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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第七章

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第05話 スパイの焦り

 渡たちが長期間の監視や尾行に苛立ちを募らせていたその頃、スパイ側の問題も大きくなっていた。

 というのも、あまりにも何の手がかりも得られていなかったからだ。


 望遠カメラを利用した室内監視は完全に対応されていて、中が伺い知れない。

 振動波による音声の再現や、盗聴器を始め、電波受信機を利用したパソコンやスマホの覗き見も対処済み。


 いわゆる遠隔から使える情報の奪取は非常に難度が高かった。

 となると、残る手は尾行しながら集音器、録音器具などを用いて、会話内容を傍受することが第一選択に上がってくるのだが――


「ダメだ。今回も気づかれた」

「またかよ。当然だけど、気づかれないように気をつけてるんだよな?」

「ああ。距離も見失いそうなギリギリまで離れているし、変装だってしっかりしてる。長時間同じ者が張り付かないように、交代だってしてるんだ。俺達の情報が漏れてるんじゃないかってぐらいすぐに気付かれるんだから、嫌になる」

「よせよ。俺達の中に裏切り者はいないだろ」

「分かってるよ! 可恶(クソッ)!」


 渡たちのマンションから五〇メートルほど離れた位置にあるマンションで、男たちが苛立たし気に話し合っていた。

 どれだけ気をつけていても、尾行に気付かれて撒かれてしまうのだ。


 内部から情報が漏れているのでは、と疑っても仕方がないほど、相手の防諜対策がしっかりとしていた。

 むしろこれほど警戒しなければならないのか、と驚くほどだ。


 とはいえ、これだけ警戒するということは、それだけ知られたくない秘密を抱えている、という裏返しでもある。

 一番最初のタレ込みが上層部のお眼鏡にかかるぐらい、貴重な代物に関係しているはずだった。


 あとはスパイたちの技量や手際、執念が上か、渡たちの防諜が上か、の勝負だ。

 だが、男たちの状況はかなり良くなかった。


 スパイを用意するのも、活動させるのも、相当な費用がかかる。

 それだけに、その出費に見合った成果を上層部が求めてくるのも当然のことだ。


 だというのに、今のところは手がかりは一切なし。

 なんの成果も得られませんでした、では許されない。


 一体どんな処分が行われるか、スパイの男たちの中には強烈な焦りが生まれていた。

 暗い顔をした一人の男が、ボソッと呟いた。


「どうにかして結果を残さないとな。このままだと俺達もヤバいぞ」

「物理的に全員の首が飛ぶかな……?」

「そんな無駄なことはしないだろうが、次の出張先がどこになるか、今から楽しみだな……」

「ああ……。俺は暑いところは嫌だなあ……」

「はっ、日本よりクソ蒸し暑い国があるかよ。俺達全員蒸し饅頭になっちまうぜ」


 一人の男の悪態に、わずかに笑いが起きた。

 緊迫した空気が少し緩む。

 いい傾向だった。


「だが、どうする? このままじゃ埒が明かないのもたしかだ。一か八か、侵入してみるか? 全員が出払ったタイミングを狙うんだ」

「いや、あれだけ対策してるんだ、侵入も警戒していないとおかしい。最後の手段だろ」

「だが、チャンスがないんだぞ!?」

「分かってるよ! とはいえ、いつか必ず気の緩みは出てくる。おっ、動いたぞ! しかも相手は二人だ!」

「いつもは尾行に気づく金髪(エア)黒髪(クローシェ)がいてないな。これは良い。よし、待機組は残して、後は尾行だ。可能な限り会話を拾うぞ」

「分かった!」


 銀髪(マリエル)ピンク髪(ステラ)という珍しい組み合わせではあったが、男たちは気にしなかった。

 むしろいつ何時でも、常に全員で移動している現状のほうがおかしな事態が続いていたのだ。


 仕事でもなければ、たとえ夫婦でもたまには別行動したいと思うのが普通の人の感覚だ。

 自分たちの感覚に当てはめて考えれば、おかしなこととは思えなかった。


 マリエルとステラは、尾行の存在に気付いた様子もなく道を歩いている。

 あまり近づくと気付かれる恐れは依然残っているため、ギリギリまで距離を保ったまま、後を追った。


 一体どこに行く気か。

 電車を利用されるとかなり困ったことになるが……。


 目的地が分からないため、ジリジリと焦りながら、追うことしばし。

 マリエルとステラは楽しそうに笑いながら、天王寺近郊にある一つの店に入った。


「シメた! あいつら上海飯店に入ったぞ!」

「都合がいいな。ようやく俺達にも運が向いてきた!」


 思わず顔を合わせると、肩を叩きあった。


 スパイの男たちが雀躍したのには理由がある。

 その店は、日本で現地工作員として数十年前から営んでいる活動拠点の一つだったからだ。


 料理人から給仕の一人ひとりが、みな普段はごく普通の現地にとけ込んだ市井の民であり、同時に現地工作員でもあった。


 設計段階からバレないように盗聴器をはじめ、監視カメラなど、様々な諜報設備が整っていた。

 また役人たちの接待、という名の賄賂や、個室を用いた会食の利用など、様々なケースで活用されている。


 スパイたちも、自分たちが追い詰められていなければ、尾行のいる状況で二人がそんな店に都合よく訪れるはずがない、ということに気付いただろう。

 だが、強い焦りは物事を自分の都合よく解釈させる強い力が働く。


 男たちは一般客を装って、マリエルたちの隣のテーブル席に座ると、料理を注文しながら耳をそばだてた。

というわけで、今回はスパイ側の視点でした。

当たり前なんですけど、スパイなんて貴重情報がよっぽど確度の高い状況で確信できてないと、張り付けていられないですよね。


もし良ければ高評価をよろしくお願いいたします。


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https://unicorn.comic-ryu.jp/145/

ぜひ読んでください。


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― 新着の感想 ―
がちがちに統制すんじゃなくわざとどうでもいい情報を流す とかよくあるけどね~ スパイ一網打尽だとかえって多くのスパイきそうだから・・・ 敵本部をたたくかw
拠点が消滅してたりするのかなぁ、続きが気になって仕方ないなぁ
ガチガチに対策しすぎると相手が暴走するからほんの少し緩い部分を作ったのかな……? うん、クローシェなら万が一もありえそうだけどあの二人なら大丈夫そうですね!
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