41話
結局のところ、物理的な距離感が出来たことでヒューバートとエヴォナがセシリアの前へと来る回数は減った。しかし絶対に会わないようにするのは不可能であり、相手からくる場合は避けるのも難しい。
シックスは心配をし、出来るだけセシリアの傍にいてくれたのだが、ここ最近シックスは何やら忙しいらしく、セシリアに謝りながらも授業が終わるとすぐに帰るか、もしくは授業自体を休むことがあった。
もう少しシックスと一緒の時間が過ごしたなと思っていたセシリアが小さくため息をついた時であった。
「ふふふ。ねぇセシリア様」
カツカツと靴を鳴らしながら、エヴォナがセシリアの目の前に現れたのである。
セシリアはその姿に、またため息をつきたくなるのをぐっと堪えると、笑みを浮かべて言った。
「エヴォナ様、学年もクラスも違うというのに、わざわざどうしましたか?」
「シックス殿下に愛想をつかされそうな、セシリア様の様子を見に来てあげましたのよ?」
「は?」
突然の発言に、クラスに残っていた令嬢達は不安気な様子で二人を見守っている。
それほど大きな声でエヴォナは声をあげており、セシリアは頭が痛くなるのを感じながらも首を横に振った。
「シックス殿下は、そのような方ではありません」
エヴォナはその言葉にそれはそれは楽しそうに両手をぱちぱちとたたきながら、笑顔で言った。
「あらぁ、じゃあ、なんでシックス様は私の家に最近よく手紙をくれるのかしらぁ?」
「え?」
「お父様に最近シックス殿下から手紙が届くのぉ。私としてはきっと、求婚のお手紙かしらぁと思うのだけれどー」
セシリアはその言葉に一瞬動揺したものの、首を静かに横に振った。
「エヴォナ様、それは不敬というものです。シックス殿下は、そのような方ではありません。私は、シックス殿下のことを信じております。それに……はっきりと申し上げて、エヴォナ様をシックス殿下が好きになるなど万に一つもないと思います」
「はぁ?」
エヴォナは一気に不機嫌になると、眉間にしわを寄せた。
「あなた、シックス殿下に自分が愛されていると本当に思っているの!? 爵位が合うからよ! あなた自身に価値があるわけじゃないわ!」
暴言ともとれるその言葉に、セシリアはこのエヴォナという女がよくわからなくなってきた。
昔は親切で優しくて、頼りになる友人だと錯覚していた。
きっとそれは、セシリアがエヴォナのことを信じ過ぎて反論することがなかったから成立することだったのだろう。
だが、セシリアだって変わる。
セシリアはふわりと微笑む。
クラスに残り、二人の様子をうかがっていた生徒たちが息をのんだ。
「エヴォナ様の言う通り、私は公爵家の令嬢でございます。故に、殿下の婚約者に選ばれました。それは貴族の令嬢の務めでございます」
「あ、愛がない結婚なんて不幸せよ!?」
「愛ですか……」
王妃という立場に固執する彼女からは到底発せられるとは思わなかった言葉であった。
セシリアは静かに考えると、自分の胸を抑えて言った。
「愛なら、ここにあります」
「は?」
「私は、シックス殿下のことをお慕いしておりますので」
セシリアの言葉に、クラスにいた生徒たちは頬を赤らめ、エヴォナはイラついたように机をたたいた。
「ふ、ふふ。愛されなければ意味なんてないでしょう!?」
その言葉に周りにいた令嬢達がこそこそと口を開く。
「まぁ、エヴォナ様はシックス殿下がどれほどセシリア様を大切にされているか、見ていらっしゃらないのかしら」
「そうね。それに、セシリア様が記憶喪失になってから、シックス殿下は献身的にお見舞いをしていたとか」
「これが愛でなくて、何だと言うのかしら」
「ねぇ~」
セシリアとしては記憶喪失は嘘なので多少の罪悪感はあるものの、令嬢達の言葉を嬉しく思ってしまう。
だがしかしエヴォナはセシリアとは真逆の感情を抱いていた。
令嬢達の方へと視線を向けると睨みつけ、エヴォナは令嬢達を黙らせた。





