44話
ヒューバートは、わざとらしく大きくため息をついて見せた。
そして、静かにセシリアに向かって言った。
「わかった。まぁいいさ。お前が私と結婚する未来は変わらない」
その言葉にその場にいたものたちが首を傾げた時であった。
部屋の中にぞろぞろと黒服に身を包み、顔を隠した集団が隠し通路から現れたかと思うと、セシリアたちを取り囲んだのである。
セシリアは突然のことに驚きシックスへとしがみつくと、シックスは安心するようにセシリアの肩をしっかりと抱いた。
エヴォナもその光景に驚き、そして怯えを含んだ表情でヒューバートの方を見る。
「ヒューバート様? こ、これはどういう」
「ん? まぁそうだなぁ。ここでシックスとお前には消えてもらおうと思ってな」
その言葉に一番驚いたのはエヴォナである。
エヴォナは縋りつくようにヒューバートのところへと行くと、猫なで声で言った。
「きょ、協力するといったではないですかぁ?」
ヒューバートはエヴォナの手を振り払うと、にやりと笑って言った。
「本当にバカな女だ。はぁぁ、こんな女の策略にはまっていたとは、私も愚かな男だったな。王妃という立場を欲しがっているお前に気づかないとは。だが、私はもう目が覚めたのだよ」
そういうと、ヒューバートはねっとりとした瞳でセシリアを見る。
「やはり王妃にふさわしいのはセシリアだろう。大丈夫、エヴォナによる狂気的な犯行と見せかけてすべてを始末するから、エヴォナとシックス。二人仲良く棺桶に入れてやろう」
「ヒューバート様! そ、そんなのないです!」
「ははっ! お前はシックスと共にいたいのだろう? ならいいではないか」
痴話げんかのようなそんなやりとりに、セシリアはぎゅっとシックスにしがみつく。
ヒューバートは、にっこりと微笑みを浮かべると、縋りつこうとするエヴォナを振り払い、そしてセシリアへと手を伸ばした。
「セシリア。さぁ、こっちへおいで」
セシリアはその言葉に首を横に振るとはっきりと言った。
「たとえ殺されたとしても、私はあなたの元へは行きません。というか、ヒューバート殿下のことを私は愛したことはありませんし、これから愛すことも絶対にありませんわ」
「なんだと?」
ヒューバートは眉をあげると、声を荒げる。
「ふざけるな! 人が下手に出れば、生意気を言いおって! ははっ! まぁいい! お前のしつけは後からしてやる! さぁ、シックスとエヴォナを殺せ!」
ヒューバートはそう声をあげ、エヴォナは悲鳴を上げながら扉の方へと逃げようとする。
そして黒服の男たちが剣を振りかざす。
シックスはその様子を見て、肩をすくめるといった。
「兄上は、本当に、愚か者だな」
次の瞬間、黒服の男の中の数名がシックスと私を守るように取り囲み、そして部屋の外から騎士たちがなだれ込む。
シックスは静かに言った。
「まぁでも、愚かな兄上のおかげで、証拠は全てそろったから感謝を申し上げるべきか」
シックスはセシリアの手を安心させるように、ぎゅっと握った。





