第59話 ポーション製造の大きな壁
異世界で隠密衆が下手人を探っている頃。
そして、水城議員が鷹野議員とバチバチに火花を散らしている頃。
渡たちは、工場に足を運んでいた。
しばらく書類仕事に忙殺されていた渡の足取りはフラフラで、目は虚ろ。
慌てたマリエルやエアたちが癒やしを提供しても、しばらくは茫然自失といった様子だった。
とはいえ数日の休暇を挟んで、渡も多少は気持ちを持ち直すと、サレムに進捗確認を行えるぐらいにはなった。
工場は相変わらず人手は少なく、やや閑散としている。
事務室などの放置されていた机などは少しずつ整理整頓されたりして、大きなスペースができていた。
工場長の平田が使っていない家具などを片付けているのだろう。
今後、工場が順調に発展していけば、たくさんの社員で溢れることになりそうだ。
相変わらずエアとクローシェは、キャッキャと笑いながらクリーンルームで騒いでいた。
製造スペースに入ると、サレムの下に足を運ぶ。
それまで画面を難しい表情で睨みつけていたサレムは、渡たちの姿を見ると、眉を下げた。
「調子の方はどうですか?」
「おおっ、申し訳アリマセン、解析は進んでいるのですが、どうしても、再現ができないのデス……。もっと早く全解析が終わると見込んでいたのですが、手こずっています!」
「特定は難しそうですか?」
「見落としているパターンがないか確認してイマス! 複数要因による相互影響が関与していたら、見落としている可能性も考えられマスので」
「分かりました。幸い、原材料の生産や増産計画なども必要ですから、まだ十分な猶予はあります。十分な検討をしてみてください」
「ご期待に応えられるヨウに全力を尽くしマス!」
「よろしくお願いします」
「どうか吉報をお待ち下さい!」
「そんなに肩に力を入れなくて大丈夫ですよ。ただ、難しいようなら、気にせず報告してください。研究設備を充実させたり、まだまだ頼りたいこともありますし」
サレムは緊張した表情で、深く頷いた。
神からの試練と捉えている節のあるサレムにとっては、この分析はなんとしても成し遂げたいものなのだ。
だが、サレムの責任や能力不足とは思えない。
魔力という、目に見えず触れることもできない。
一般人にはあるかどうかも定かではないものの影響を考慮せずに、薬の成分を分析しているのだから。
見つかればラッキー、ぐらいの感覚でいた方が良い。
思うような成果を発揮できずに悔しがるサレムとは一度離れ、渡たちは部屋を移って、今後の計画について話し合うことにした。
「やっぱり魔力の関与は大いに関係していそうだよな。どういう仕組みが考えられるんだろうか?」
「ご主人様の実家で栽培したポーションの原料では、効果が発揮しませんでしたからね。確実に魔力が何らかの働きをしていることは、間違いないかと思われます」
「考えられるとしたら、魔力によって薬草の成分、組成自体が変わったのかと思ったんだ。だけど、投与した際に体に何かしらの影響を及ぼす切っ掛けになってる可能性も考えられるか」
「ポーションの成分を発揮させる、引き金を引く役割として、魔力が作用している、ということですね」
渡の疑問にマリエルが答える。
エアとクローシェは完全に話に入る気はないようで、壁にもたれて立っていた。
製造の全工程を知っているステラは、自分からは発言しないものの、真剣に会話に耳を傾けている。
一番感覚として理解しているのは、ステラなのは間違いない。
「ステラの直感ではどっちが考えられる?」
「あなた様の推測で間違いないかと思います。成分の変化ではないでしょうねぇ。サレムさんには申し訳ないですが、今のままだと完全な特定は難しいです」
「それは、どういう根拠から言ってるんだ?」
「回復魔法がありますから」
「ああ……。なるほどな。薬草がなくとも、魔力と呪文によって治療が可能なら、最終的に治療は魔力によってなされてるんじゃないかってことか」
「植物素材は、呪文や魔力操作に該当するかもしれないなあって思うんですぅ。もしくは、成分を体に作用させるのに必要なのかもぉ?」
「そういうのは前々から考えていたのか?」
「いいえ。あなた様の下で活動するまでは、よく効きさえすれば良いとばかり思ってましたからあ。わたしも考えが深まって嬉しいです」
エルフの一族としては虐げられ、捕虜になってからは、黙々と錬金術師として働かされていたステラだ。
自分のやっていることは必要に駆られてであって、そこまで探究心を働かせる余裕はなかったかもしれない。
だが、今は自分のやっていることに意味と意義を見出している。
自分のやることの意義を知っている人は、自然と輝いて見えるものだ。
ふにゃっと笑うステラの笑顔は、可愛らしくも美しかった。
「しかし、そうなると薬理作用の同定と、魔力の測定器具の開発が必須になるな」
「そうですねぇ……」
サレムの解析には、もしかすると魔力測定機の開発が必須になるかもしれないな、と思った。
今の状態では、サレム博士だけでも、ステラだけでも、おそらくポーションの効果を発揮する原理は解明できない。
魔力は地球にある、とステラは言っていたし、龍脈のある土地を購入して、実際に慢性治療ポーションの製造には成功している。
だが、魔力自体を測定する器具は、この世界に存在しない。
医学論文として認められる為には、その仕組みを解明する必要がある。
これまで認識されていなかった力を測定する、となると大変な大仕事を予想させた。
「測定機の開発ってできそうか?」
「分かりません。ですが、魔力がある以上、きっと手はあると思います」
「そうか……」
ステラが言うのだ。
きっと方法自体はあるのだろう。
今後はその開発も行っていく必要がありそうで、前途多難だな、と思わされた。
慢性治療ポーションはともかくとして、急性治療ポーションは、魔力を必要としないことが分かっている。
こちらはこちらで、とんでもない威力を発揮する。
手術後にかければ即座に傷口が回復するだろうし、災害や事故、あるいは傷害事件など、非常に使えるシーンの多い薬だ。
あるいは、一度急性治療ポーションも、何かしらの活用を目指すべきかもしれない。
渡は複数の方向性を考え始めた。





