21話
「私は、そのままの貴方が好きです」
「え?」
セシリアはきょとんと目を丸くし、それから言葉を理解し、顔を赤らめた。
「えっと、その……」
戸惑うセシリアの目の前で、シックスはポケットから小さな小箱を取り出して、セシリアに言った。
「幼い頃、私は貴方に恋をしました」
「え?」
シックスにとってセシリアはいつも明るく、太陽のような人であった。
シックスは偉大なる初代国王と同じ髪と瞳をもって生まれたとはいえ、異国の色になれない人々からすれば、忌避の対象となった。
表立って批判することはない。初代国王の色と知っていたからだ。けれど知っていることと実際見て感じることとは大きく違う。
しかもシックスは第二王子である。
誰もがシックスから一歩距離を取った。
けれど、セシリアだけは最初から違った。そしてそれは回数を重ねても嘘偽りがなく、いつも明るい笑顔でセシリアはシックスを受け入れてくれた。
『本日は、ヒューバート様がお忙しいということで、シックス殿下と過ごすようにと、ヒューバート様に言われたのですが……あの、もしかして話は聞いてらっしゃいませんか?』
『えっと……はい。それに、僕は良いですが……僕と、一緒になんて、嫌じゃないですか?』
『え? あの、シックス殿下がいいのであれば、私は一緒に過ごせたら嬉しいですが』
『本当に?』
『はい。ふふ。何して遊びますか?』
いつも優しい笑みを向けてくれるセシリア。それは太陽の光のように温かで、シックスの心の中で、少しずつセシリアへの思いは育まれた。
王宮内で姿を見る度に、話をするのが楽しみだった。
ヒューバートがセシリアを面倒くさがって、自分と遊ぶように命じるのに、何度感謝したことか。
そして、何度、自分の婚約者ではないことに絶望したことか。
自分の婚約者にはならないと、セシリアが幸せであればそれでいいと、何度も、何度も心に蓋をした。
そして、セシリアへの思いが膨らむと同時に、自分の外見によって忌避されることを自分の力で乗り越えなければならないと考えるようになった。
外見ではなく、内面で信頼を得る。
セシリアが毎日努力し、直向きに学びを深める姿に触発された。
そして、今現在、王城内や街でも、シックスのことを忌避する者はほとんどいない。
彼の人柄を知り、内面を知り、優れた姿は忌避していた者達さえ引き付けた。
「セシリア嬢は、私のことを今まで一度も遠ざけることはありませんでした。それがどれだけ私を救ったか貴方は知らないでしょう。貴方に私はずっと恋い焦がれていた。けれど、貴方の幸せと思ってこれまで身を引いていました」
シックスはセシリアの手を握る。
「けれど、もうやめます。兄には貴方を任せられない」
「シックス殿下……」
シックスは小箱を開けた。
その中には金色の眩い指輪が輝き、美しい宝石がはめられている。
「どうか、私と婚約していただけませんか? 絶対に幸せにしてみせます」
「で、ですが、国王陛下や王妃様にどう伝えればいいか」
「私からすでに話はしてあります。お願いです。私に貴方の隣に立つ栄誉をいただけませんか?」
セシリアは顔を真っ赤に染め上げると、視線を泳がせる。
今までこれほどまでに熱をはらんだ瞳で見つめられた事などなく、心臓が煩いくらいに鳴る。
「で、ですが」
「セシリア嬢。愛しています」
嘘偽りなく告げられたその真っすぐな気持ちが嬉しくないかと言えばうそになる。けれど今自分がその思いにこたえられるのか、セシリアは思い悩んだ。
するとシックスは不安げな様子で尋ねた。
「今はただの婚約者でもかまいません。それとも、婚約者になるのも、嫌、ですか?」
「え? いいえ。そんなことはありません! あ」
セシリアの言葉にシックスは嬉しそうに笑う。そして、ゆっくりと指輪をセシリアの薬指へとはめた。
はめられた指輪はセシリアの細く白い指に美しく輝く。
「では、今はただの婚約者でかまいません。これからセシリア嬢に好いてもらえるように努力します」
その言葉にセシリアはうなずき、そしてシックスは今まで見たことがないくらいに嬉しそうに微笑んだ。





