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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第七章

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第54話 おはよう、命

 データの圧倒的な効果に驚愕する水城を前に、渡は新薬についての説明を始めた。

 元々は知られていない部族の秘薬だったそれは、すでに長年の実績があり安全であること。


 その秘薬を量産することを考え、いま科学的な根拠を取得して、量産体制を整えていること。

 今後、遅かれ早かれ世界的に販売されるのは間違いないということ。


 そして、水城の希望次第では、今すぐこの薬を渡しても良いと考えていること。

 とくに最後の提案には、水城は即答できなかった。


 唾をゴクリ、と飲み干す。

 雲雀の数々の絶品料理も、今ばかりは味を失ったようだ。


 対価を先に受け取ってしまえば、水城には今後断るという手は取れなくなる。

 長年、議員として活動してきて、先に報酬を受け取る怖さは、嫌というほど知っている。


 紹介元の祖父江の顔も考えれば、どのような状況でも、約束を反故にするわけには行かない。(元々そのつもりはないが)

 今後状況の変化もあるだろうし、どのようなトラブルが起きるか分からない以上、逃げ道を失うことは非常に恐ろしいことだ。


 それでも、命を助けられる可能性のあるこの薬は、喉から手が出るほどに欲しい。

 今すぐ受け取って、その足で飲ませに行きたいぐらいに。


 渡はマリエルに目配せすると、鞄を受け取って、中から物を取り出した。

 液体の入った小瓶が、卓の上にそっと置かれる。


「こちらがその薬です」

「……それが……」

「水城先生の場合は、承認に向けてご協力いただければ、それを対価とさせていただきます」


 水城の目が、瓶に吸い寄せられた。

 小さな瓶だ。


 だが、薬は量ではなく、薬効だ。

 どれほど小さく見えても、効くものは著しく効くことを、水城は熟知している。


 これがあれば、これがあれば、娘を助けられるかもしれない。

 実物を前に、目が釘付けになる。


 ハッ、ハッ、と浅く呼吸が繰り返される。


 得られる報酬と、抱えるリスク。

 二つの天秤に揺れる水城の心を見透かしたように、渡はヒョイッと薬の瓶を手に取ると、再び鞄に仕舞ってしまう。


「あっ……!?」

「どうやら、まだその時ではないご様子ですね。次の機会にいたしましょう」

「ちょっと待ってくれ!」

「はい、どうぞ。ごゆっくりとお考えください」


 渡が再び、薬を取り出す。

 まったくなんという落ち着きだろうか。


 向こうは向こうで伝手を求めているはずだと言うのに、実に落ち着いていて余裕がある。

 それだけに、水城はどうしてもその薬を手に入れたいという気持ちが、より強くなった。


 目の前に突如として転がってきた、娘を治せるチャンス。

 それを取り上げられそうになった時、水城の心は決断に迫られて分かった。


 たとえこれが毒饅頭だとしても、自分には食べないという選択肢はない。

 吹っ切れてしまえば、悩んでいた自分が馬鹿みたいに感じた。


 娘の命と、人生と引き換えならば、今後どのような結末に至っても構わないじゃないか。

 そう思えば、躊躇していた意味がなくなる。


「喜んで提供を受けるよ。今後、用があるときは連絡してくれ。僕の叶う範囲内では協力する」

「分かりました。よろしくお願いいたします」


 頭を下げる青年を見て、この交渉は自分が完敗だな、と水城は思った。

 だが、それも別に悪い気はしない。


 必要とするものが、何よりも切望していたものが手に入ったのだ。

 あとは、実際に効果があれば――――。






 再び病院へと訪れた水城は、慢性治療ポーションを手に、ゆっくりと命のベッドに歩み寄った。

 一定の呼吸音とエアコンの静かな音だけが部屋に響いている。


 本当に効くのだろうか。

 ふたたび、娘が目を覚まし、元気になってくれるのだろうか。


 ベッドの横に見舞客用の椅子に腰掛けると、投薬のための準備をした。

 瓶の蓋を開き、スポイトを使って、眠る命の口に、少しずつ少しずつ流し込む。


「さあ、飲んでくれ。すごい薬なんだよ」


 返事が帰ってこないと知りながら、何度呼びかけただろうか。

 声をかけながら、じっと姿を見つめる。


 祈るように見つめる水城の前で、命はゆっくりと嚥下していく。

 良かった、飲んでくれた。


 さあ、それでどうなる。

 一体いつ効果が出る?


 投薬後速やかに効果が出る、と書かれていたが、実際にどれぐらい待つのか分からず、水城はその時を、切望しながら待ち始める。

 反応はすぐに現れた。




 ――光だ。




 命の全身から、うっすらと光が発している。

 治癒反応だ。


「おっ、おおおっ……おおおおおおおおっ……!?」


 ポーションが萎縮した神経に反応し、驚くべき速さで回復させていく。

 体そのものが発光するという、初めて見る光景を、水城は魅入られたようにそれを凝視していた。


 頼む。

 頼むから効いてくれ。


 娘を治してくれ、目覚めさせてくれ。

 もう一度、この可愛らしい大切な娘に、元気な姿を取り戻してくれ!


 少しして、光がすべて収まった。

 命の外見にはあまり大きな変化は見られない。


 だめか、やはり、ダメなのか……?

 それとももっと飲ませないとダメなのか?


 食い入るように見つめる水城の顔に、失望が浮かび上がる。


 期待しただけに、命が目覚めなかったことへのショックも大きかった。

 頭を抱え、じっと床を見つめる。


 期待と落胆を繰り返し、また裏切られる。

 一体いつまで、いつまで待てば良いのか。

 薬ができるのが先か、命が潰えるのが先か。


 胸の中に黒いもやが立ち込め始めたその時、ガサッと音がした。

 枕と髪の毛の立てるこすれた音に、水城は弾かれるように顔を上げた。


 その瞬間、時が止まったように感じた。


 長い長い眠りから、ついに目覚めようとしている命の姿。

 水城の心臓が激しく跳ねた。


 命が、娘が目を開けている……!?

 ぼんやりとした命は、状況が掴めていないのか、長年使っていなかったために掠れる声で、たどたどしく話した。


「お父、さん……泣いてるの?」


 その声を聞いた瞬間、水城の胸に熱いものが込み上げた。

 何年もの間、聞きたくても聞けなかった、大切な娘の声。


 それは、まるで奇跡のように、水城の耳に届いた。


「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ」

「ほんとう……?」

「ああ、ああっ! 悲しくて泣いてるんじゃない。嬉しい、嬉しいんだよ。とっても……!」


 喜びに、声が震えた。





 良かった。





 それしか言葉が思い浮かばない。

 千語万言を費やしてもなお足りない、感無量の喜びと感謝。

 命が目覚めた。


 ぼとぼとと涙がこぼれて、ベッドのシーツを濡らす。

 長い長い闇の中から、ついに光が差し込んだような、晴れやかな気持ちだ。


 水城は、命の手をそっと握りしめた。


 あったかい……。


 その温もりが、確かに生きている証だった。


 もしかしたら、もう二度と聞けなかったかもしれない、大切な娘の呼ぶ声。

 視界が涙でにじんで、娘の顔を見たいのに、何も見えないじゃないか。


 大量の涙を流しながら、それでも水城は満面の笑顔を受かべている。

 心底に喜んでいる。

 この瞬間が、何年もの苦しみを、すべて報いてくれた。



「おはよう、命」



 ああ、そうだ。

 (みよ)に知らせてやらないと。

もし良ければ高評価をよろしくお願いいたします。


COMICユニコーン様にて、コミカライズが連載開始しました。

https://unicorn.comic-ryu.jp/145/


ぜひ読んでください。


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― 新着の感想 ―
無粋な話ですが、間違いなく贈収賄になりますね。新薬認可にあたっては既得権益を持ってる薬品メーカーやその支持を受けた議員連中がいるはずなので、後々足を掬われそう。後からでも、代金支払いの事実を残しておい…
ガリガリに痩せた人の手って冷たいから筋力もある程度戻ってるんだな……とおもったけどダーウードの時は痩せたままだったから血行がよくなっただけかな?
真面目にかんがえると ほかの薬まつたくうれなくなりそう
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