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異世界⇔地球間で個人貿易してみた【コミカライズ】  作者: 肥前文俊
第三章

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第24話 モーリスとゲートの話

「やあやあ、よく来たね、マリエル君、ワタル君」

「すみません。またお邪魔して。少しお知恵を借りたいことができまして」


 数日ぶりに会ったモーリスは、渡が思った以上に親し気な態度を取ってくれた。

 再会の握手を交わし、応接室に案内してくれる。

 弧を描く目元や、口元に浮かぶ笑みは作り物には見えない。

 本気で歓迎してくれているらしい。


 この短期間でどんな心境の変化だろうか。

 訝しい気持ちはあるものの、歓迎してくれること自体はありがたい。

 椅子をすすめられて座る。


 対面に座ったモーリスが軽く頭を下げた。


「この前は素敵なものをいただいてありがとう。世の中にはこんなにも美味いお菓子があるのかと驚いたよ。あれはどこで手に入るのかな? できれば取り寄せたい」

「ご期待に沿えず申し訳ないのですが、あれは私以外からは手に入らないと思います。現状は王都のどの商会も扱っていないはずです」

「ほう、そんな貴重なものだったのか……。惜しいな。実はいただいたものはもうすべて食べてしまったのだ。もっとじっくりと味わって食べればよかった」

「今日、原料の一つをヴォーカルという店に卸したところです。しばらくすれば新商品が販売されることだと思います。俺がお渡ししたような、砂糖をふんだんに使ったお菓子はさすがに売られてないでしょうが」

「あのお菓子も転移陣を使った遠い場所の食べ物なのかい?」


 サラッと転移陣が話題に上がってきて、一瞬渡は返答に困った。

 どこまで情報を公開していいのか、悩ましかったからだ。

 だが、モーリスには転移陣の相談に乗ってもらっている。

 渡が使用できるのは分かっているだろう。


 わざわざ異世界とまで伝える必要はないが、必要以上に隠したり、黙っているのも、協力を頼む立場として相応しい回答ではないだろう。

 渡は頷いて同意を示した。


「そうですね。俺の故郷のほど近い場所のお菓子です」

「私は甘いものに目がないからね。いつか訪れてみたいものだ」

「機会があればぜひ」

「まあ、その前に王都のその店に行ってみることにしよう」

「ええ、ぜひ。今の時点でもとても良いお店でしたよ」


 どこにあるのかも分からない転移の先の店よりも、確実に手に入る最寄りの店を優先してくれる気になったか。

 お金が惜しいというよりは、モーリスのために何度も王都にクッキーを持ち込むのは煩わしい。

 どうしてもこのクッキーじゃなければだめだ、というような事態にならずにすんで、渡は胸をなでおろす。

 そして、話を進めるためにも、今日の本題を切り出した。


「王都の祠を見つけましたよ。アドバイスをいただいていなかったら、最初から探していなかったかもしれません。ありがとうございました」

「もうかね。思っていたよりもはるかに早いな。一体どうやってそんなにも早く見つけられたんだい? 神の啓示でもあったのかな?」

「いえ。王都の中心地から虱潰しに探していたら、途中で見つけることができました」

「いやはや、それで簡単に見つかるものではないはずなんだが……運がいいのか、何かに導かれているのか」


 モーリスが呆れたように話す。

 渡たちからすればかなり歩き回ったのだが、その程度で元々は見つかるような物でもないのだろう。


「先生は、王都の祠の場所を知っていましたよね?」

「えー、いやあ、そんなことはないよ。どうしてそんな風に思うんだね」

「俺の奴隷が、モーリスさんは魔術師だって言うんです。エアです」

「常勝不敗の剣闘士か。噂はかねがね聞いているよ。迂闊だったなあ」

「ふん、白々しい。別に隠してもなかったくせに」

「案外気づかれないものなのだよ、ほっほっほ」


 エアのモーリスに対する態度はかなり刺々しい。

 なんて失礼な態度を、と渡としてはハラハラさせられるが、当人であるモーリスに気にした様子はなかった。

 器が広いのか、エアの実力を認めているのか、あるいはそもそも身分にそれほどこだわらない人なのか。

 モーリスは苦笑を浮かべるだけで、特に苛立ちを見せていない。


「どうしてこんな嘘を?」

「なに、祠について調べたいという者は多いんだ。だが神々に好まれていない者を案内するのは望ましくない。余計な手助けをすれば、私が神に目をつけられかねないからね」

「神に目をつけられかねない?」

「そうだ。私はもともと魔法で世界の目を欺いて祠を利用している。実際には目こぼししてもらっていると言った方が正しいだろうがね。余計な利用者を増やすような真似をすれば、私自身の立場がマズくなり、使用できなくなりかねなかったのだよ」

「それで確実にゲートが使えるか確かめようとされたんですね」

「うむ。まあ、私はこれでも学究の徒よ。最初から答えを求めて口を開く雛鳥に餌を与える親鳥になるつもりはない」


 モーリスの言い分は分かったものの、試されていたのかと思うと少しだけ気分が良くない。

 ただ、その必要性は理解できた。

 対価を用意したとはいえ、元教え子とはいえ、軽々と扱われるわけにはいかなかったのだろう。


「それで、君はいくつのゲートの先が現れたかね?」

「六つですかね。その内の三つにはすでに移動してみました」

「ほう、そんなにも行き先が出たのかね」

「ええ。先生はいくつ利用できるんでしょうか?」

「私は三つの行き先があったよ。……よろしい、君が間違いなくゲートを利用できると認めて、私に答えられる範囲で、質問に答えよう」


 モーリスが笑みを浮かべて言った。

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