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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第五章

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第10話 曝露の代償 前

 出版社の裏路地で、二人の男が顔を突き合わせていた。

 片方の四十手前の男は、ジャーナリストの安高だ。

 寝不足と不摂生で肌艶の悪いその顔は、緊張していて汗が滲んでいる。


 相対するスーツ姿の男に鋭く言い立てた。

 人通りの少ない場所とはいえ、あまり周りに聞かれたくないのか、声は潜めながらも、その声色には切迫感があった。


「いきなり今後の取引はしないってどういうことです!?」

「どうもこうもないよ。君、この業界にいたら、手を出しちゃいけないネタがあるのは知ってるだろう」

「そりゃ知ってますよ。俺が何年この業界いると思うんですか」

「あんなクソみたいなネタ掴ませてよく言うよ」

「はあ? あのネタが――」


 苛立った週刊紙の編集の男が、安高を嘲笑った。

 口元だけは笑みを浮かべているが、目はまったく笑っていない。

 凍えるように冷え冷えとした視線で、現状を伝える。


「ハッ。うちの社長な。来季で退任だってさ。株価が落ちないように」

「は――――?」


 そこまで大事になるのか、という安高の声は続かなかった。

 週刊誌の編集の男の言葉をすぐには理解できず、ぽっかりと口を開く。

 男が忌々しそうに説明を続けた。


編集長(デスク)は別会社に出向。こっち(わたし)は資料係に配置換えだ。こっちが……! こっちがどんだけ苦労して編集になっだが……。おまみたいなクズのせいで……っ!! 分がっだか!? こん、厄病神!」

「グッ!?」


 話しているうちに冷静さを失ったのか、男は方言混じりの話口調になり、殴りかかった。


 頬に衝撃と痛みを受けて、安高はよろめいた。

 殴られたのだ、と少しして気づいた。

 編集の男は喧嘩慣れしているわけでもなく、腰の入っていない殴打だった。


 口がわずかばかりに切れたが、大した痛みも怒りも感じず、それ以上に驚きで頭が一杯だった。

 社長が退任して、デスクが異動?


 普通、週刊紙など裁判沙汰になっても、大した騒ぎにはならない。

 元よりその覚悟で掲載している。

 そんな週刊紙の社長が退任?


 そこまでヤバいネタだったのか。

 いったい誰が、どうやって週刊誌の社長を退任させられるというのか。


 それだけの力を持っている者は、日本でも数えられるほどだろう。


「二度とこっちの前に顔出すな!」


 編集の男は、手首を痛めたのか、左手で痛そうに押さえながらも、安高を険しく睨みつけていた。

 これ以上は何を聞いても教えてもらえないだろうし、状況が良くなることはない。


 とぼとぼとその場を去るしか安高には残されていなかった。




 自宅の安アパートに戻った安高は、さっそく動き始めた。

 詳しい事情を聞き出し、すぐにでも新しいネタの持ち込み先を決めなければならない。

 この道で長い安高は、それなりに知り合いやかつての取引先もいる。


 他のジャーナリストが手を引くネタも貪欲に調べてきたからこそ、大きなネタを掴んできた。

 きっと自分を拾う者はいるはずだ。

 端から連絡を取りはじめた。


「クソ、誰も出やがらねえ!」


 電話は誰も出ず、メールの返信は帰ってこない。

 メッセージアプリは既読すらつかない。


 情報を取り扱っているものばかりだからか、安高の身に起きたこともよく知っているのだ。

 下手に接触すれば、自分の身も危ないと考えているのだろう。


「薄情な奴らだ」


 人の粗ばかりを探し回っておきながら、自分にだけ優しさや情けを求める滑稽さに、安高は気付けない。

 心のなかでかつての知り合いを語彙豊富に悪し様に罵り、罵倒し続けた。


 悪事千里を走るとは言うが、まさか人のネタで商売していた自分が、足元を掬われることになるとは……。


「ふうっ……はぁっ、落ちつけ。落ちつけ。まだ大丈夫。まだ手は残されてるはずだ」


 情報のプロである自分は大丈夫、ギリギリの線引きを間違えないと過信していた。

 だが、スマホに登録していた連絡帳の有望な最後の一人に到達して、なお誰からも接触が得られない事態を前に、安高は自分の危機と正面から向き合うしかなかった。


 びっしょりと脂汗を流して、シャツがへばりついて気持ち悪い。


 いいネタになるはずだったのに、どこでしくじった?

 くそ、これも全部、週刊報醜なんかに持ち込んだのが失敗だった!


「いや、そもそもあの男のせいだ! 堺とかいう、いい女ばっかり連れて、金持ちな生活しやがって! 悪どいなにかをしてるに違いないんだ!」


 その時、安高に天啓が走った。

 そうだ。

 たとえこの俺のこのネタでも、喜んで受け入れてくれるところがあるじゃないか。


 普段の安高ならば、ジャーナリストとして最後の最後として踏み入れなかった一線。


「へ、へへ……堺渡の治療行為の裏取りを取ったら、隣国の情報機関にこいつを売り払ってやろう。あいつらなら、金もたっぷり払ってくれるだろ……」


 まずはネタの整理をして、もう一度大阪に出張して、ネタを集めなくては。

 安高は計画を練り始めた。

次回は後編です。

安高がどうなるのか。そして渡たちの情報はどうなってしまうのか!?


もし良ければ高評価や感想をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 気付いた時には時既にお寿司… これが権力のがぶりよりだよキミ
[一言] 祖父江って名前を掴んだ時点で安高も週刊誌ももっと慎重になるべきだったんや……
[一言] わざわざ更なる地獄に猛ダッシュするのかぁ… 目を付けられた時点で自分がどういう状態になっているのかわからないんだね (自分だったらこんな危なっかしい奴は絶対監視つけるもん)
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