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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第三章

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第55話 切子ガラスの値段

 非常に鋭い視線だった。

 つい先ほどまで切子ガラスに哄笑していた人物と同じとは思えない。

 やはり蒐集家として数寄狂いといった面白い面もあるが、モイーの本質は冷静で有能な領主なのだ。

 蒐集家としての顔に気を取られていたら、本質を見失ってしまうな。


 渡は視線に負けない様に、気合を入れた。

 横にはマリエルがいる。

 何か失敗をしでかしそうなら、すぐにフォローしてくれるだろう。

 万が一の大失態があっても、エアとクローシェが守ってくれている。

 おかげで貴族を相手にしても、臆することがなかった。


「お前はそれがどういう意味か分かっているのか?」

「はい。そのため無茶なお願いと申しました。難しいようであれば諦めます」

「分かっていて、厚かましくも要求しているのか」


 とはいえ、変身の装身具はなんだかんだと出回っていて、絶対に手に入らない代物ではない。

 表通りには置かれていないだろうが、以前のように市場を探し回ったり、裏通りの怪しい店を利用すれば、ほどなく手に入れることができるだろう。

 それをしないのは、渡が非合法な手段に手を染めることに抵抗があるからだ。


 貴重さで言えば渡の切子ガラスや万華鏡には到底及ばない。

 だから、大きな違いは貴族の了承を得ているか、無許可で所有、使用するのか。

 小さなようで、この違いはとても大きい。

 どうせならば大手を振って使えるようになりたかった。


「このような物言いは失礼でしょうが、手に入れようと思い、手段を選ばなければ、手に入れるのは難しくないと思います。ですが、俺としては疚しいところがないからこそ、他ならないモイー卿から許可の上いただきたい、と考えています」

「ふふふ、よく我を前に言った。そこまで堂々と言えるなら大したものよ。その気構え天晴だ! 臣下以外で利用を許すことは滅多にないのだが、特例で許可しよう」

「ありがとうございます!」

「ただし悪用した時には厳罰に処すゆえ、心して使え。分かったな?」

「肝に銘じます。モイー卿のご好意を無碍にいたしません」

「うむ」


 渡は深く頭を下げた。合わせてマリエルたちも頭を下げる。

 渡の気持ちに応えてくれた、男気が嬉しい。

 日本で活動するクローシェのことを思えば、この許可は可能な限り欲しかったのだ。


「とはいえ、これだけでは、対価にはほど遠いな……。付与の装飾品が欲しいのであれば、我の領地で作られている物を対価とすることもできるが、どうする? 別に現金でも」

「ぜひ、付与の品でお願いします!」

「よし、配下に目録を持たせるので、そこから金額を調整してくれ」

「分かりました」

「前も言ったが、珍しいものが手に入れば、いつでも来ると良い。可能な限り時間を作ろう」


 モイーは江戸切子を手に取り、上機嫌に笑って言った。

 これで散財に自領を傾けないどころか、繁栄させているのだから、そのバランス感覚は卓越している。




 商談を終えて、そろそろお暇した方が良いかな、という段になって、モイーから話題を振られた。


「そういえば、我が新しく領地を下賜されるにあたって、先日王都から情報収集を行うために隠密が入った」

「問題があったら事前に知っておかないといけませんものね」

「そういうことだ。この地の前任の代官は誠実ではあるが、あまり有能ではなかったようでな。我自ら陣頭指揮を執って、改革を行わねばならん」

「それは大変ですね。俺としてもこの地が盛り上がってくれるのは嬉しい限りです」

「本題はここからだ。隠密の報告によると、気になる点が二つあった。恐るべき遣い手がいるということ。そして、どうも抜け荷が行われているのではないか、との疑惑があることだ」

「なるほど」


 渡としては、ふーん、領主という仕事も大変そうだなとか、あるいはそんな強い人がいるんだな、程度しか感想を抱かなかった。

 それだけに反応は極めて平静で、ピンと来ていない。

 そんな様子の渡をモイーはしばらくじっと眺めていたが、不意に笑うと、目線を和らげた。


 実はこの時、渡が犯罪者として疑われていたのだが、幸いにして疑惑は晴れた。

 ほんのわずかに緊張を示したエアは、人知れずほっと息を吐くことになった。


「お前も一端の富豪の一人だろう。犯罪には気をつけるようにな。気を付けすぎて悪いということはない」

「ありがとうございます。エアと新たに働いてもらうことになったこちらのクローシェのおかげもあって、前以上に安全には気を配るようになりました」

「ふむ、ならばよい。よし、よい会談であった! 後は配下と詰めよ」


 江戸切子のガラス細工四点の値段は、金貨にして千枚。

 日本円で約十億の値が付いた。


 モイーとの再びの交渉は、これ以上ない成功と言えただろう。

もし良ければ高評価や感想をよろしくお願いいたします。

作者が(本当に)すごく喜びます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] この錬金術ドリームやめらんねぇ
[一言] モイー男爵のすごみが。 長期的な付き合いを考えて搾取と思われない程度の付き合いですね。 取り上げたりすることなくしっかり対価を考えてることもそうですしその支払いを金貨だけでなく自分の領地内…
[一言] 10万のグラスが10億に早変わりだぜ、これだから異世界交易はやめられない! いや、実際この世界の技術的に10億は適正だと思うよ?何だったら安い位だもん 王宮に献上したらガチで国宝扱いだろう…
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