音は一気に改善された。


「にしても、この国って結構不思議だよな。」


「そう?まあ、異世界から来た貴女にとっては珍しい物ばかりかも知れないけど。」


「まあそれもそうなんだが、なんて言うか、要所要所がアンリアルなんだよな。」


魔法やドラゴンは居ないが、一騎当千の騎士は居る。

妖精や悪魔は居ないが、浮世離れした身体特性の一族は居る。

この橋も、いつ誰がどうやって建造したのか何も分かっていない。


「あたしら以外にも居るのかね。遥か遠くからやってきた奴。」


車輪の音が増える。

他の出席者達だ。


ルソーフ共和国は絶海に阻まれた島国で、全ての大陸と橋で繋がっている。

かの国は永世中立の立場を掲げ、海産物と、各国に会談や社交の場を提供する事で成り立っていた。


「…なあミディ。舞踏会でなんか起こる予定は?」


「私が運命のお方と出会うくらいね。特にトラブルは無い筈よ。」


ふとミディは、王子をアリスかアルテに取られるリスクを考えた。

王子がアルスケイン側に付くと言う事象は変わらない。何の問題も無い。

だが、それはミディが嫌だった。

皇国の存続も元を辿れば王子と添い遂げる為の手段であり、皇位の継承も王子と婚約した結果起きた事象に過ぎない。


(王子にも選択の自由はあるわ。でも…)


ミディはふと、アリスの横顔を見る。

年相応にあどけないが顔立ちは若干凛々しく大人びており、時が経てば絶世の美女へと育つだろう。

アルテもそうだ。当然ながら顔立ちはミディと似ているが、髪は皇族の中でも珍しい銅色。この差異がどう出るかは未知数だ。


(…完全に計算ミスね。アリスは不可抗力としても、アルテを口説くのはもう少し後でも良かったわね。)


前世では起きなかったアルテの暗殺事件を食い止める事は出来たが、それは結果論だ。


「…ねえアリス。」


「あ?」


「貴女は、どんな殿方がタイプなの?」


「ちょ、何だよ急に!好みの男?そうだなぁ…」


アリスは少し考えた後、結論を出す。


「あたしより強い男が良い!」


その瞬間、ミディの中の脅威リストからアリスが消し飛んだ。


(残るはアルテね。私の記憶が正しければ、王子もルクスィア教を信仰していた筈。)


日を追う毎に、アルテの存在は国家でも重要なものとなっていった。

彼女が教皇となった暁には、アルスケインは末永い繁栄を手にしていただろう。

そして、連邦はそれが気に食わなかった。


(歴史か宗教か、それとも水面下でいざこざがあったのか、はたまたアルスケインにある何かが欲しかったのか…)


連邦がアルスケインと敵対する理由、いつから敵対していたかなどは、未だに分かっていない。

今回の舞踏会には連邦の議員も何人か出席する。

多少危険は伴うが、そこはかとなく彼らと接触してみるのもいいかもしれない。


「ねえアリス。」


「今度は何だ?」


「もし何かあったら、私のこと、助けてくれる?」


今度は即答だった


「ったりめえだ。そういう約束だろ?」

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