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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第三章

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第26話 自分の道

 モーリスは目を瞬いていた。

 それから微笑を浮かべると、わずかに顔を左右に振る。


「神が君に何を望んでいるのか、私には分からないよ。神の御心を推し量るなど、それこそ畏れ多い。神のみぞ知る、というではないか」

「そう、ですか……」

「私は一介の教授にすぎず、神の代弁者ではない。ここは王都だけあって様々な神の教会がある。教えを知りたければ教会の門をたたくことだ」

「ありがとうございます……」

「落胆しているのかね? とても落ち込んで見えるが」

「ええ」

「なぜ? そんなにも神の望みが知りたいのかね?」


 単刀直入に問われて、渡は言葉に詰まった。

 そのまま答えるのは羞恥心を刺激する。

 だが、ここで誤魔化しても余計にみっともないかと考え直して、自分の素直な気持ちを吐露した。


「俺に何か特別な使命があるのかもしれないと思ったものでして。もしかしたら、思い上がっていたのかもしれません」

「自分が特別な存在でありたいと思うのは、人として自然なことだよ。この世に生を受けたからには、何らかの意味があってほしい。みんな口に出すかどうかは別として、同じような望みを持っている。まあ、君が使命を持っているかどうかは分からないが」

「そうですよね。もしかしたら本当に偶々、偶然なのかもしれません。昔から運だけは良かったんです」


 渡は自嘲するように笑った。

 案外、渡がゲートを使えて一番驚いているのは神の方なのかもしれない。

 なんか変な奴がゲートを使ってる、バグだ! なんて。

 神が大慌てになっている姿を頭の中で想像してみると、少し面白かった。


 天啓、あるいは神託が下されて、旅に出る使徒もいるらしい。

 そう考えると、渡は神の声など聞いたことがなかった。

 ただゲートを使えただけだ。

 そんなことを考えると、穴を掘って埋まりたいほどの羞恥心を覚えた。


「神が一々言葉にせずとも、君が何らかの望んだとおりの結果を起こしている可能性があるよ」

「……どういうことでしょうか?」

「君がこうしてゲートを利用して、何らかの活動をしているそのものが、神の望みに叶っているかもしれない。人の浅はかな考えだけで、神の考えは分からない。肯定もできないが、否定もできない状況だろう」

「……そう、ですか」


 異世界にわたって大金を得て、マリエルやエアといった奴隷を買った。

 どちらかと言えば俗な欲を満たしている。

 それでも、神の目論んだことなのだろうか。

 あるいは、神の望みを叶える報酬のようなものなのか。


「どちらにせよ、思い悩んでも仕方がないことだとは思わないかね。本当になにかをさせたいなら、神々も神託を下すだろう。それまでは心の思うがままに進むと良い」

「……ありがとうございます。そうですよね」

「それに、君は神に望んでいない理不尽な要求をされたとして、それに唯々諾々と従うのかね。たとえば、君の大切そうな奴隷を手放せと命じられるとか」

「……いえ、そんなことはありません。俺はきっと、必死に神々に抗うと思います」

「うむ。心の声に適う善き行いをすれば、迷う必要はない。思うように生きなさい」

「悩みがなくなって、スッキリしました!」


 心の中の靄が晴れたような気分だった。

 たしかに、神々の要求にすべて従うわけではない。

 誰かを傷つけたり、自分が死地に飛び込むような要求をされれば、断ったり、別の手段を講じたりするだろう。

 そう考えれば、何も言われていない今、あれこれと余計なことを考えて思い悩む必要もない。


 元気を取り戻した渡に、それまで心配そうに見つめながらも黙っていた奴隷たちが弾んだ声を上げた。

 エアがそっと渡の手を握る。

 柔らかな、でも暖かい手の感触に勇気づけられた。


「良かったですね、ご主人様」

「ふん、なかなか良いことを言う」

「主様が元気になって良かったですわ!」

「ふふ、ずいぶんと慕われているようだね」

「俺にはもったいない人たちです」


 自分がなぜこんな幸運に見舞われているのか、その理由は分からない。

 だが、気にしなくてもいいと開き直れたことは大きかった。

 当初の幸運に喜んでいたように、心の思うままに動いて良いのだ。

 渡は低くなった目線を上げた。

 モーリスはただ微笑んでいる。


 〇


 そう思い定めてみるととても心が軽い。

 渡の表情に明るさが生まれ、瞳には力が宿った。

 その軽くなった心で、再び気になっていたことを質問する。


「あらためて、話を聞かせてもらってもいいですか?」

「なんだね」

「俺がこれまで利用してきた祠はどれも非常に汚れていました。これを綺麗にすることで、性能が戻ったり、良くなることは考えられますか?」

「あるかないかで言えば、あるだろうね」

「どうしてでしょうか?」

「神々は力を込めて文字を刻んだ。言葉とは、文字とは力なのだ。これは我々魔術師であれば、誰もが最初に知ることだ。そして神字は非常に強力だが、同時に何らかの理由で文字としての力が損なわれてしまえば、力を発揮しづらくなるだろう」


 モーリスが祠に書かれていた文字を紙に書き、ぐしゃりと上から筆で塗りつぶした。

 北の転移先の祠は、泥や蔦などで、もはや文字としての役目を果たせていなかった。

 南船町のゲートはまだ多少覆われる程度だった。

 その違いも、出力に差を生み出している可能性は高い。


「じつは、転移した先がどこかは分かりませんが、魔力災害が起きているようなんです。エアから非常に高密度な魔力で満ちていたと報告を受けました」

「ふむ、そんな場所に祠があるわけか」

「はい。で、そのゲートの開く時間が驚くほど短かったんです」


 渡は端的に状況を説明した。

 ゲートの持続時間や、再起動にかかる時間を伝えて、仮説も合わせて伝える。

 モーリスでもそんな事態は初めてなのか、身を乗り出して耳を傾け始めた。


「魔力災害とゲートの時間の関係か。おそらくはあると考えた方が自然だろうね。しかし厄介な問題だな」

「どうすれば良いでしょうか? 俺は抗魔力素材で周りを囲ってみる方法を考えたのですが」

「悪くない方法だと思う。布や金属板、ブロック塀など、素材もいろいろ考えられるだろう」

「そもそも、魔力災害は解決できる問題なんでしょうか?」

「時と手間と対価を惜しまなければな」


 具体的な方法について、モーリスが教えてくれることになった。

沢山のブクマ、高評価ありがとうございます。

ローファンタジーでランキング入りしてました。

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