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第94話 プレゼント交換

「それじゃあレジに行きますか」

「ん」


 凪と共に洋服店を見回り、二人共が納得のいく物を選べた。

 別々に買う事も出来たのに、何故か二人同時にレジへ品物を置く。

 海斗達のある意味息の合った行動を見て、レジの女性店員が微笑ましさと羨ましさを混ぜた笑みを浮かべた。

 おそらく、海斗達がクリスマスイブに恋人のような事をしているからだろう。

 金額が表示されたので、店員に苦笑を返して財布を開く。

 すぐに会計を済ませようと思ったのだが、凪が海斗の服の裾をくいくいと引っ張った。


「私も出す」

「はい。でもここは纏めて払った方が良いと思うので、後で返してくださいね」


 男なら奢るべき、という意見もあるのかもしれないが、これはお互いへのクリスマスプレゼントなのだ。

 海斗が全てを払ってしまったら、プレゼントの意味が無くなってしまう。

 とはいえここで揉めると後ろの客に迷惑だし、さっさと会計を済ませるべきだ。

 そう思って提案したのだが、アイスブルーの瞳が不機嫌そうに細まった。


「絶対受け取ってね」

「……何でそんなに信用されてないんですかね?」

「海斗なら『プレゼントですから、俺に払わせてください』とか言いそうだから」

「普段なら間違いなくそうしてたでしょうけど、今日はしませんよ」

「ならよし」


 海斗の普段の行動を当てられて嬉しくもあり、こういう時でも払うと思われて悲しくもある。

 小さく頷いた凪から店員へと視線を移せば、明らかに嫉妬しているような目を向けられた。

 これ以上もたついていると危険だと判断し、すぐに会計を済ませる。


「袋は要りますか?」

「すぐ使うので大丈夫です」

「かしこまりました。…………ウラヤマシイ」


 店員は丁寧な対応をしてくれたが、最後の呟きに本音が漏れていた。

 幸い凪には聞こえていなかったようで、彼女はタグを外された品物を手に取って頬を緩ませている。

 勿論、お互いに持つのは自分が選んだものだ。

 そそくさと店から出て、道の端に寄って凪と向き合う。


「それじゃあ凪さん、どうぞ」

「ありがとう。海斗もどうぞ」

「ありがとうございます」


 お互いに買った物を手渡せば、海斗の手には暗い紺色のマフラーが、凪の手には空色のマフラーが収まった。

 店内を物色し、他の候補として手袋が挙がったものの、最終的に選んだのはこれだ。

 今日は真冬にしては少し暖かく、二人共身に着けていなかった事もあり、すぐに首へと巻き付ける。


「あったかいですねぇ」

「うん。首元もそうだけど、海斗がくれたプレゼントだから、心もあったかくなる」


 ショッピングモール内に居るので、わざわざマフラーを巻かずとも体は温まっていた。

 なのに幸福感が沸き上がるのは、凪の言う通り心が温かいからだろう。

 ふにゃりと緩んだ笑顔に、心臓が高鳴る。


「……ですね。それとマフラー、似合ってますよ。その色にして正解でした」


 頬を炙ろうとする熱を逃がしたくて、凪を褒める方向へと話題を変えた。

 元々が美しい銀色の髪だったので、あまり派手なマフラーは似合わない。

 となれば凪の瞳の色に近いものにすべきだと思っての選択だったが、大正解だ。

 突然海斗が褒めたからか、凪がほんのりと頬を染めて口元を緩ませる。


「そう、かな?」

「はい。髪の色と合わさって、凄く綺麗です」

「……うぅ。あり、がと」


 簡素な誉め言葉なのに、凪の羞恥は限界に達したらしい。

 呻き声を上げ、彼女が顔を俯ける。

 マフラーと髪の間から覗く耳が真っ赤に染まっており、抱き締めたくなる程に可愛らしかった。


「さてと、買い物は終わりましたけど、もう少し歩いていいですか?」


 凪へのプレゼントは買い終わったが、まだ帰るには早い。

 折角のクリスマスイブなのだし、もう少しこの時間を堪能してもいいだろう。

 とはいえ、あまり外に出ない凪がどう考えるのか分からない。

 確認を取れば、彼女が潤んだ瞳を海斗へと向けた。


「それはいい、けど」

「けど?」

「その、海斗も、マフラー似合ってる。かっこいい」

「……そう、ですか」


 普通ならばお世辞と思える誉め言葉なのに、凪に言われると歓喜がぶわりと沸き上がる。

 どんな言葉を返せばいいか分からず小さな呟きを落とすと、彼女が嬉しそうにはにかんだ。


「そう。すっごくかっこいい」

「わ、分かりましたから。ほら、行きますよ」

「あ」


 このまま褒め続けられると、海斗の心が耐え切れない。

 なのですぐにこの場を離れたかったが、下手をすると凪を置いていってしまう。

 それは彼女を傷付けてしまうので、少々強引に雪のように白い手を掴んで歩き出した。

 凪は驚いたように短い声を上げたものの、特に抵抗する事なく海斗の横に並ぶ。


「海斗の手も、あったかいね」

「……凪さんの手の方があったかいですよ」


 滑らかな手の感触に、全く落ち着く事の出来ない海斗だった。





「へぇ、イルミネーションなんてあるんだな」


 凪と大型ショッピングモールを散策していると、その中庭でクリスマス用のイルミネーションが飾ってあるのが見えた。

 買い物と散策だけしかしていないので日が落ちるまでもう少し時間があり、残念ながら点灯してはいない。

 勿論、ショッピングモール内で行っているものなので大きなイベントではないが、折角なら見たいと思った。


「どうせなら見て帰りますか?」

「ん……。海斗が見たいなら、そうする」

「嫌だったらちゃんと言ってくださいね?」

「嫌とかじゃなくて、そういうのを見た事がないから、いまいちよく分からないだけ」


 凪の反応があまり良くなかったのですぐに帰りたいのかと思ったが、どうやら違ったらしい。

 過去に博之や桃花が誘ったのかもしれないが、凪は断ったのだろう。

 ならば、一度くらい体験してもいいはずだ。


「なら俺に付き合ってくれませんか?」

「分かった。でも、暗くなるまで少し時間がある。結構見回ったけど、もう一周する?」

「いえ、ちょっと行きたい所があるんで、そっちに行っていいですか?」

「うん。じゃあ付いてく」


 ショッピングモール内はほぼ散策し終わったので、もう一度見回っても退屈させるだけだ。

 しかし、暇潰しになりそうな場所を見つけている。

 小さく頷いた凪を案内すれば、周囲の喧騒けんそうに彼女が形の良い眉をしかめた。


「ここ、凄い音……」

「ゲームセンターはこういうものじゃないですかね」


 散策した際に、凪はあっさりとゲームセンターの傍を通り過ぎていた。

 なので物静かな場所を好む凪にとっては、あまりいい場所ではないのかもしれない。

 専門の店ではなくショッピングモール内にあるゲームセンターなので、まだ音は抑えられていると思うのだが、それでも不安になる。


「海斗、来た事あるの?」

「殆どありませんよ。まあ、その、金を使う場所なので」

「……なら、何で来たの?」


 必死にバイトをする海斗に、ゲームセンターで遊ぶ余裕などある訳がない。

 しかし、一般的なゲームセンターがどういうものかは知っているつもりだ。

 金に余裕がないのを分かっていながら凪を連れて来たからか、僅かに眉を下げながら彼女が首を傾げた。


「こういう時くらいは羽目を外そうかと思ったんです。凪さんさえ良ければ、入っていいですか?」


 女性とのお出掛けで、お金を気にする男はイメージが良くないはずだ。

 それに最近は凪の家で過ごす事が多く、家の光熱費等は非常に安くなっているので、多少遊ぶ程度は問題ない。

 こんな生々しい話をすれば気が滅入るので、繋いでいた手を軽く引っ張った。

 意外にもゲームセンターに嫌悪感はないのか、凪が端正な無表情で頷く。


「ん。分かった」


 短く応えてくれた凪と共に、ゲームセンターを散策し始めた。

 すると、彼女は一つのクレーンゲームの前で立ち止まる。

 余程惹かれたのか、アイスブルーの瞳が手のひらサイズの猫のぬいぐるみに釘付けになっていた。


「それ、欲しいんですか?」

「っ!? だ、大丈夫」


 凪がびくりと体を震わせ、勢い良く首を振る。

 必死に取り繕ったつもりなのだろうが、もう遅い。

 可愛らしい反応に、くすりと小さな笑みが零れた。


「遠慮する必要なんてないじゃないですか。それで、どうなんですか?」

「……ちょっとだけ、欲しい」

「じゃあ取りますね」

「いい、の?」

「はい。こういう時こそ男の見せ場ですよ」


 想い人からのお願いを断れる男など、居るはずがない。それが恥ずかしそうに頬を薔薇色に染めている人からなら尚更だ。

 良い所を見せなければと意気込み、クレーンゲームの前に立つ。

 少しだけ名残惜しいが、繋いだ手を離した。


「あ……」

「……さてと、それじゃあ頑張りますか」


 ゲームセンターの喧騒に紛れて消えそうな、寂しさの詰まった声に胸が締め付けられる。

 しかし、手を繋ぎながら出来るようなものではない。

 あえて呟きを無視し、猫のぬいぐるみに意識を集中させる。

 取ると決めたのなら頑張るのが男というものだ。


「ちょっと、動いた」

「ふむ……」

「あ、戻っちゃった」

「これでこう動くなら、次は……」


 猫が動く度に可愛らしい反応をする凪に、つい頬が緩みそうになる。

 けれど海斗の目的は、そのぬいぐるみを彼女へプレゼントする事だ。

 余所見をする暇はないと、猫の動きを注視する。

 そのお陰で、何回かチャレンジすると何となくコツは掴めた。


「これで、どうだ?」

「持ち上がった!」


 海斗の狙った通りにクレーンが動き、猫のぬいぐるみが持ち上がる。

 凪が喜色の溢れる声を上げてジッと様子を見守る中、ぬいぐるみが出口へと吸い込まれた。

 すぐに出口から猫を取り出し、凪へと手渡す。


「どうぞ、凪さん」

「っ! ありがとう、海斗!」


 喜びに満ちた甘い笑顔を浮かべ、凪が猫を両手で包み込む。

 その笑顔を見られただけで、クレーンゲームを頑張ったかいがあった。

 達成感に胸を弾ませていると、凪がすぐに顔を曇らせる。


「でも、海斗になにもあげられてない……」

「俺は特に欲しい物がなかったので、別にいいですよ」

「ん……。なら、欲しい物が見つかったら言ってね」

「了解です」


 本心からの言葉だったのだが、下手な事を言えば凪は全力で叶えようとするに違いない。

 そう察せる程に澄んだ蒼の瞳が海斗へと向けられ、嬉しさと怖さを混ぜ込んだ苦笑を返した。

 それなりに時間が経ったので、良い時間潰しが出来たとゲームセンターを後にする。


「……ふふっ」


 ちらりと横を見れば、猫のぬいぐるみを見て頬を可愛らしく緩める凪が居たのだった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] イブに働いてる店員さん…強く生きてっ!! まぁその2人付き合ってないんだけどね! それなのにもうイチャイチャがすごいよね、いい砂糖ですっ(カハッ
[良い点] レジに行きますか。あれにしようこれにしよう、どれが似合うかななんてシーンはなかった。だがしっかりと砂糖テロは行っていくつもりらしい。レジ前でいちゃつくとは良い度胸である。さすがに凪からのプ…
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