六話 謝罪
療養として学園を休んでいるセシリアの家へと第二王子であるシックスが訪れる知らせが来たのは一週間も前の事であった。
ただ、これについてセシリアには知らされていなかった。
あくまでも両親がシックスと対面する予定となっており、その事についてセシリアは何一つ知らされていなかった。
そして今まさに客室にて、シックスとセシリアの両親は対面していた。
「本日は屋敷への訪問をお許しいただきありがとうございます。来て早々ではありますが、兄がセシリア嬢にしたことについて、謝罪したいと思っております。愚かなる兄が、本当に、申し訳ありませんでした。」
臣下なれど年上に対して兄のように不躾な口調ではなく、頭を深々と下げるシックスに、セシリアの父と母は眉間に深くしわを寄せる。はっきりと言えば、セシリアを傷つけた王家になどすでに興味はなく、むしろこんな国は捨てて隣国へと移住してしまおうかなどと、話まで出ていた。
だが、ここに来てシックスの謝罪は予想外だった。
第二王子シックスはその見た目で忌避されることも多かったが、その真面目さや真摯さが近年評価されており、第二王子を持ち上げようとするものまで現れていた。ただ、あくまでも本人は兄を立てるという姿勢だったために、争いは生まれていなかったのだ。
そんなシックスが何故?と、父と母の間では疑問が浮かぶ。
兄ヒューバートの為、ひいては国の為だろうかと思っていた時、予想外の一言が口から放たれた。
「清廉潔白なセシリア嬢を舞踏会の場で婚約破棄などする外道が…兄であることがお恥ずかしいかぎりです。今回の一件にて、私は兄を見限る覚悟を決めました。」
「なっ!?」
「えぇ!?」
セシリアの父と母は目を丸くしてがたりとその場から立ち上がるが、すぐに座り直し、紅茶を一口口に含む。
「で・・殿下、ですが今までそんなそぶりなどなかったではないですか。」
シックスは悲しげに目を伏せて頷き、それから真っ直ぐにセシリアの父を見つめると言った。
「ええ。兄とセシリア嬢が婚約関係にあり、セシリア嬢が幸せになるならば、それでいいと考えておりました。」
その言葉に、二人はごくりと喉を鳴らした。
「そ・・それは・・・」
「何故?」
シックスはしっかりとした口調で二人に言った。
「私は、セシリア嬢を慕っています・・・幼き日から一度も私の事を蔑む事も、疎む事もない、真っ直ぐな視線を向けてくれたのは、彼女だけです。彼女は・・私の救いでした。」
その言葉を聞き、セシリアの両親は自分の事ではないのに、あまりに真っ直ぐな純粋な感情をぶつけられて顔を赤らめると少し恥ずかしくなってきた。
なんとも甘酸っぱい。
そして、その言葉を実の所扉の外にて聞き耳を立てていたセシリアは、顔を真っ赤にして見つからないように自分の部屋へと逃げ帰ったのであった。
シックスが来たのを偶然にも窓から見つけて、何の話だろうかと令嬢らしからぬ行動と分かりながらも盗み聞きしてしまった。
それを見ていた侍女らは、内心驚いていたが、記憶喪失の後遺症かと温かな目で見守っていたのだが、セシリアが顔を真っ赤にする様子を見て、一体何の話がされているのだろうかと気になって気になってしかたがなかった。
春ですねぇ(●´ω`●)あったかい。