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【完結】コミカライズ重版!〜悪役令嬢はもう全部が嫌になったので、記憶喪失のふりをすることにした~周りの皆が突然王子をディスリはじめました~  作者: かのん
加筆編

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47話

 エヴォナの実家は取り潰しとなり、ヒューバートとエヴォナの身柄は、静かに北の辺境の土地へと移された。


 王族同士のいざこざはかなりの醜聞であるため、内々に処理した方がいいという国王の判断の元、迅速にそれらは決められたのである。


 セシリアが北の辺境の地に二人が移送されたという知らせを聞いたのは、彼らが出発したのちのことであった。


「北の辺境の地ですか?」


 自分の聞き間違いかと、セシリアがそう尋ねると、シックスはうなずいた。


 寛容な処置であると、考えるべきか、それとも処刑よりもむごい処置であるととらえるべきか。


 北の辺境の地と言えば、冬であろうが夏であろうが全てが凍り付くといわれる土地であり、大きな町などは存在しない。


 あるのは、罪人が集められた施設だけであり、そこで彼らは罪を死をもって悔い改めるまで一生働き続けなければならない場所である。


 貴族である二人が耐えられるような環境ではない。


 欲を出さずにいれば、こんなことにはならなかったであろう。王座という欲にかられ、王妃という立場に憧れ、自らの手を汚した結果がこの末路である。


 自業自得、因果応報。


 それからヒューバートとエヴォナの悪行は、子どもたちに昔話として語り継がれていく。


「悪いことをしたら氷の大地へと連れていかれるよ!」


「欲にかられて他人を顧みないと、悪女のように全てを失うよ」


 暗黙の了解で誰かとは言わないが、王国では子どもが真っすぐに育つように、悪い見本の代表として語り継がれていくのであった。


 そして、シックスとセシリアの結婚の日取りが決まったのは、それから数か月後のことである。


 国中がその知らせに喜び、結婚式の日を、国中が楽しみに待ちわびることとなるのであった。




 純白の衣装は、花嫁の証。


 そんな花嫁の衣装の仕上がりを見つめ、セシリアはほうと息をついた。


 とても、美しい衣装だ。


 自分が着るのがもったいないと思うほどに美しいそれを、セシリアは衣裳部屋にて眺めながら、結婚式までの日取りを数えていた。


 準備すべきものはほとんど終わり、後は結婚式を待つのみ。


 シックスは王太子としての仕事に向き合い、二人が取れる時間は限られてきている。それでも二人きりの時間がないわけではない。


 ただ、セシリアとしては、もう少し一緒にいる時間が欲しかった。


「はぁ。私ったら、いつからこんなにわがままになってしまったのかしら。それにこれ……いつ渡したらいいかしら」


 セシリアの手にはリボンの掛けられたハンカチがあり、いつ渡そうかとセシリアは小さく息を吐いた。


「やっと渡せるわ。今度は確実に、絶対に手渡して見せるわ」


 ヒューバートに破られた一度目のハンカチも、破れた部分を繕ってシックスは大切にもってくれていた。けれどやはり出来るならばちゃんとしたものを持っていてもらいたい。


「散歩にでも行こうかしら……」


 もしかしたら外で偶然にでも会えるかもしれない。そう考え小さくそう呟くと、セシリアは立ち上がり、衣裳部屋から出た。


 セシリアはすでに住まいを王城内へと移しており、学園は卒業扱いとなった。


 元々学力は十分であり、妃教育もつつがなく進んでいる。


 ヒューバートとエヴォナの一件を払拭するためにも、シックスとセシリアの結婚式は急がれていた。


 侍女を引き連れて廊下を歩いていると、綺麗な庭が目に入り、セシリアはそちらの方へとふらりと足を向ける。


 いろいろと忙しい日々を乗り越えての今日はやっとの自由な休日である。


 庭へと出たセシリアへ、侍女が日傘をさし、庭を歩いていく。


「綺麗ねぇ」


 美しい花が咲き誇る庭で、花をめでていた時であった。


「セシリア嬢」


 顔をあげると、そこには少し急いできたのか、小走りでこちらに来るシックスの姿が見えた。


「シックス殿下!」


 本当に会えたとセシリアはぱっと表情を明るくし、自らも歩み寄る。


「セシリア嬢が庭を歩いているのが見えてね、会いに来てしまいました」


「そうなのですか? うれしいです……その、実は私も会えないかなと期待していました」


「え? そうなの、ですか」


「はい。その、これを手渡したくて」


 そういうとセシリアは持っていたハンカチをシックスへと手渡した。


 受け取ったシックスはリボンを外して刺繍を見つめた。


 それは丁寧に刺繍されたものであり、今回は以前の物よりも更に力作である。丁寧に心を込めて刺繍した。


 セシリアへと視線を戻したシックスの瞳には、セシリアが喜んでもらえるだろうかという不安と期待を抱えているように見えて、笑みが浮かんでしまう。


「ありがとうございます。すごく、すごく嬉しいです」


 シックスはそういうとセシリアを抱きしめ、そして自分の腕の中にいるセシリアが愛おしくて、ぎゅっと腕に力を入れた。


 大切に、力を入れすぎないように、シックスは自分の腕の中にいるセシリアが愛おしくて、これから絶対に守っていこうと、そう心から思った。


「ふふ。よかったです。今度はちゃんと手渡せました。破れてもいないし、汚れてもいませんよ!」


「そうですね。完璧ですね」


 シックスの言葉にセシリアは微笑みを浮かべ、そして二人は一緒に庭を歩く。


 侍女と執事は後ろへと下がり、二人は手をつなぐとあたたかな日差しの中をゆっくりと歩く。


 風が優しく二人の間を吹き抜け、花が風に楽し気に揺れる。


「なかなか時間がとれずにすみません」


 その言葉にセシリアは首を横に振ると、握っていた手をぎゅっと握り返し、そしてシックスへと身を寄せる。


 甘えるようなその仕草に、シックスは頬を赤らめる。


「あぁ、早く結婚したいなぁと、毎日思います」


「私もです」


 その言葉にシックスは驚いたように目を丸くし、そして、セシリアと向き合うと、少し言い辛そうに、口を開いた。


「あ、あの」


「はい?」


「私は、セシリア嬢を心から、愛しています。その、セシリア嬢は……どう、思っていますか?」


「へ?」


 突然の言葉に、セシリアは顔を真っ赤に染め上げると、あわあわとした様子で視線をさまよわせ、そして、意を決したようにシックスと視線を合わせる。


 シックスもその姿に緊張した面持ちで言葉を待つ。


 もちろん、息をひそめて見守っている侍女や執事や護衛の騎士達も、全員が二人の甘酸っぱいやり取りに息をのんでいる。


 ドキドキ、ワクワクと、その場全体が桃色に包まれているのは言うまでもない。


 セシリアは勇気を振り絞る。おそらく彼女にとっては一世一代の勇気である。


「わ、私は、シックス様のことを……」


 顔は真っ赤に染まり、体には力が入っている。


「お、お、お慕いしております」


 そしてぷしゅ~という音がしそうなほどに、尻すぼみになりながらも、セシリアはそう言い切った。


 シックスはその言葉に顔を真っ赤に赤らめ、そしてセシリアを抱きしめた。


 この瞬間、二人は気づいていないが、侍女や執事や騎士たちからはエアー拍手喝采が送られ、皆がハイタッチや笑顔でうぇーいと盛り上がっている。


 そんな中、二人は二人だけの世界に浸っていた。


「うれしいです」


「こ、こちらこそ、うれしいです」


 シックスはぎゅうぎゅうとセシリアを抱きしめる。


 本当に二人きりならば、シックスとしてはもう少しいちゃこらとしたいところではあった。しかし、シックスはさりげなく流し目で盛り上がる者たちに視線を送り、心の中でため息をついた。


 そして思うのだ。


 結婚式が待ち遠しいと。


 その願いは、その日からしばらくたってすぐに叶う。


 王城内に設置されている教会にて、シックスとセシリアは真実の愛を誓いあう。


「シックス様、これからもよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 二人は教会での式を終えたのちに、街の人々にその姿を見せる。


 民衆からは拍手喝采が巻き起こり、皆が二人の結婚を祝福した。


 空は青く晴れ渡り、この国の未来に光をもたらすようであった。


 皆が喜びの声をあげる。


「シックス王太子殿下とセシリア王太子妃殿下ばんざーい!」


「ばんざーい!」


「いやぁ、シックス王太子殿下とセシリア王太子妃様はお似合いだなぁ」


「本当にねぇ」


「ねぇ、ママ? ヒューバート王子はどうなったの?」


「あらあら、しー。だめよ。その話は内緒なの」


「そうなの?」


「そうよ~。例のあの人は、悪いことをしたから、遠い氷の大地に送られたのよぉ」


「へぇ。悪いことをしたら氷の大地に送れるんだねぇ」


「そうだぞ。ぼうや。それに、欲張りばかりしていると悪女のように全てを失うのさ」


「わかった! 僕、悪いことはしないし、欲張りにもならないよ!」


「ははは!」


「そうよ~。ふふふ」


 二人のことを祝福するそんな拍手の間にも、例の二人はディスられる。


 人間、まっとうに生きるのが一番の幸せへの近道であると、街の人々は二人を祝福しながら、そう子どもたちに教え、語り継いでいくのであった。




最後まで読んでくださりありがとうございました!

ぜひ、コミカライズ版も読んでいただけたら嬉しいです!

よろしくお願いいたします!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。王太子任命時の王様の言葉「王の器」がシビアでした。愚息の処分を第二王子(王太子)に任せて見守ることで、王様の期待が伺えます。「王の器」を示せとの、覚悟の確認でもあったのでし…
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