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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第七章

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第41話 クローシェとの結婚③

 モイーの用意してくれた館の一室で、面会をすることになった。

 ここでなら、いざという時に感情が爆発しても、最低限の抑制効果を期待できるだろう。


 使用人に案内されて部屋に向かい、扉を抜けた先に、その男がいた。


 クロイツェル・ド・ブラド。

 世界でも有数の傭兵団を率いる、黒狼族の族長だ。

 銀の虹彩。こめかみに残る傷痕。


 その瞳は、その傷痕のように、冷たく、鋭く、そして深い。

 こちらを見透かすように、強い視線が渡を貫いた。


 魂をぎゅっと掴まれるような感覚に、胃が震えた。


 顔立ちは凛々しく、十分に整っている。

 黒狼族の名の通り黒々とした髪は長く、後ろに流されていた。


 モイー卿の館に訪れていることもあって、フォーマルな服装をしていたが、胸に大きな徽章が取り付けられていた。

 大きな狼が遠吠えを上げているシンボルマークだ。


 体型は、その名の通り、狼に似ている。

 神話に出てくるような大狼のように、力強く、無駄が削ぎ落とされていて、そのままでは人間の体には見えないほどの筋肉がある。


 渡はひと目見て、全身から漂う歴戦の猛者の息吹を感じた。

 渡なりに今日の邂逅は、それなりに覚悟を望んでやってきている。


 貴族相手にもなんとか渡り合えるだけの胆力をつけたし、自信も積み重ねてきた。

 同じように強く敵意を向けてきたクローデッドによって、経験も積んでいる。


 それでも呑まれてしまいそうになるほどの、その圧倒的な存在感。

 エアがそっと背中に触れてくれなければ、そのまま呑まれてしまっていただろう。


 渡はごくり、と唾を飲み込み、そのままその視線を受け止めた。

 ほう、と感心したようなクロイツェルは表情を浮かべる。


「ずいぶんとお待たせしたようで、申し訳ない。堺渡です。はじめまして」

「ブラド家の当主、クロイツェル・ド・ブラドだ」

「ずっとクローシェから、素敵な父親であり、同時に非常に優秀な団長なのだと伺っていました。本日はよろしくお願いいたします」


 良く響き渡る声だ。

 力強く、何度も戦場で響き渡ったのだろう。


 渡は軽く頭を下げた。謙るわけにはいかない。

 だが、クローシェの父親として、あるい年長として、その礼を尽くすのは当然のことだ。


 挨拶を済ませて、一度部屋の椅子に座る。

 後ろにエアが周り、本日の主役であるクローシェが、渡の隣に座った。


 クロイツェルに同席する皆を紹介した後、クローシェがにこやかな笑みを浮かべて、クロイツェルに抱きついた。


「お父様! お変わりないようですわね。こうしてお会いできて元気そうな顔を見れば、胸がいっぱいですわ!」

「久しぶりだな。……随分と大人な(・・・)顔をするようになったな。元気にしていたか?」

「ええっ! もちろんですわ! お姉様を探す旅は色々とありましたけど、お姉様とも無事再会できましたし、今は幸せに暮らしていますわ!」

「無事に、な。クローデッドからは色々と聞いているが、まあ今は良いだろう」

「うぐっ……。そ、それでもわたくし、不幸じゃありませんもの。こうしてお父様ともう一度会えたこと、とても嬉しく思っていますわ」

「それは父もだ」


 呆れたような苦笑いを浮かべるクロイツェルの目は厳しい。

 信じて送り出した娘が、奴隷の身に堕ちていたのだ。


 アヘ顔ダブルピースもビデオレターもなかったが、クロイツェルからすれば、どうしてこうなった、と頭を抱えたことだろう。


 それでもクロイツェルはクローシェを優しく抱きしめて、その無事を確かめた。

 黒く長く太い、豊かな尻尾を、クローシェの胴体に絡ませる。


 クローシェも普段は口に出さないが、家族愛は相当に強い。

 狼という群れを作る種族特性がそうさせるのか、父親との再会に目を潤ませていた。


 クローシェが帰れなくなった元凶の一人ではあるが、会えて良かったなあと心から思える。

 親子仲は、可能であれば良くあって欲しい。

 自分にはきっと望めそうにもないからこそ、クローシェもマリエルも、大切にしてほしかった。


 ゆっくりと再会のハグを終えた後、二人が離れる。

 そして、席に座ったクロイツェルの目が、再び渡へと注がれた。


「クローシェの態度を見ていれば、ひどい扱いを受けていないのは分かった。娘をそれなりに無事に(・・・)保護してくれたことを心より感謝する」

「た、大切な娘さんをお預かりさせていただいております。正当な対価とはいえ、彼女を奴隷の身としてしまったことには、ご家族には納得いき難いということも分かっています。話がまとまれば、彼女を奴隷から解放する予定です」

「それでは、話を始めましょうか」


 家族に向けていた暖かく優しい目が、今は大きな刃物のように、渡に注がれる。

 マリエルの時とは状況が違う。


 彼女の場合は、売却された奴隷を購入しただけだが、クローシェの場合は勝負に負けて奴隷に堕とされた。

 その違いは大きい。


 クロイツェルは自身が戦士として非常に優秀なだけではなく、群れの長として統率するカリスマに優れて、また一族の行く末を決める能力もある。

 貴族相手の手強い交渉も長年続けてきただろう。


 当然、今回の渡の目的も、十分に察知しているに違いなかった。


「先ほど、あなたはお預かりしている、と言われたね。であるならば、娘を返していただきたい」

「それでも結構です」

「主!?」

「落ち着け、エア。クロイツェルさん。その後ですが、俺に彼女を嫁に迎えさせていただきたいのです」

「ほう。あなたはすでに他に三人の奴隷を抱えていて、それぞれに大変仲が良さそうだ。その中で、娘は正室に迎えるということわけかな?」

「はい。そしていいえ。俺は正室側室の序列を作るつもりはありません。いわゆる愛人や妾といった立場で満足してもらうつもりも、ありません」

「自分が何を言っているか分かっているのかね? 序列を作るのは、結果として秩序に繋がり、安定をもたらす。みんな仲良く、というのは理想ではある。だが、それはあくまでも理想であって、現実にはそうはいかない。大抵の場合、そのようなあやふやな関係は崩壊する。それはあなたも分かっているはずだと思うが?」

「はい。ですが、俺は彼女たちと共に生きていく覚悟があります。彼女たちを大切にし、幸せにする。それが俺の願いであり、使命です」

「甘い考えだ。現実を見ろ。人の心は移ろいやすい。今は良くても、いずれ争いが起きる。きっとその時、娘はお前を恨む」

「その通りかもしれません。ですが、それでも俺は彼女たちと向き合い、理解し合い、支え合っていく。それが俺たちの選んだ道なんです」

「ふむ……。お前の目には、確かな決意が見える。だが、それだけでは足りん。夢見がちなことばかりを考えるタイプなのだな。夢想家、理想家に大切な娘は――やれんっ!」


 クロイツェルの鋭い目が渡を貫いた。

 その次の瞬間、クロイツェルの剛腕が、渡の頭に向けて、砲弾のように放たれた。

*信じて送り出した

ハースニールという同人サークルが出したエッチなゲームのタイトル。みさくらなんこつ氏が描いたキャラクターが、ダブルピースしている。


もし良ければ高評価をよろしくお願いいたします。


COMICユニコーン様にて、コミカライズが連載開始しました。

https://unicorn.comic-ryu.jp/145/


ぜひ読んでください。


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― 新着の感想 ―
それもこれもだいたいポンコツワンコが悪いんや……
まぁ、ここは一度は殴られておくしかないかな。 世間では普通に「お嬢さんをください。必ず幸せにしてみせます」といっても罵られるもんだし。一流傭兵団の頭目なら多少なりとも引け目は感じるはず。 だからこれは…
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