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【完結】コミカライズ重版!〜悪役令嬢はもう全部が嫌になったので、記憶喪失のふりをすることにした~周りの皆が突然王子をディスリはじめました~  作者: かのん
加筆編

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24話

 セシリアはヒューバートのことをじっと見つめた。


 王家と公爵家との結婚は決められていたものであり、自分は両親から王家を守り、敬い、そして国を栄えさせていくために貴族として生きていくことを教え込まれてきた。


 だからこそ、ヒューバートがこれまで自分の意見を聞かなくても、ないがしろにされても、それでも堪えて、これまで生きてきたのだ。


 仲良くなろうとしても拒絶されることの方が多く、嫌なことを言われたことは数知れない。


 それなのに、愛していた? セシリアは先ほどのヒューバートの言葉に、呼吸を整えてから尋ねた。


「……私が第一王子殿下を愛していたという根拠は、どこにあるのでしょうか?」


「は?」


 今までセシリアはヒューバートに対して意見をいう事はあっても口答えをすることはなかった。だからこそヒューバートは驚いたような表情を浮かべた。


「根拠? それは、お前は俺と会おうといつも王城へ来ていたし、俺の好みを知ろうとしていたし……」


「それは婚約者としての務めでは? あの、申し訳ございませんが、ヒューバート第一王子殿下の事を人から聞けば聞くほどに、自分が愛していたなど、ありえないと思うのです」


「ありえない? 何故だ。ありえないなど、どうしてそう思う!?」


 セシリアは言ってもよいのかと考えると国王陛下が一言口を開いた。


「セシリア嬢。そなたには言う権利がある。言ってもかまわん」


 その言葉にセシリアは背中押され、口を開いた。


「……申し訳ございませんが、ヒューバート殿下は私が好きなものを何か一つでもご存じですか?」


「え? あー。薔薇? とか、あとは煌びやかな宝石とか、奇抜な柄のドレスとかじゃないか?」


 セシリアは首を横に振る。


「私は可愛らしい色合いの物が好きですし、一番好きな花は鈴蘭です。あと柄があるものよりも淡色の色のドレスの方が好みです」


「だ、だがお前は俺のことが好きだったのだ!」


「……どこを、でしょうか?」


「え? どこ?」


「はい。ヒューバート第一王子殿下のどこを、私が好きで、どこを愛していたと?」


「俺の全部だろう? 顔、性格、品格、全てだ!」


 その言葉に会場内から小さな笑い声や失笑が響いた。ヒューバートはそれに眉間にしわを寄せたが、セシリアが発した言葉に、目を丸くした。


「全て、というほどに曖昧な言葉はありませんわ。もし私がヒューバート第一王子殿下にそのようにお伝えしていたとするならば、それは、どこを愛していると言えばいいか分からなかったのではと、推察できます」


 吹き出すような声が会場から上がる。


 肩を震わせている者もいる。


 セシリア的には、本当に自分がそうだったのであればと仮定して話をしたのだけれど、シックスまで笑いを堪えていたのに気づき、言葉を間違えただろうかと不安に思った。


 ちなみにだが、これまでセシリアはエヴォナからの忠告の通りに、ヒューバートが好む女性と言うものを演じ、そして好かれようと努力してきた。


 しかしそれは、セシリアがヒューバートのことを愛していたからではない。


 それが務めであったからである。


 セシリアは美しく頭を下げると言った。


「第一王子殿下、私は、第二王子殿下であるシックス王太子殿下の婚約者でございます。これからはシックス様が私の唯一であります。以前のことは関係ございません。私は貴族の娘としての自分の役割を果たすまでです」


「っく……」


 ヒューバートは頬を引きつらせる。


 エヴォナは、慌てた様子でセシリアに向かって甘えるような声をかける。


「セシリア様! 私達は友人ではありませんか……何故、教えて下さらなかったのですか?」


 その言葉に、セシリアは静かに、エヴォナと出会った頃のことを思いだす。


 セシリアにとっては、誰にも話しかけてもらえずどうしようかと思っていたお茶会の席で真っ先に声をかけてくれて仲良くなったのがエヴォナであった。


 だが、実のところはあまりの美しさに他の令嬢達が声を掛けられなかっただけであり、エヴォナは我先にと声をかけ、そして友人という立場を得たのだ。


 そんなことなど知らないセシリアだったが、確かに初めてできた友人だった。


 けれど、今でははっきりと自分が利用されていただけだとセシリアには分かっている。


「失礼ですが、友人、ですか?」


 あえてセシリアは困ったようにそう言い、そしてチラリと視線を会場へと走らせる。


 すると数人の令嬢達がさっとセシリアの後ろへと移動し、エヴォナを威圧するように冷ややかな視線を向ける。


 セシリアを心配し、手紙やお茶会で励ましてくれた令嬢達である。そこにいる令嬢達こそがセシリアにとっては友人であり、大切にするべき相手である。


 だからこそ、美しい微笑を浮かべてセシリアは言った。


「私の友人はこちらにいます。皆様、私のことを気遣ってくださったり、手紙をくれたり、一緒に過ごしたり下さった、優しい方たちです」


 エヴォナは顔を引きつらせる。


「忘れているだけよ。私たち、親友じゃない!」


 その言葉に皆が顔を歪める。


 ヒューバートは焦ったようにエヴォナの腕をつかむ。


「エヴォナ!?」


 掴まれた手から逃れるようにエヴォナは慌ててセシリアの方へと歩み寄ると、セシリアの手をぎゅっと握って行った。


「ね? 親友じゃない。貴方はただ忘れてしまっているだけなのよ?」


 その言葉に、セシリアは首を横に振ると、優しくエヴォナの手を引き離すと言った。


「先ほども言いましたが、私の友人はここにいる方々であって、貴方ではありません」


 ここにきてやっと、ヒューバートとエヴォナは自分達に向けられる視線が冷ややかなものばかりであることに気が付いたのであった。


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