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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第四章

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第15話 喫緊の課題

 渡たちの自宅についたステラは、立派な設備だと驚いていた。

 渡としては部屋数が多くて助かったと、胸をなでおろす。

 人が増えることを想定していなかったため、部屋数が足りなくなるところだ。

 高いお金だったが、ワンフロア貸切にしておいて本当に良かった。


 ステラは空いていた最後の一室で生活してもらうことに決まった。

 地球(こちら)にはじめて訪れたステラは、その目に映るもの、肌で感じるものの違いに大きく驚いていた。


 魔法使いであるステラにとっては、特に魔力の違いについては気になるようだ。

 窓から外の風景を見つめているのかと思ったが、じっと空中を、渡には一見なにもないように思える場所を見つめたり、視線が何かあるかのように、あちらこちらに走らせる。

 見ようによっては、お化けでもいるのかと疑いたくなる光景だが、ステラは不思議そうに考え込んだ。


「たしかに空気中の魔力がほとんどないんですねえ。でも、精霊の数はたくさんいる。なんだか不思議な光景だわ」

「精霊? 精霊がいるのか?」

「ええ。あちらこちらに小さな力を持たない精霊がふわふわたくさん浮いてる。エルフは言葉を遣った魔法も多用するけど、精霊魔法もよく使うのですよ」

「ステラが元いた世界は、精霊がいるんだよな。どう違うんだ?」

「そうですねえ」


 ステラが少し考えた。

 渡にとって、精霊はファンタジーな世界の存在だ。

 エアやクローシェといった獣人族や、ステラのようなエルフを前にしていれば耐性もできるが、それでもよく分からない存在には違いない。

 

「こちらと違って、あちらでは精霊はもっと大きな力を持ってるのです。そして、数はもっと少なくて、それぞれの持つ力によって、いる場所に偏りが生まれることが多いですわ」

「どういう姿をしてるんだ?」

「こちらのは……なんというか個性豊かですね。びっくりするぐらい色々な、わたしにはよく分からないものも多いですね。あら、あれはもしかして箒、それに楽器……? 疲れてるのかしら」

「この国は八百万の神がいて、物にも神が宿るなんて考えられてるから、その影響かな」

「そうなのですね。不思議な世界……でも、魅力的ですわ」

「エアやクローシェが言うには、こっちにもそれなりに魔力の濃い、霊脈とかいう場所があるらしい。またそこでの違いとかも、今度教えてくれ」

「わかりました」


 ここからは、錬金術師としてのステラの意見を聞く必要がある。

 そのためにも、これまでの最低限の活動は伝えておいたほうが良いだろう。


「エア、前に爺ちゃんに育ててもらった薬草があっただろう。出してくれるか」

「分かった! クローシェ、ちょっと代わって」

「えっ、ちょ、お姉様!? わたくし触ったことありませんのよ!? どうやって操作すればよろしいのです?」

「ガチャガチャしてボタンポチポチしてたらテキトーでも倒せるから!」

「全然分かりませんわ!? あああ、て、敵が襲ってきましたわ! ひいい、お止めになって!」


 あれでエアは仕事道具などは非常にしっかりと整備してるし、保管もキッチリしてるタイプだ。

 荷物を持ってもらうことも多いから、薬草も彼女に預けていた。

 対戦ゲームを遊んでいたエアが、コントロールをクローシェに投げ渡して無茶振りをしている。


 人間離れした反射神経と本物の戦場で鍛えた技術を無駄遣いして、FPSゲームの最高ランク帯で大活躍しているエアの代わりを、見る専だったクローシェに代用できるとは思えないが、渡は黙ってみていた。

 尻尾をぷっくりと膨らませてアワアワと慌てふためくクローシェの姿が面白かったからだ。


「はい、主」

「ありがとう。助かったよ」

「ニシシ。いつでも言ってね。あーっ、ちょっと負けてるじゃん! 何してんのさ!」

「お姉様の無茶振りがひどすぎますわ……!」


 ニカー! と満面の笑みを浮かべていたエアだったが、画面を見るなり跳んで移動していった。

 慌ててコントローラーを奪い取り、再び戦場で蹂躙し始める。


「とても仲がよろしいのですね」

「ん? ああ。とても大切な存在だよ」

「そうですか……」


 なにやら考え込んでいたステラの様子の変化に気づかず、渡は祖父が大切に育ててくれた薬草を取り出し、ステラに見せた。

 ここからは大切な話だ。

 渡の雰囲気の変化に気づいたのか、ステラも軽く姿勢を正して、聞く姿勢に入った。


「これが、こっちの普通の畑で栽培した薬草だ。薬師ギルドで鑑定してもらったところ、植物としての生育にはまったく問題ないが、魔力の含有がぜんぜん足りなく、ポーションの作成には使えないとのことだった」

「そうですね。鑑定は正しいと思います。魔力はまったく感じ取れません。わたしの魔力を代わりに注ぎ込むことも、できなくはありません。ですが、やはりオススメはできませんね」

「へえ、そういう手法もあるのか」

「ええ。ですが、自然界を介して使われる魔力と、人を介して使われる魔力はまったく違います。錬金術師はこれを色が付く(・・・・)と呼んでいます。術者の波長に染まってしまうため、効果に偏りが生まれやすくなってしまうのです」


 それでは困る。

 渡には一人ひとりに合わせてポーションを手渡すことは難しい。

 できるだけ均一化したものでないと、売り物にはならないだろう。

 特に医療関係は、良くならないことは許されても、悪くすることは許されない。


「今後大量生産すると考えると、難しいな」

「わたし一人で作るのでしたら、ある程度の量は賄えるでしょう。ですが、もっともっと必要なのですよね?」

「ああ。こっちにはポーションはまったく普及してない。自然治癒を待つ人ばかりなんだ。それこそ莫大な数が必要になる」

「……ふぅ、でしたら、やはり素材から考えないといけません。それに人手も必要になります」

「素材については、今は土地を探すところから始めてる。人手は、まずこっちでまともなポーションを作れるようになってからだな」


 再現性もないのに人を増やすなんてことはできないし、できれば製薬会社を立ち上げたりして、機械化できる部分は機械化させたいのだ。


「ところで、向こうの植物の素材や錬金術の道具をこちらに持ち込んだとして、同じように作ることはできるんだろうか? そこから違うってことはないのか」

「それもやってみないことには分かりません。何分、わたしもこのような経験は初めてなので……。お力になれず申し訳ありませんけど……」

「あ、いや。それは仕方ない」


 ステラはエルフたちが住んでいた森でも、トーマス将軍の下でも場所が違えど、素となる素材の品質さえ変わらなければ、ポーションの品質に大きな差はなかったらしい。

 やはり霊脈の近くの畑を抑えることが、何よりも大切になってくるのだろう。


 これまでに痛みや不調に苦しんでいる人が、ポーションを飲んだことで本来の実力を発揮して、大活躍していく姿を何人も見てきた。

 一人でも多くの人に良くなって欲しい。


 なかなか製造していない、ではなく、製造できる環境を整える。

 販売も自分たちだけで小さく小さくするよりも、徐々に規模を拡大していく。


 そのためにも、ステラという貴重な錬金術師を押さえることができた以上、土地の購入は喫緊の課題だ。

 渡は不動産会社に話をする予定を立て始めた。

もし良ければ高評価や感想をよろしくお願いいたします。

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