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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第二章

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第18話 さらなる計画

 結局、珈琲の値段は焙煎後の状態で一袋金貨二十枚に設定された。

 強く主張したウィリアムに折れた形だ。


 砂糖と比べると極端に安いように感じるが、これは珈琲の価値自体がそもそも誰にも理解されていない点がネックになった。

 比較対象がこの世界のお茶で考えると、どれだけ高級品であろうと砂糖のような値段はつけられない。


 たしかに薬として飲むならともかく、嗜好品として飲む場合には、とんでもない価格になってしまう。

 金貨一枚が現代貨幣で百万円相当なのだ。一袋でおよそ二五杯ぐらい飲めるとは言え、一杯で八十万円。

 相手が貴族とはいえ、冷静に考えれば常識的な価格ではない。


 地球での比較対象として、一七世紀にイギリスに初めて入ってきたお茶の値段がある。

 一ポンド(一〇〇グラム)に対して、八シリング。

 非常にざっくりと換算すると二万四千円ほどだ。


 むしろ金貨二十枚で売れると豪語するウィリアムの手腕こそ見事なものだろう。

 物珍しさや取引の主導権を得るため、あるいは流行の最先端を維持するため。

 理由としては珈琲単体ではなく、様々な思惑が絡んだ『付加価値』も考慮して、購入されるのだと思われた。


「主といるといつも思うけど、金貨を稼ぐのって簡単なのかなぁ」

「いやあ、俺が特別恵まれているだけで、本当はもっと苦労するものだと思うぞ」

「だよねー。アタシも傭兵や戦士として働いても、こんなに簡単に稼げなかったし」


 エアがどことなく気落ちした様子で言った。

 たしかにエアのとんでもなく優れた能力を発揮していながらも、奴隷に落ちてしまった境遇を考えれば、今の状況にしっくりとこないものを感じてもおかしくない。

 それに、渡自身も儲けすぎなのではないか、という思いが拭えなかった。


「俺は儲かるから良いけど、健全な値段じゃないよなあ」

「主も同じなんだ。なんだかちょっと安心したかも」

「そうだなあ。俺ももともとは平凡な生活を送ってきたし」

「あまり考えすぎないほうが良いのではないでしょうか?」

「それはそうなんだけど、俺としてはもう少し常識的な値段でもっと多くの人が飲めるようになってほしいな。今のままじゃ難しいけど」


 慰めてくれるマリエルには悪いが、渡はどうも居心地の悪さを感じていた。

 価格を下げるには流通量を増やすしかない。

 だが、それにはゲートを行き来する人数を増やすか、渡たちが一日中せっせと働き続けるしかない。

 どちらもできなくはないが、信用や可処分時間の問題が立ちふさがる。


「ところでご主人様、その後の計画というのは、何を考えられているのでしょうか?」

「そうだな、今のうちに話しておこうか。一応エアも聞いておいてくれ」

「はーい。めずらしいね、アタシにも関係あること?」

「ああ。俺はこの珈琲豆を、こちらの世界で育てようと思っている。そうすれば流通のボトルネックが解消されるはずだ」

「ええっ!? 異世界で新しい植物を育てる!? そんなことが可能なのでしょうか? たしかにそれならゲートの問題は解決されるでしょうが」


 渡の発言にマリエルがきょとんとした表情を浮かべた。

 そんなことは考えてもいなかったという反応だ。

 エアの反応はよく分からない。

 ふーん、と頷いて、護衛に専念している。

 ただ話を聞くつもりはちゃんとあるようで、立派な虎耳が渡の言葉に合わせてピコピコと向きを変えた。


「分からない。できるかもしれないし、できないかもしれない。試してみないとそれすらも分からないけどな」

「そうですね。でも、試してみる価値は十分にありそうです」

「マリエルもそう思うか」

「ええ。今のままだと残り続ける問題がスッパリと解決できるわけですし」


 マリエルの表情が輝いている。

 相当これは興味を抱いている。

 ただただ世界間の行き来を続けるのではなく、違う世界に根付かせることに興味や関心があったのだろうか。

 あるいは、マリエルの能力を活かせる場面だからかもしれない。


「ただ珈琲豆ができるコーヒーノキは、地球のどこに植えても育つってわけじゃないんだよ」

「そうなんですか?」

「ああ。寒くなると枯れてしまいやすくなるから、冬でも温かい地方に限られるんだ」

「実際にどれぐらいの暖かさが必要なんでしょう?」

「だいたい気温で〇度ぐらいまで。風が強い場所だと五度でも枯死する。おまけにそれなりに降水量も必要なんだ。地図で見ると、明らかに横に広がった特定地域ばかりで育つから、コーヒーベルトって言われてる」


 コーヒーノキの植生は温帯地域に密集している。

 近年では中国なども莫大な消費量に合わせて栽培が行われているし、日本でもビニールを被せたりして寒さ対策をすれば作れないことはないが、その分のコストは避けられない。

 可能ならば自然に育つ土地が望ましかった。

 渡の説明にマリエルは頷き、思案し始める。


「なるほど。どこでも育つわけではないんですね」

「ああ。だからこそ、どこに植えたら良いかが知りたい」

「ある程度高温で雨量が多くて、農園ができるぐらいにモンスターに襲われない土地があってですよね。となると、こちらでも場所はある程度限られてしまいそうです」

「ああ! モンスターの影響も考えないといけないのか」

「場所によっては耕作地を放棄しないといけない事態になりますから、とても重要な要素です」


 渡にはそもそもモンスターが考えになかったが、言われてみればたしかに大切な要素だ。

 農家の人の命に関わるし、またコーヒーノキがモンスターの興味を引く可能性もなくはない。


 できるだけ安全な地域に絞られてしまう。

 マリエルがうーん、と唸りながら、言い出しにくそうにし始めた。

 案があるが、言いたくないとも取れる態度だ。


(一体何を気にしているんだろうか?)


「となると……いや、でも……」

「なんだ、思い当たる候補があるのか?」

「え、ええ……。条件的には十分当てはまると思います」

「できたら教えてほしい。そこを選ぶかどうかは、聞いてからの問題にしよう」


 渡の言葉にマリエルはさらに悩んだ後、意を決したように唇を一度噛みしめると、ぼそりと呟いた。


「私の、元領地です」

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