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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第五章

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第21話 お地蔵さんの秘密①

 お地蔵さんに突如として浮かび上がった文字を、渡はなんとか苦労しながら書き写し終えた。


 気になったのは、一部分だけ文字に欠けがあったことだ。

 異世界の祠で紋様に問題が起きていた時にゲートが不安定だったことから、お地蔵さん本体の損傷も問題だが、この文字に欠けが生じたことで、異世界へと繋がるゲートに支障が起きたのだろうと推察できる。


 問題は、その文字をしっかりと認識できたのが渡だけだったことだ。

 渡の言うことを疑うような彼女たちではないが、自分ひとりの目でどれだけ正確に写せているのかは、疑問が残る。

 物事を正確に写すのは、多くの人が思っている以上に非常に難しい、高い技術を要する。


「やばいな……手が震えそうだ」

「ご主人様、文字は消えそうなんですか?」

「いや、今のところはそんな気配はないな」

「でしたら、ゆっくりと時間をかけてやってください。私、飲み物を買ってきますね」

「ノートとペンも買ってきてくれ。タブレットだと書き慣れてない……」


 ほとんどの人間は、無意識に書きやすいように、捉えやすいように物事を歪めて見てしまうためだ。

 また、もし正確に捉えられても、それを正しく書き写すにも、また高い能力が求められた。


 美術家やイラストレーターにデッサンの練習をするのも、これらの技術を高めるためだ。

 そして、渡にはそのような能力はない。


 もしかしたら文字の形状、わずかなトメやハネに意味が含まれているかもしれない。


 ただでさえ失敗できない問題だけに、渡は必死に書き写した。


「二人はさっき、うっすらと見えるという話だったが、どれぐらい見えたんだ?」

「言われてみれば何かがあるような気はしますが、ご主人様のようにハッキリと見えてはいません」

「わたくしもですわ。魔術的な要素でもなさそうです」

「……そうか、クローシェはある程度魔術を使えるんだったよな」


 渡の言葉にクローシェが頷いた。

 純粋な魔法使いではないが、クローシェは魔術を使える剣士、いわゆる魔法剣士のような役割ができる。

 感覚的なものだけではなく、一族の長の血筋ということで、教育も受けていた。


「ステラのように専門的な技術はありませんけど、これでも人並み以上に扱える自信はありますわ」

「そのクローシェから見て、先ほど見えたものは魔術的な要素を感じたか?」

「……古代魔術の一種だとは思いますわ。ただ内容が高度すぎて理解できないことがまず最初に。そして、文字にも見覚えがありませんの」

「異世界の文字は普通読めるはずだけど、マリエルもクローシェも読めないのか?」

「おそらくは、たやすく量産されないように、翻訳の権能が及ばないようにされているのかと思われます」

「そうか……。そういえば、俺も祠の文字は読めなかったな」


 マリエルの言葉に渡は納得した。

 時と時空の神は使用者に制限を課していたと言うし、世界を繋ぐゲートには、相応の制限があっても当然のことかもしれない。


「そういう対策をするぐらいなら、もっと壊れないようにしていて欲しかったけどなあ……。祠の結界みたいなのが、どうして作用してなかったんだろうなあ……」

「人除けの結界自体はあったのですから、綻びが生じていたのかもしれませんね。それかルールの穴をちょうど衝かれたか」


 渡の嘆きに、マリエルが答えた。

 時と時空を司る神なら、それこそ風化にも耐えて欲しい、というのはわがままな要望なのだろうか。

 ともあれ、一歩前進だったのは間違いなかった。




 大切な情報を手に入れたことで、渡は帰宅して情報共有をはじめた。

 特にステラの意見が聞きたかったし、その情報を元にして、エアの探してくれた候補を厳選したい。


「ステラ、できるだけ正確に模写したつもりだが、何か気づいたことはあるか?」

「これはおそらく呪文になっていますねえ。ここの文字と、こちらの文字、それとこちらとそちら、それぞれが同じようにわたしには見えますぅ。何かしら意味のある文章になっているのではないでしょうか」

「たしかにな」

「よければ、わたしが時間のある時に解読を試してみましょうか?」

「よろしく頼む」

「うふふ……。お力になれそうで嬉しいです」


 おっとりとした口調とは裏腹に、ステラの目は真剣に文字を追っている。

 変化の付与の術式の仕事もあるというのに、一気に仕事が積み重なってしまって心苦しかったが、今一番頼れる存在なのは間違いなかった。


「どちらにせよ、お地蔵さんの修繕には高い技術があったほうが間違いありません。できれば専門的な知識を持った方が望ましいでしょう。こちらから何かお願いするにしても、最低限度の技量がなければ、叶わないと思います」

「そうだよな」


 渡は最初、すぐにでも直したい一心で、近くの石屋に頼もうと考えていたが、考えを改めた。

 落ち着いて考えれば、安易な修復は致命的な結果を招きかねない。


 とはいえ、仏像彫刻については伝手も知識もない。

 渡の知り合いでも、そのような技術職に知識のあるものはいなかった。 


「主、探したけど、どの人がいいのかやっぱりアタシには分かんないよ」

「そりゃそうだよな。パッと見て雰囲気で良さそうな人はいたか?」

「うん。こっち側に分けた人はなんとなく良さそうな人。こっちはビミョーな人」

「それだけでも大助かりだ。ちなみにエアの野生の勘で一番ピンと来た人は誰だ?」

「この人! いい面構えでティンときた!」


 エアがタブレットを操作して、ホームページを開いてくれる。

 そこには石像の専門家、大仏師(だいぶっし)榊原千住(さかきばらせんじゅ)と書かれていた。

もし良ければ高評価や感想をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石にあっさり回復は無理そうだ。 ということはあの記者、運よく?奴隷化や保護でもされてなけりゃ永遠に登場できなさそうだ。 確か会話もできないからよほど「運よく」目玉になる所持品をもって子爵…
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