第21話 別の出口
体をしばらく休めた渡たちだったが、一日を終えるにはまだ少し早い時間帯だった。
どうせならば祠に再訪して、別の転移先がどこに繋がっているのかを把握しておきたい。
今度は途中で分断されてしまわない様に、四人がひと塊に密集して使用することにした。
狭い所に集まると、肉圧がすごい。
選り好みしたわけではないが、ムッチリとした体格の美女ばかりが奴隷になっている。
渡の目が深い谷間の集まりに向かった。
彼女たちいわく、足元が見えなくなるほどの大きな膨らみが六つ。
絶景だ……。
一人分でも素晴らしいのに、同じような山の頂が三人分もある。
山というより山脈だ。
魅力的な光景に、渡の古代都市の祠での精神的疲労が癒されていく。
赤の他人の胸をジロジロと見るようなことはしない渡だが、三人は別だった。
恋人や伴侶でもこんなことはできないだろう。
やはり奴隷は良い……。
渡が感慨に浸っていると、マリエルが不思議そうに首を傾げた。
「あの、ご主人様……移動されないんですか?」
「もう、おっぱいばっかり見て。主は仕方ないなあ。ほら、ぽよぽよー。大丈夫、おっぱい揉む?」
「揉む……」
「んっ……あっ……」
「……不潔ですわ。お姉様の胸をっ。昨夜もあんなにも自由にしていて……ウギギギ」
「おっと、悪い。今は転移先だったな」
渡は仕方なく手を放して、目を逸らした。
まだ柔らかく暖かな感触が手に残っている。
前回は声に出した瞬間に転移が始まってしまった。
頭の中に思い浮かんだ六ケ所の転移先の内、比較的安全なのは南の二つだろう。
おそらくそのうちのどちらかが、南船町に繋がっているものだと推測できる。
より安全策を取るなら、近場から試してみるべきだろう。
王都から近ければ近いほど、何かあっても対策が取りやすい。
「じゃあ南の近い方だな」
頭の中で意識しながら、声にも出してみる。
どちらの方が引き金になったのかは分からないが、狙い通りにゲートが開いた。
「行くぞ。今度ははぐれないようにしないとな」
「うん、今度はアタシがちゃんとついて行くから」
「わたくしもですわ!」
エアとクローシェが渡の袖や裾をぎゅっと握りしめる。
よほど心配させてしまったのだろう。
本当に悪いことをした、と思いながら、渡は自由になっている手をマリエルと繋ぐと、ゲートに潜りこんだ。
ゲートを潜り抜けた渡は、周りを見渡した。
祠の内部は見慣れたものではない。
南船町の祠は渡たちが以前清掃したから、かなり綺麗になっている。
それに比べると汚れがあるため、違いが分かった。
「ここは……どこの町だろうな」
「祠の中だと外の雰囲気が分かりづらいですね」
「ただ、この感じは南船町ではないな」
「主、ゲートを見て」
「どうした。って、今もちゃんと開いてるな。となると、あの北の祠だけが問題ってことか」
その他の差異としては、ゲートが今も開いてとても安定していることだ。
地球と異世界を繋ぐゲートのように、物資の運搬をできそうなぐらいには、ゲートは開いたままだった。
まだその他の転移先について調べていないため、確実な情報ではないが、人や物の安全性が高まったのは好ましい。
「今度は変な所じゃないと良いけどな。エア、出るなら警戒して安全第一で頼むぞ」
「……うん。クローシェ、サポートをお願いね」
「お任せください。わたくしが完璧にお姉さまをお守りします」
ゲートは渡たちが離れると、自然と閉じた。
エアが祠の出口から外を伺い、慎重に足を運ぶ。
ゆっくりと祠から離れて周りの観察をしていたエアだが、不意に緊張を解いた。
「主、ここ分かった」
「おっ、どこだ?」
「碧流町だよ、多分。温泉の匂いがする」
「へえ。いいな。じゃあこれから温泉に入り放題じゃないか」
「温泉の素をいっぱい買っておく必要なかったですね」
「ヴニャ!? アタシの働き損じゃん!」
マリエルが苦笑を浮かべた。
源泉に近い場所から採れる濃縮温泉水はかなり重たく、持ち運びが大変だったが、貴重な商品ということで多めに購入していたのだ。
エアが頑張って持っていたのだが、まさか転移先があるとは思わなかった。
「もしかしたら神様も温泉好きでゲートを設置したのかもしれませんね」
「ははは、そんな馬鹿な」
「いえ、案外本当かもしれませんよ。神様が温泉好きだったのは間違いない話ですし、自分の信徒や愛し子にも楽しませたいと思われたかもしれません」
「俺の漠然と考えてる神様と違う」
神様も宗教や宗派によっては、生々しい人間味溢れる神様がいることも珍しくない。
渡の考えていた神様は、どちらかと言えば漠然とした世界の管理者、超越存在であり、人らしさをあまりイメージしていなかった。
だが、マリエルの話を聞いていて、認識を変える必要性に気付かされた。
もしかしたら、本当に今もこの町の温泉に人に紛れて浸かっているのかもしれない。





