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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第五章

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第24話 大仏師、榊原千住 中

 榊原千住は部屋に入ると座布団の上で胡座をかいた。

 長く床の生活をしているのか、それとも仏師ということで禅でも組んでいるのか、座り方が非常に様になっている。


 榊原の目が、ジロジロと渡からマリエルたちへと移動して、固定されていく。

 興味深そうな表情を浮かべて、凝視する様は遠慮の欠片もなく、少し異様だ。


 付き従っていた弟子が慌てていたが、師匠を制止することも難しいのか、ペコペコと頭を下げていて、少し可哀想に見えた。 


「へえ、こいつぁ不思議な顔立ちばかりだな。微妙に出自が分からねえ。嬢ちゃんら、どこの生まれだ?」

「あの、いきなりナンパは止めてもらえませんか?」

「おいおい、オレをそういう俗物として見るんじゃねえよ。まだまだシモは元気だが、人様の女に手を出すほど落ちぶれちゃいねえ。純粋な好奇心だよ、こーきしん。これでも俺は諸国を放浪して、いろんな人間を見てきた。人を見ねえで仏様は彫れないからな。だが、こいつぁ初めて見る。まるでこの世の女じゃねえ、天竺か涅槃の女みたいだ」


 べらべらと喋り始めた榊原だが、その内容には渡も驚いた。

 初対面でマリエルたちが地球人ではない、と見抜ける人間が果たしているものなのか。

 マリエルたちは表情こそ変えていなかったが、内心は驚愕していただろう。


 いま顔を見合わせれば、それを肯定したも同然だ。

 渡は必死に平静を保とうとした。


 突然の訳の分からない話に弟子がついに動いた。

 いいぞ、早く止めろ。どうせならもっと早く動いてくれ。


「お師匠、それほどにしておきませんと、お客様に失礼ですよ」

「チッ、わあったよ。うるっせえな」

「あとで奥様に言いつけますよ」

「カアチャンはヤメロ! 喧嘩になんだろうが。おう、オレが榊原だ。お前さんが堺か」

「ええ、そうです。今日は無理を言って、会っていただいてありがとうございます」

「まったくだぜ。俺はもう今後三十年は仕事に困っちゃいねえんだ。むしろ断りたくて仕方ないんだぞ。綾乃の嬢ちゃんが悪い話じゃねえからって言うから、仕方なく会うだけ会ってやろうと思ったんだが……」

「忙しい中ありがとうございます」


 普通は遠慮してこうもあけすけに話さないものだが、榊原の辞書に遠慮の文字はないらしい。

 立て板に水のごとく、べらべらと流暢に舌が回り、次々に言葉が吐き出されていく。

 そして、渡の後ろを眩しそうに見た。


「しかし創作意欲を刺激する奴らだぜ。特にお前だお前」

「え、俺、俺ですか?」


 榊原がビシっと渡に指を突きつけてきたものだから、驚いた。

 マリエルやエアたちならば、話は分かる。

 不快ではあるが、美しいものに興味や関心、あるいは情欲を抱くのは、人として自然なことだ。

 だが、まさかその相手が自分だとは。


 渡は嫌そうに表情を歪めた。

 どんな性癖を持とうと勝手だが、その対象が自分になるのなら話は別だ。

 TSもメス堕ちも興味はない。


「お、俺はノーマル、いや、ストレートですよ。ご遠慮します」

「バカ野郎! そういう話じゃねえよ! オレだって女のほうが良いよ! 若え姉ちゃんが一番だよ」

「奥さんに言いつけますからね」

「マジでヤメロ! あいつ薙刀出してくるだろうが!」


 あけすけな話に、ぼそっと弟子が釘を刺した。


「お前、ナニか憑いてるんだろ」

「は、憑いてる? ツキは昔からあるほうですね」

「はぁー……自覚ねえのか」


 露骨なまでに溜息をつかれてしまった。

 失礼な人だなあ、と腹立たしくも思うも、人の印象をまったく頓着しないのは、元からなのか、あるいは才能がそれを許したからだろうか。


「まあ気付いてねえなら、良い」

「ちょっと、教えてくださいよ。中途半端に言われたら気になるじゃないですか」

「言われたって気づけねえよ。オレはインドで気づいたが、自分で時が来りゃいつか気付く。そういうもんだ」

「はぁ……」


 悟りとかそういうことだろうか。

 あるいは、幽霊でも憑いてるのか。


 悪いものという印象はなかったし、異世界に移動できる不思議な体験をしているのだ。

 むしろ良いものに違いない、と言い聞かせた。


「でだ、どこの地蔵を直せば良いんだ?」

「え、やってくれるんですか?」

「とっくにそう言ってんだろうが!」


 いや、言ってませんよ。

 機嫌を損ねたくない渡は、否定したくなる気持ちをぐっと堪えて、マリエルに目配せした。

 すぐに住所と外観写真の写ったプリントを、マリエルが鞄から取り出して渡す。


 榊原は出された紙をひったくるように取ると、すぐに目を通した。

 話のテンポが独特すぎて、ついていくのに疲れる。


 マリエルと目があった時に、ほんのわずかに頷きが返ってきた。

 マリエルも困惑しているのだ。

 気持ちは皆一緒かと思うと、少しだけ落ち着くものがあった。


「ふうん、見事に欠けちまってるなあ、おい! 罰当たりなやつだぜ」

「お、俺じゃありませんよ」

「分かってるよ。まあ修繕だけならすぐできるだろうが……これは播磨本御影か?」

「写真を見ただけで石の材質と産地まで分かるんですか?」

「当たり前だろ」


 当然のように言い切られて絶句してしまった。

 花崗岩製が多いということは渡も調べて知っていたが、産地まですぐ分かるものなのだろうか。

 やはり、このひとは少し見えているものが違うのかもしれない。


 失礼な人、という印象から、腕は確かなのだな、と少し認識を改めた。


「大体は分かったが、やっぱり生で見ねえと、写真だけじゃわからねえなあ! よし決めた、明日大阪行くわ!」

「ちょ、し、師匠」

「オレは抜けるから、明日の段取り頼むぞ」

「………………はぁぁああああああああああ……分かりました。うう、後で絶対文句言われるよ……」


 無茶振りされるのには慣れているのか。

 あるいは諦めているのか。

 長い長い溜息とともに、泣きそうな表情を浮かべる可哀想な弟子に、渡たちの同情の視線が集まった。


 だが原因は自分たちなのだ。

 下手な発言はかえって失礼だろう。


 マジでご苦労さまです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話に応じて見えるおじさんがそれとなくフラグ立ててくのいいね [一言] べらんめえおじさんは大体いい人
[良い点] 更新されるのを楽しみにしています。 頑張ってください!
[一言] 直して気付いてそのままついていきそう。 元気な爺さんやらかしそうで怖いわー。
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