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祖なる聖魔

「あぶね!」


瞬時に反応したアリスはアルテを押し倒し、飛来してきた矢を剣で弾いた。

落とされた矢の先から、カーペッドに毒が滲み出てくる。


「二人とも!鼻と口を覆って伏せろ!」


アリスは叫ぶ。

皇女二人は従う。


案の定、2本目の矢が飛んできた。

矢は部屋の壁に突き刺さると、矢羽の先から紫色の液体を滴り落とし始める。

零れ落ちた毒からは、紫煙が立ち上り始めた。


「うっわ殺意マシマシじゃん。取り敢えず部屋出るぞ。」


アリスは匍匐(ほふく)前進でドアの前に辿り着き、肘で開ける。


「早く出るんだ。ほら、急げ!」


全員の脱出を確認すると、アリスは部屋のドアを閉めた。

部屋には毒が充満していき、飾られていた観葉植物はみるみるうちに枯れて行った。


「何事ですか!?」


騒ぎを聞きつけた使用人がやってくる。


「すぐに騎士を呼んでくれ。狙撃手が、皇女様の部屋に毒矢を。」


アリスが状況を説明すると、使用人は大慌てで人を呼びに行った。


「ップハ!ここ五階だろ!?どうして矢なんか…」


動揺するアルテ。


「この世には、船の上から灯台の作業員を狙撃する弓使いだって居るの。不思議な事でも無いわ。」


落ち着かせようと知識を披露したミディだったが、

「つまりどこにも安地無いって事じゃん!どうすんのさ!?」

アルテは余計にパニクってしまった。


「落ち着け皇女様。どんな狙撃手でも、遮蔽物で射線を遮れば撃てやしない。窓から見えないここなら大丈夫だ。城全体をガス屋敷にしたかったら最初からそうしてるだろうし。」


ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ。

甲冑の擦れる音がする。


フルプレートアーマーと大剣。

胸には金色の麒麟。

マントには有翼の白山羊を描いたアルスケイン皇国の紋章。


皇女の有事に、皇家直属の精鋭部隊、麒麟騎士がやってきた。


(私の時とは対応が大違いね。)


待遇の差に少し不貞腐れつつも、ミディはほっと胸を撫で下ろした。


「皇女御二方。お怪我はございませんか?」


「ウチもミディも大丈夫だよ。そこの褐色ちゃんが助けてくれた。」


麒麟騎士が、アリスに跪く。


「ミディ陛下の近衛(このえ)殿。此度は我らが皇女をお助け頂き感謝致す。」


「い…いや、あたしはただ職務を全うしただけで…」


「そうご謙遜なさるな。貴女の噂は我々にも漏れ伝わっている。男に生まれていれば、是非とも騎士として力を振るっていただきたかった。」


「………」


この国では、女騎士は許されなかった。

たまたま女系社会とマッチしただけの、特に意味の無い古くからのしきたりだ。


「アリス殿。矢の軌道は覚えておられるか?」


「あ、ああ。窓から直接飛び込んできたから、方角は北だと思うぜ。」


「流石は気高き戦士。情報、感謝する。」


そこに、追加でもう一人騎士が来る。


「容疑者を捕縛いたしました。雇われの殺し屋です。毒の種類も特定できたので、除染可能かと。」


「そうか。報告感謝する。」


麒麟騎士は立ち上がると、一つ会釈し、容疑者の尋問の為にその場を後にした。

入れ替わるようにやって来たのは、防護服に身を包んだ朱雀騎士団。


「アルテ陛下殿。除染が完了するまでの間、我ら朱雀騎士団に貴女の私室への入退室の御許可を頂ければ幸いです。」


「許可するよ。ちゃちゃっとやっちゃって。」


「ありがたき幸せ。では毒煙が出ます故、どうか離れてください。」



〜〜〜



「わぁ、お姉ちゃんの部屋広いねぇ。物が全然無いや。」


かくしてアルテは、暫しミディの私室で過ごす事となった。


アルテ殺害未遂の容疑者は、反教会派の人間だ。

教会の力が失墜しているせいで、その教会が国家の一柱を担っている事に疑念を持つ者が沢山出ているのだ。


「よく食べ物に毒を盛られたり、夜中に暗殺者が忍び込んできたりしたこともあったけど、ここまでド派手なのは初めてかな〜。やっこさんも余裕ないのかね。」


アルテは安定などしていない。

誰よりも危険なポジションで毎日を過ごしていたのだ。


「それでアルテ、本当に出馬してくれるの?」


不安になったミディは、改めて確認する。

時期皇女の座を狙うという事は、それだけ目立つという事。

暗殺のリスクは、今までとは比べ物にならない程跳ね上がるだろう。


「お姉ちゃんのすすめだもん。無下にはできないでしょ?それに見てみたいんだ。この国でルクスィアの祭典が祝われている所を。」


アルテはそう言うと、懐から啓典を取り出した。

他の物にはさして執着しないが、この経典だけは片時も手放さない。


「まあ、暫くはよろしくね。お姉ちゃん。」


「可愛い妹を拒む姉なんて居ないわ。」



~~~



眠らずの摩天楼。

跋扈するのは人と怪異。


煙草を咥え、煌々と輝く娼館の壁にもたれかかり、手にはルクスィア教の経典『アウラーチカ』。


「…実に興味深い。ベルフェゴールの水牢はとんだ欠陥品だった様だ。」


アルスケイン皇国の皇族には、共通した特徴がある。

銀色がベースの髪。青く澄んだ瞳。魅力的な容姿。遅老長寿。

性欲旺盛。通常の半分以下の妊娠期間で出産。故に子沢山。そして、生まれる子の殆どが女性。

ここまで特異ともあれば、疑わない方が難しい。


「祖なる聖魔たぁ、また随分な肩書を貰ったもんだな。」


ジッドは経典を閉じ、夜空を見上げる。

摩天楼に掻き消され、星は見えない。


「なあ、リッテ。」

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