15話
セシリアは、両親からしばらくはゆっくり過ごすようにと言われ、学園も休むこととなった。
ただ、これまで学園が終われば妃教育と忙しくしていたセシリアは、休めと言われても何をすればいいのか分からず、部屋の中で、静かに紅茶を飲んでいた。
勉強の毎日がこれまで続いており、何もしない日などなかった。
だからこそ、目の前に置かれた紅茶を見つめながら妃教育を取ったら自分には何もないのだと言うことを、セシリアは感じた。
「これから……私は、どうなるのかしら……」
ヒューバートの婚約者でなくなった以上、これから新たに婚約者を探さなければならない。
そしてまた、誰かの婚約者になるのだ。
国の為とこれまで頑張ってきたが、自分の頑張りなど、無意味なものだった。
そう、うつろな瞳で紅茶を見つめていた時、部屋がノックされた。
「お嬢様。お届け物でございます。お部屋に飾ってもよろしいですか?」
「え? えぇ。何?」
部屋まで届けられるということは部屋に届けても問題のないもののはずだ。
そしてそれは入ってきた侍女たちの手によって、部屋の中に次々に花束が飾られていった。
それは色とりどりの花々で、可愛らしい、セシリアが好む花ばかりであった。
セシリアがどんな花を本当は好むのか、どんな色を好むのか、それを知っているのは。
「……シックス殿下?」
自分の好みや好きなものについて、一緒に過ごす中で呟いた言葉。偽りの自分を重ねていたのに、本音が漏れてしまっていた自分の素直な言葉。
それをシックスは覚えていた。
セシリアの呟きに、侍女達は驚いたような表情を浮かべたのちに笑みを浮かべて頷いた。
「そうでございます。シックス殿下より、こちらの花々をお嬢様のお部屋へと飾ってほしいと届けられたものです。こちらにお手紙がございます」
セシリアは手紙を受け取ると、ペーパーナイフで手紙の封を切った。中の手紙の便せんからは優しい花の香りがした。
手紙の内容は、ヒューバートの所業の謝罪と、そして、セシリアの身を心から心配する文面が並んでいた。
その文字を見た時、セシリアは涙が溢れた。
そうだ。いつも、いつもシックスはセシリアの味方でいてくれた。
“大丈夫ですか”“無理をされないでください”“セシリア嬢は頑張り屋さん過ぎます。”これまで何度も、何度も、シックスはヒューバートに冷たくされる自分に励ましの言葉をかけてきてくれた。
頑張りを、一番傍で見てきてくれた。
そして、どんな時も、シックスは真面目に様々なことに挑戦していた。
ヒューバートが面倒くさがっていた授業や、城下町の視察なども積極的に行い、王族らしく民の事を考えて行動していた。
苦労もあっただろう。けれどそんなことセシリアの前では一切見せないで、セシリアの前ではいつも笑顔で励ましの声をかけてくれた。
「私はバカね……全てが無駄ではなかったのに」
これまでの自分の頑張りは、一つ一つが自分の血と肉となり、自分の力になっている。
辛くてやめたくなったこともあった。苦しくて立っていられそうにない時もあった。
けれど、自分と同じように、頑張っているシックスがいたから、そんなシックスの姿に、自分も、頑張らなければならないと奮い立った。
「ちゃんと、私の頑張りを見てくれていた人はいる」
涙がぽたぽたととめどなく溢れ、セシリアはぎゅっとシックスからの手紙を胸に抱きしめた。
侍女達はそっと扉の外に控え、そして泣くセシリアの声に、唇を噛み、静かに共に涙を流した。
侍女達は悔しそうにつぶやく。
「あのバカのせいで、うちのお嬢様が傷つくなんて許せないわ」
「あのバカ女のせいで、うちのお嬢様が涙するなんて許せるわけがない」
「記憶喪失になるまで追い込むなんて。なんて酷いのかしら」
「本当にそうよね。お嬢様、記憶を失われてからずっと情緒が不安定な様子ですわ」
「おかわいそうに」
侍女達は、お互いに顔を見合わせると、セシリアが笑顔を取り戻すことができるように自分たちは自分たちに出来ることをしようとうなずき合った。
これまで、ずっと頑張り続けてきていたセシリアを甘やかそう。
自分たちに出来ることは小さなことかもしれない。それでもセシリアが家で心を休めるように、安らいだ時間を過ごせるように。力を尽くそう。
そう侍女、そして執事達はその日から結託する。
その日から毎日シックスからは手紙と、セシリアの好みそうなプレゼントが届けられた。
それを嬉しそうに受け取るセシリアの姿に、侍女達は喜び、執事達は主人とセシリアの許可を取った後に、セシリアから改めて好みを聞き、部屋の中を模様替えしていった。
小物からドレスまで、セシリアの好みに変えられていく。
「ドレッサーの中の奇抜なドレスは全部買い手があれば売って孤児院の寄付金に回してちょうだい」
その言葉に侍女達はすぐにドレスを一掃しにかかる。あれが似合うのは世界でおそらくセシリアただ一人であろうが、布も使っているリボンも一級品であるから、ばら売りすればかなりの値段になるだろう。
「それにしても……このドレス、本当に似合う人っているのかしら」
小さな声で呟かれた言葉であったが、侍女達はセシリア様は大層お似合いでしたと思わず口に出しそうになるのをぐっと堪えたのであった。
いよいよ本日よりコミカライズ配信開始です!よろしくお願いいたします!(●´ω`●)
短編「感情が天候に反映される特殊能力持ち令嬢は婚約解消されたので不毛の大地へ嫁ぎたい」を書いてみました(*´▽`*)よければ読んでいただけると嬉しいです!





