38話
セシリアは出来上がったハンカチにリボンをかけると、嬉しそうに笑みを浮かべ、そしてシックスが喜んでくれるだろうかと、思い描いて、少し不安になり、もう一度リボンを取って自分が刺繍した王家の紋章と可愛らしい花で彩られたハンカチを見つめた。
「大丈夫……よね?」
何度も何度も心配そうに確認しては、大丈夫だと自分に言い聞かせているセシリアの姿を侍女達は微笑まし気に見つめている。
セシリアは準備を済ませてカバンに入れているハンカチをいつシックスに手渡そうかと楽しみに、学園へと向かった。
いつ手渡そうかとそわそわとシックスが来るのを待っていたのだが、学園に姿を見せておらず、侍従から今日は所用で学園に来るのが遅れると言うことを聞いた。
昼食休みの時間には来るとのことだったので、セシリアはそれを楽しみに待つことにした。
「喜んでくれるかしら。なんだかドキドキするわ」
丁寧に刺繍したハンカチには、喜んでほしいと心を込めてある。だからこそ、渡すのが楽しみだった。
セシリアは授業を受け、そして昼食の休憩の時間に入ったところでハンカチをカバンから取り出す。
侍従からは間もなく学園に到着すると言うのを聞いたので、迎えに行こうと学園の入り口の門のところへと向かって歩き出した。
早くシックスの喜ぶ顔が見たいという思いがあり、その足は気持ちに合わせて少しだけ早くなる。
「セシリア」
「え?」
手を取られて呼び止められ、セシリアが振り返ると、そこにはヒューバートがいた。
「……第一王子殿下にご挨拶を申し上げます。あの……手を放してくださいませ」
「セシリア。何度も言うがお前は俺を愛していたんだ。シックスがいつも邪魔をして! 図書館にお前が俺に会いに来てくれたというのに……いい加減お前も俺を愛していたと認めるんだ」
鋭い視線でそう言われ、ヒューバートは一体どうしてそんなことを捏造するのだろうかと思った。
「私は」
貴方を愛してなどいないとそう伝えようと思った時であった。思いを込めて刺繍したハンカチへ、ヒューバートの視線が向かう。
「これ……は」
ヒューバートはそういうとハンカチをセシリアから奪い取った。
「あ、返してください! それはシックス殿下にお渡しする物です!」
ヒューバートの腕からは解放されたものの、ハンカチを取られてセシリアはそう声を荒げた。
「シックスに?」
驚いた表情でそうヒューバートは呟くと、リボンを取ってハンカチを開いた。そして、そこに刺繍されていた文様を見て、眉間にしわを寄せると、無言でそのハンカチを破り捨てた。
「え……」
びりびりと音を立てて破かれていくハンカチを見つめ、セシリアは呆然としていた。
今、破かれているものが、自分が丁寧に心を込めて作った物だということが信じられず、破かれてゆっくりと地面へと落ちたそれを見つめる。
馬車が学園の前へと着き、そこからシックスが下りてくると、二人の姿を見てセシリアへと急いで駆け寄った。
「セシリア嬢? 迎えに来てくれたのですか? えっと、何故、兄上と一緒に?」
そう声をかけてくれたのにセシリアは気づきながらも、落ちたハンカチから目が離せない。
ヒューバートは憎々し気にそのハンカチを足で踏みしめる。
「お前を迎えに来たわけではない。セシリアと偶然、会っただけだ」
前に自分からセシリアに近づかないと言った手前、ヒューバートは偶然だと言い張った。それにシックスは陰に護衛をつけているとはいえ、セシリアが大丈夫だったかが気になり声をかけた。
「セシリア嬢?」
言葉が返ってこないことに、シックスは首を傾げ、そしてセシリアの視線の先を見る。
そこには、ヒューバートに踏みつけられている破れたハンカチがあった。
「っふ。こんなもの不必要だろう? 俺の為にもう一度」
ヒューバートが話を続けようとした時、セシリアは顔をあげると、ヒューバートを睨みつけた。
「嫌いです」
「は? なんだと?」
セシリアは、初めて心の底から湧き上がる怒りを感じた。そしてそれが向けられた先にいたのは、ヒューバートであった。





