九話 皆がディスル舞踏会
ヒューバートとエヴォナは舞踏会が始まる前、控室の一室にて引っ付きあい、キスを交わしあっていた。
「これ以上はダメですわぁ。お化粧が崩れちゃう~」
「あぁ。我慢できないな。なぁ、今日の舞踏会欠席しないか?」
「ダメですよぉ。だって、国王陛下が大切な話があるとおっしゃっていたではないですか」
「あぁそうだったか」
ヒューバートはがっかりとした様子でそう言うと、立ち上がり、執事を呼ぶと衣服を整えていく。
エヴォナも侍女によって化粧をなおされ、二人はまた引っ付きあって歩き始める。
「やっと父上と母上も私達の仲を認める気になったかな」
「そうですねぇ。きっとそうですよ」
勝手にセシリアとの婚約を破棄した時には、怒られるかと思っていたが、案外にも国王も王妃も何も言わず、ヒューバートはこんなことならばさっさと婚約破棄しておけばよかったと思ったほどだ。
あれ以来、今まで口うるさく言われることが多かったがそれがめっきり減り、今ではこうやってエヴォナと愛を深めあう時間がたっぷりと出来た。
「いよいよ王太子に任命されるかな」
わくわくとした表情でヒューバートがそう言うと、エヴォナも楽しげに笑った。
「きっとそうですわ! 楽しみですね!」
二人はうきうきとした気分で舞踏会の会場へと足を踏み入れる。
いつもならば拍手喝采で迎えられるはずが、何故か今日はファンファーレの音のみで、それが起こる事が無い。
何故だろうかと思っていると、違和感のある視線を感じる。
「何だ?」
「きっと王太子となられる殿下に、畏怖しているのではないでしょうか?」
「あぁそういうことか」
視線がちらちらと向けられることに、ヒューバートはにやりと笑う。
これからこの国は自分が背負っていくのである。
エヴォナと共に。
そう思っていた時であった。
ファンファーレと共に、拍手喝さいが鳴り響く。
一体どういう事だとヒューバートとエヴォナが視線を向けると、いつもならば国王と王妃が現れる扉から弟であるシックスと、この世の物とは思えぬほどの美女が現れたのである。
妖精かなにかかと見間違いそうなほどに、美しいその美女に、ヒューバートはごくりとつばを飲み込んだ。
白銀のドレスは、光を反射しては煌めく。
化粧はうっすらとしている程度なのにもかかわらず、透き通るような肌と薄桃色の唇が印象的で、ヒューバートの視線は釘づけになる。
「美しい……あれは、誰だ」
思わずヒューバートはそう口にし、エヴォナは目を丸くする。
「セシリア?」
「!?なんだと?!」
ヒューバートは目を見開いてセシリアを見る。
「何だと? ウソだろう? あの、美しい人が……あの、セシリアだと?」
ヒューバートはもう一度ごくりとつばを飲み込む。
頭の中で邪な考えがよぎっていく。
その時であった。
国王と王妃がシックスとセシリアの後ろから現れ、二人の事を祝福するように笑顔で並ぶ。
何かがおかしい。
ヒューバートがそう思った時であった。
微かではあるが小さな声が聞える。
『セシリア様はお美しいな』
『シックス殿下とお似合いだ』
『シックス殿下とセシリア様がこの国を継げば、国は安泰だな』
『ヒューバート殿下はもう、終わりだな』
ヒューバートはばっと、声のした方へと視線を向ける。
誰が言った?
そう思うが、声は至る所から聞こえ始める。
『ほっとしたよな』
『シックス殿下こそが王の器だ』
『ヒューバート殿下では無理だろう』
ヒューバートの背中に、汗がつたっていった。
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