45話
ヒューバートとの策略とは、策略というにはとてもお粗末なものであった。
貴族社会に居場所のなくなったヒューバートが頼ったのは、裏社会の人間たちであった。金さえ積めばいくらでも情報を売り、いくらでも人を殺すような人間の巣窟。
しかし、その者たちが信頼できるかと問われれば首を横に振らざるを得ない。
なぜならば、金で動くような人間は結局のところ、もっと金を持っている人間に自分の情報を売るからである。
その場が制圧されるのは一瞬のことであり、黒服の男たちは、数人は捕まり抑えられ、数人は逃げた。
しかし逃げたところで、ここにいる時点で、彼らは裏社会に切り捨てられているのだ。最終的に行き着く場所は決まっている。
なぜならば、シックスの指示により優秀な三人の側近がすべてを抑えているからである。
ジョバンニ、ローレン、ヴィクターの三人はそれぞれが、適材適所に配置され、そして自分たちの任務を終えるとシックスの元へと現れた。
三人の登場に、ヒューバートは目を丸くし、そして、その場に座り込む。
一瞬だけだったのだ。
ヒューバートが自信をもって、全てを手に入れると夢見ていた。
それがほんの一瞬にて打ち砕かれ、そしてチリとなって消えた。
「な……なぜだ。なぜ邪魔をする。お前らは、昔は私の見方だったではないか……」
ぼそりと呟かれた言葉に、三人は顔を見合わせるといった。
「あなたについていたのは、両親の命令によってですから」
「あなた自身を尊敬したことはありません」
「私たちは、自らの意思でシックス殿下こそが次期王にふさわしいと、そう確信しています」
追い打ちをかけるようなその言葉に、ヒューバートは唇をかみ、そして縋るようにセシリアの方を見る。
「お前は……セシリアは……私のことを、思っていてくれただろう? やり直すチャンスをくれないか?」
あまりに身勝手なその言葉に、セシリアは首を横に振る。
「先ほどお伝えした通り、ヒューバート殿下を愛したことはありません。それにこれまで、何度だってやり直す機会はありました。ですが、自ら落ちて行ってしまわれたのでしょう?」
その言葉に、ヒューバートはがっくりとうなだれて、シックスの方を見る。
「兄弟だろう? なのに……なぜこんな仕打ちができるんだ」
自分のことを棚に上げてそう呟くヒューバートに、シックスははっきりといった。
「兄上は本当に愚か者です。すべて手に入れていたというのに」
「なら返してくれ!」
悲痛なその叫びに、シックスは首を横に振る。
「もう、兄上には任せられません」
ヒューバートはうなだれ、そして、騎士によって連れられて行く。
そんな中、エヴォナはこっそりと逃げようとしていた。





