40話
実のところシックスはセシリアが泣いているのを見た瞬間、その原因がヒューバートにあると気づき、心の底から殺意が沸いた。
これまで、セシリアは何度も、何度もヒューバートに傷つけられてきたのだ。もう傷ついてほしくないと思っていた。
それなのに、またヒューバートはセシリアを傷つけた。
けれどその場ではセシリアに笑顔を取り戻させる方が先だと我慢をした。だが、沸いた殺意が消えたわけでなかった。
その後授業を終えて城へと帰ったシックスはその足でヒューバートの自室へと向かった。
そして、ノックをしてから部屋に入ると、ヒューバートが座っていた目の前にある机を、勢いよく叩き、笑顔で言った。
「兄上。いい加減にするべきだ。セシリア嬢は私の婚約者です。近づかないでいただきたい」
ヒューバートは驚いたような顔を浮かべたのちに、どうにか笑顔を作ると言った。
「な、何を。そっちこそいい加減にしろ。言っておくが、王太子は私の」
「貴方は王の器ではないよ。いい加減に現実を見た方がいい」
その言葉にヒューバートは立ち上がると怒号をあげた。
「ふざけるな! お前は何様だ! 第二王子のくせに! 分不相応だろう!」
「貴方は何度セシリア嬢をこれまで傷つけてきた? そんな彼女の優しさに甘え、そして第一王子という地位に甘え、その結果が今の貴方だ」
「なんだと!?」
「もう一度言う。セシリア嬢に、近づくな」
「弟のくせに生意気だぞ!」
ヒューバートはそういうとシックスに殴りかかろうとしたのだが、それをシックスはひょいとかわすと足を引っかけて兄を転ばせた。
音を立てて床に倒れるヒューバートを見下ろしながら、冷ややかにシックスは告げた。
「最後の忠告だ。大人しくした方がいい。このままだと全てを失うぞ」
弟としての最後の忠告だった。だが、それをヒューバートが大人しく聞くわけはない。
「っは! そんなわけはない! お前、その地位にいられるのは今だけだからな!」
シックスはため息をつくと倒れている兄の横を通り過ぎ、扉へと手をかけ外に出た。
部屋の外に出た途端に中からはヒューバートが暴れまわっているような音が響いて聞こえた。
それにシックスはため息をつき、そんなシックスに、部屋の外で待機していた側近の三人は歩み寄ると尋ねた。
「どうでしたか?」
「どうやら、怒り狂っているようですが」
「シックス殿下。お疲れ様です」
廊下を歩きながらシックスはため息をつくと、静かな口調で言った。
「あのバカは。本当にどうしようもないな。はぁ。学園だからとセシリア嬢に護衛をつけられないのが痛い。あのバカとあのバカ女がセシリア嬢の周りをうろつくのを止められないのが、いらだつ」
その言葉に三人は同意するようにうなずいた。
「本当ですね。ですが、すぐに止めに行けるように影は待機させてあります」
「ですから、本当に危なくなった時は対応できるのでご心配なく」
「ただ、セシリア嬢からしてみれば不安でしょうね」
シックスはうなずいた。
「そうだな。はぁ。早く決着をつけねば。いくぞ」
シックスは頭の痛さを感じながらも、早く解決したいものだとまたため息をついた。





