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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第五章

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第12話 山の管理人 前

 山の管理人がいつまで経っても見つからない。

 仕事内容そのものは、体力はいるだろうが、それほど難しい話ではない。


 一番の問題となっているのが、信用がどこまで置けるのか、という点だった。


 こればかりは人となりを知り、間違いないと信じられる積み重ねがいるため、軽々とは解決できない問題だった。

 やはり渡本人の、これまでの付き合いの狭さがここに来て問題になっている。

 学生時代から社会人まで含めて、ほとんどが会社員の知り合いや友人で、農家の知り合いがいない。


 となると、何かしらの求人募集をするしかない。


「いっそのこと、普通の作物でも育ててもらって、それで人を見るってのはどうだろう?」

「良いのではないですか? 土地を拓いて畑を作ってもらえば、作物を野菜から薬草に変えても使えそうです」

「問題は利益が出ない農園をどうやって管理維持するんだって話だけどなあ……」

「今の売上だと厳しいんですか?」

「厳しい……」


 マリエルの質問に、渡は渋い表情で答えた。

 渡の地球側での事業は、今のところポーションと温泉の素の二つだけだ。

 喫茶店を経営し始めたことで、面談場所の予約の手間はなくなり、客数の増加には対応できるようになった。

 後は一本の単価を上げるという手もあるが、販売本数を増やすという手もある。


 とはいえ、秘密を保持できる信頼できる人物だけを相手に商売するというのは、なかなかに難しいものだ。

 週刊紙での記事を目にして、渡の警戒はさらに強まってしまった。


 そういった収入に一定の制限がかかった状態だが、今のところマリエルたちの生活費の支払いは、すべて個人的な支出になっている。

 戸籍を持たない彼女たちは、労働者として雇うことができないから、公には支出として勘定できない。

 経費として計上できないため、税金対策など夢のまた夢だった。


 十二月に入って、もうすぐ年末調整と確定申告が迫っている。

 渡の収入はすべて銀行振込で支払先などもハッキリしているため、脱税を問題視されることはないだろうが、今年は徴税額がすごいことになりそうだ。


 また、個人を相手にしていて、一度の支払額が非常に大きいため、薬物など違法行為に手を染めているのではないか、と疑惑をもたれる恐れを渡は心配していた。

 実際に調査されれば、薬機法や医師法で捕まる恐れは十分にある。


「徴税は世界が違っても、どの国でも本気ですね」

「そっか、マリエルは領主の娘だもんな。やっぱり取り立てはしっかりやってたのか?」

「はい。うちは魔物による被害が大きかったですから、財政をなんとか立て直そうと、脱税にはすごく目を光らせていたと思います。ただ、その分は被害が大きかった家に救済措置をしてたんですよ。まあ、それでも脱税する人が後を絶たないんですけど」

「税金の額も、その使われ方も納得がいかなかったり、不明なことが多いと、脱税する人も増えるのだろうなあ。祖父江さんには優秀な税理士を紹介してくれて、本当に感謝だな……」


 渡の将来を期待してくれている祖父江は、あれからも時々心配の連絡を送ってくれる。

 どちらかと言えば、事業が順調に進みそうか、確認を兼ねているのだろう。


 その中で相談したのが税金の扱いだった。

 今後経営に口出しされたり、あるいは情報を抜かれたりする恐れもある。

 税理士の件は、そういったリスクを考えた上で、それでも税務調査などを避けたい苦肉の策だった。


 祖父江は非常に有能だという、国税従事者上がりの税理士を紹介してくれた。

 税理士の資格の取得は、主に試験を受ける方法と、長年の税務署勤務による免除による方法がある。


 税務署職員として長年勤めていただけに、内情をよく知っている。

 書類や節税についてはお手の物だと言ってくれたが、初めて会ったときには、あまりにも杜撰な対策に呆れられてしまった。

 今は積立投資や保険加入、ふるさと納税など、色々と言われるがままに動いている状態だ。


「まあ、お金は稼げる状態だから、今のところ心配してないけど、やっぱり山の管理だな。俺はライター業だったから、農家とはまったく伝手がないんだよなあ……」

「ご主人様の知り合いでいないならば、お祖父様やお祖母様の知り合いに頼ってみるのはどうでしょうか?」

「え? うーん。でも人を雇えって言ったのは爺ちゃんからなんだよな」


 個人で手伝えるのには限度があるから、人を雇え、と以前に指摘されたのだ。

 かといって、ここでも大企業のオーナーである祖父江に頼るのは、依存関係が生まれて良くない。


「まあ、一応聞いてみるだけ聞いてみるか」

「そうしてください。お祖父様なら、何かしらのお知り合いがいるかもしれません」

「たしかに。ただ同年代だったら、山開きなんて難しそうだけどな」

「経験豊富ってことじゃないですか」


 マリエルに強く推されて、渡は徹の自宅に電話をかける。

 徹はすぐに電話に出た。


「あ、爺ちゃん?」

「おう、渡か! 元気しとるか? また彼女増やしてないだろうな」

「ごめん、ちょっといい?」

「なんや?」


 まさかすでにステラが増えているなどと言うと、ますますややこしい事態を招いてしまう。

 強引に話を打ち切ると、さっそく本題に入ることにした。


「信頼して畑仕事を任せられる人か。おるぞ。近々連絡しようと思ってたんや。紹介するわ」

「……えっ。ちょうどいい人がいるの? じゃあ会ってみる。ありがとう」

「はいはい。ええよ。渡の役に立てるなら、こっちも嬉しいわ」

「……いたって」

「……良かったですね」


 あまりにも都合のよい話の展開に、渡とマリエルは苦笑を浮かべあった。

 まるで急げと、一刻もはやく環境を整えろと急かされているような、天の配剤だった。

もし良ければ高評価をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず税理士丸投げでこわーい博識読者ニキも静かになる かもしれない [一言] ぶっちゃけ物語内での税金問題の正確性なんて読んでる内の何割が理解と共感できんの?ってくらい個人的にはかな…
[一言] 見事に安高が放置状態に。 このまま奴隷化や殺されて終わりもあり得そうだけど放り込まれたのが渡のホームグラウンドで一定の確率で偶然があり得なくはないけど・・・ 黒目黒髪のレアさ加減次第で奴隷…
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