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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第六章

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第02話 モイー卿の内心

 二月初旬。

 しばらくは自宅や付近でゴロゴロとしていた渡だが、あまり長期間ゆっくりと休むわけにもいかなかった。

 ポーションの量産計画を進めなければならないし、異世界側でもやるべきことを多く抱えている。


 特にまだ慢性治療ポーション自体は、異世界から購入して在庫を確保しておく必要があった。

 ステラが地球側だけ(・・・・・)で完結していま作れるのは、急性治療ポーションだけだ。

 慢性治療ポーションは素材確保ができていないため、異世界から輸入する必要があった。

 購入した山を拓いて薬草園を作り、種を植えるのが三月末頃を予定している。


 他にも教会に通って秘法を学んだり、コーヒーノキの栽培を始めたり、古代都市の魔力の中和を心がけたりと、やりたい、やるべきことは山積み状態だ。


 レイラは早く役に立ちたいのか、あるいは親交を深めたいのか、接触を図っていたが、こればかりは素直に打ち明けられない。

 用事がある、とだけ答えていた。


 渡がマリエルたちに隠し事なくなんでも伝えているのは、奴隷契約による効力が及ぶから、という面が大きい。

 守秘義務契約を結んだところで、契約違反の罰則よりもメリットが大きいと感じれば、人は話すかもしれないのだ。


 そこまでレイラには信頼を置けていない。


「ひとまずはいつも通り、ウェルカム商会に商品の補充に行って、あとマリエルは両親と会ってきたらどうだ? 今は南船町で仕事してるんだろう?」

「ありがとうございます。ご主人様はその間、どうされるのですか?」

「俺はモイー卿に挨拶してくるよ。いたらだけど」

「……私も一緒のほうが良くありません?」

「いや、さすがに大丈夫だろう。意外とエアもクローシェも余計なことはしないし、ステラも気配りができるしな。遠慮するな。いつ、別の場所に赴任することになるか分からないんだ。会える時に家族には会っておいた方がいいって」

「……分かりました。お言葉に甘えさせていただきます。くれぐれも失礼のないようにお気をつけて」

「分かってるって」


 マリエルが両親と仲がいいのは渡も重々承知している。

 お互いが想い合っている家族なら、なおさら親密に会っていた方がいい。


 マリエルはじっと渡の目を見ていたが、やがて根負けしたようにため息をつくと、ペコリと頭を下げた。

 そんなに心配しなくても大丈夫だぞ、マリエル。

 モイー卿とは何度か会って、だいぶ性質も掴めたんだ。




 ――そう思っていたこともありました。


 幸い、南船町で執務を執っていたモイー卿とはすぐに会うことができた。

 御用商人という肩書は、この辺りとても迅速で助かる。

 そうでなくても、モイー卿ならば渡にはすぐに会ったであろうことは、間違いないのだが。


 忙しそうに机でペンを走らせていたモイーは渡を見ると手を止めた。

 そして、じろりと鋭い目で睥睨する。


「貴様、御用商人として取り立ててやったというのに、ずいぶんと顔を出さないではないか(全然見かけないからすごく心配したんだぞ)」

「は、はい……申し訳ありません。何分、他の取引も忙しくありまして」

「ふん、どうやらずいぶんと儲かって、我との商談は必要ないと見える(商売がうまく行ってるようなら良かった。一安心だな)」

「そのようなことはありません。モイー卿の御用商人という看板があって、仕入先にも顔が立ちます」


 うへ、めちゃくちゃ機嫌が悪そうだ!

 しまったな、こんな時こそマリエルがいたほうが良かったか。

 相手は貴族だ。

 どれだけ親密だと思っていても、その気になれば問答無用で渡の首を飛ばせる権力がある。


 頭を下げた渡だったが、すぐ隣に控えていたエアが、長い尻尾でペシペシと渡の背中を叩いた。

 こんな時になんのいたずらだ、と思ったが、ヒソヒソと耳打ちされた言葉に驚いた。

 どうも言葉と内心に大きな乖離が見られるらしい。


 本当か?

 渡は驚いてモイーの顔を見つめたが、真面目な表情で、むしろ怒っているように見えた。

 モイーは机を指でトントンと叩きながら、渡とエアの様子を伺っている。


(エア、言ってる内容は本当なのか……?)

(うん。間違いないよ。ほら、クローシェも頷いてるでしょ?)

(そうだな……)


 人の内心を見抜くことに関しては間違いない二人だ。

 ヒソヒソと話をして、実際に正しいことが分かると、肩の力が抜けた。

 相変わらずモイーは厳しい顔をしていて、まっすぐ目を合わせると精神力を試されるようだ。


「しかし忙しくて来れないにしても、定期的な付け届けは当然の行いではないか?(酒が切れてツラいんですけど!? お酒お酒!!)」

「は。はは。そう思いまして、今回はいつもよりも多めにご用意しております」

「左様か……。良い心がけである(むほっ! これよこれ! これがなくては一日が終わらんからな)」


 厳しい顔をしていながら、その内心でニヤニヤとしていると分かって、ほっこりとしてしまった。

 クローシェが持ち込んでいた鞄から、酒瓶を取り出して渡すと、モイーは目尻を下げた。


「うむ。たしかにいただいた。(ああ……早く呑みたい。今日は仕事を早めに終わらせよう……。アテ(つまみ)は何にしようか。炙り肉も良いし、魚の燻製も捨てがたいな)」


 落ち着いてみれば、モイーの傍に控えている部下が、モイーを見て苦笑いしているではないか。

 モイーが胸襟を開くほどによく知る人物からすれば、その内心がよく分かったのだろう。


 その後は、多少溜飲を下げた態度を見せたモイーと、普通の会話ができた。

 どうも相変わらず忙しいのは変わらないらしい。


「それと、貴様が以前に希望していた、コーヒーノキの栽培についてだが、認可が降りたぞ」

「え、本当ですか?」

「ハノーヴァー領の代官には話を通しているから、種なり苗なり持ち込んで、育ててみると良い。希望の土地を拓いて栽培できるぞ」

「それはありがとうございます! 助かります!」

「まったく我が骨を折ってやったというのに、全然来ないから報告できんではないか!(喜んでくれるかとすごく期待していたのだぞ)」

「はい! 今後はできるかぎり、顔を出しに来ます」


 ハノーヴァー領は、領地の中でも東の辺境の地にあるという。

 ゲートを上手く利用できれば、移動時間を短縮できないだろうか。


 マリエルが故郷に帰ることもできると分かって、嬉しくなった。

 それとも手放さざるを得なかった故郷の地を踏むのは、抵抗があるだろうか。


 ありがたい報告に笑みを浮かべている渡に、モイーが思いついた、とばかりに軽い様子で尋ねた。


「そういえば貴様は珍しい物をよく持ってくるが、何か酒のアテで旨いものは知らないのか?」

「はっ? アテですか。何分俺があまり酒を飲まないものでして……申し訳ありません。一度調べて参ります」

「うむ、期待しておるぞ。あの珍しい銘酒を手配するのだ。アテについても良いものがあるだろうからな」

「は、はは……期待に答えられるように、頑張ってみます」


 これは相当な難題ではないだろうか、と渡は額の汗を拭った。

今回はサポート役がマリエルではなくエアだったので、モイー卿の内面を知ることができましたね。

そりゃモイモイってエアが言いますよ。


次回は続いてモイー卿の酒のアテについてです。

もし良ければ高評価をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
酒のツマミには微妙かもしれませんが、石川県の美川というところでは河豚の卵巣を無毒化して販売しています。 珍味の類(たぐい)ですので大量に食べるような物ではありませんけど。
[良い点] っぱモイモイおじさんよ 新章になって面白さが爆発しとる
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