七話 セシリアとシックス
セシリアはしばらくの間部屋の中で一人悶絶していたのだが、侍女達が急いだ様子で部屋の中に現れると、あっという間にセシリアの衣装や化粧、髪型を整えていく。
元々、セシリアは化粧や髪型を派手にしなくてもそれはそれは美しい。故に、侍女達はこれまでセシリアからのリクエストを内心本当にいいのかと悩むこともあった。
しかし、セシリアからのお願いでもあったからこそ、分厚い化粧であってもそれはそれは美しく、妖艶に仕上げてきたのである。
だがしかし、今はさらに生き生きとセシリアに全身全霊を注ぐことが出来る。
「お嬢様、本当にお美しい」
「もうこれは、神様による祝福としか思えません」
「新しい扉を開きそうです。はい、開きました」
そんなことを侍女達は呟く。
セシリアは鏡に映った自分を見つめながら、本当にこれでいいだろうかと一瞬悩む。
いつも分厚い化粧ばかりしていたので、シックスはこれを見てどう思うだろうか。
そう思っていた時、部屋の扉がノックされ、シックスが客間で待っていることが告げられる。
ここは冷静にならなければと思ったセシリアであったのだが、それは早々に崩されることになる。
いると思っていた両親はおらず、二人きりだったのである。
執事に尋ねると、二人でゆっくり話して見なさいと伝えるよう言われたという。ただ、もちろんその場には執事や侍女達はおり二人きりではない。
温かな紅茶と菓子が用意され、向かい合って座る二人。
セシリアはちらちらとシックスに視線を送り、その様子にシックスはくすりと笑みをこぼした。
「その様子からして、どこからか、話を聞きましたか?」
びくりと肩を震わせ、セシリアは顔を赤らめながら小さくうなずいた。
「はい。その、すみません。あの、姿を窓から見て、こっそりと話を聞いてしまいました」
正直にセシリアがそう言うと、シックスは驚いたような顔を浮かべた後に微笑む。
「そうでしたか」
セシリアは、緊張しながらも、気になっていたことを尋ねようとする。
「あ、あの。私、いつもと違うと思うんです。化粧とかその服装とか、あの、シックス殿下は……」
どう思っているのか聞こうと思うが、何と聞いたらいいのだろうかと、セシリアは口ごもる。
好みを聞くべきなのか? そして、好みを聞いて自分はどうするのか。また、相手に合わせるのか。
セシリアは頭の中で、何が正解なのかを探す。
シックスはその様子に、優しく微笑みを浮かべると言った。
「いつものセシリア嬢もそれはそれは美しかったですが、今日はとても可愛らしいですね」
「え?」
「セシリア嬢は、どういうものが好みなんですか?」
「え?」
セシリアは、ふと、考える。
自分は何が好きか。そしてこれまでどういったものを我慢してきたのか。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「あまり……派手なものは、そこまで好きではありません」
「はい」
「可愛らしい物が、好きです」
「ふふ。似合いますよね」
「あ、あと、赤よりこう、ふんわりとした色合いの方が好きです」
「はっきりとした色も似あいますが、ふんわりとした色も、きっとお似合いになるでしょうね」
「あと、あと……」
セシリアはその時、自分はこれまで無理していたのだなと、改めて思った。そして、目の前のシックスは、自分の意見を聞いてくれるのだと、感じた。
シックスは、静かに言った。
「こうやって、セシリア嬢の話が聞けて、私は本当に嬉しいです」
「好みに、合わせてほしいとは、言わないのですか?」
その言葉に、シックスは私の目の前へと移動すると跪き、私の手をぎゅっと握った。
がんばるぞーーーー(●´ω`●)