42話
「ふざけるな!」
部屋中に怒鳴り声が響き渡り、その場にいた者たち皆が肩をびくりとすくませる。
部屋に入ってきたのはヒューバートであり、その顔は怒りに燃え、セシリアを睨みつけていた。
「慕っているだと? この浮気者が!」
その言葉にセシリアは驚きながらも、はっきりとした声で伝えた。
「浮気? 違います。私の婚約者はシックス様であり、浮気ではありません。というか、ヒューバート殿下はご婚約者であるエヴォナ様の方へともっと関心を向けられたらいかがですか? 浮気というならエヴォナ様の方ではないですか?」
「エヴォナのことはいい! お前は、俺のものだ!」
その言葉にエヴォナも同意するように声をあげた。
「そうよ! あなたはヒューバート様の婚約者だったでしょうが!」
セシリアは静かに、初めて人のことをバカにするような言葉が頭の中で渦巻く。
この二人は、バカなのであろうかと。
そしてセシリアは静かに深呼吸すると、このもともとの発端を作ったのは自分なのだと、覚悟を決めると真っすぐに二人を見つめて言った。
「私の現在の婚約者はシックス様です。お二人に忠告します。このような場でこのような話をするべきではありません。納得できないというのであれば、王城に場所を移してからの方がいいのではないでしょうか?」
「なんだと!?」
「あなた、そうやってごまかそうとするの!?」
この場所には一般の生徒もいる。
あまりヒューバートは醜態をさらすべきではない。シックスの顔にまで泥を塗ることになるとセシリアが思った時であった。
「そこまで。セシリア嬢。すみません、遅くなりました」
その場にシックスが少し息を荒くした状態で現れた。どうやら走ってきた様子であり、もしかしたら知らせを受けて急いできてくれたのかもしれないと、セシリアは思った。
「兄上、エヴォナ嬢、丁度二人にも話がありますので、場所を移し、王城へと移動しましょうか」
シックスの言葉に、ヒューバートは眉間にしわをよせ、エヴォナは良き話と思っているのかぱっと瞳を輝かせてうなずいた。
ヒューバートはじっとシックスの方を見るとにやりと笑った。
「いいだろう。そろそろ決着をつけなければな」
「ええ、兄上」
ヒューバートとエヴォナは同じ馬車に乗せられ、シックスとセシリアは二人とは違う馬車へと乗り込む。
シックスはセシリアの手を握るといった。
「怖い思いをさせましたね?」
「いえ、大丈夫です。あの、決着をつけるとは……?」
「えぇそのことについてですが、もしかしたらセシリア様を驚かせるかもしれません。ですが何があっても僕を信じてください」
セシリアはシックスがこれまで忙しく過ごしてきたことを思い浮かべ何かの準備をしていたのだろうと理解すると、うなずいた。
そして一言伝える。
「わかりました。ですが、後ほどお二人に、私の記憶は失われていないことについて、正直に話してもいいでしょうか? 元々と私がちゃんと言っていなかったのが悪いのです」
「えぇ。もちろん。ですがあの二人のことですから、何かいいように解釈されも困ります。記憶は思い出した、という形にしておいてくれますか?」
「わかりました」
セシリアは、自分の意思をしっかりと伝えようと決意に燃えるのであった。





