10話
セシリアに対するヒューバートの扱いに、シックスはこれまで何度もヒューバートに注意してきた。しかし、それでもヒューバートの意思が変わることはなかった。
セシリアにシックスはヒューバートの婚約者という立場が嫌ではないかと尋ねたことがあった。けれど、嫌だからとか、そういうものは関係できないのだと知った。
セシリアは国のためにと妃になる決意をしていた。
『セシリア嬢。頑張りすぎではないですか?』
『そう、でしょうか。ですが私が頑張ることが国の為になるならば、私は、頑張るべきなのです』
その言葉を聞いた時、シックスは自分の甘さを知った。
大変だから、きついから、ヒューバートが冷たいから。それは妃教育を降りる理由にはならないのだ。
応援する気持ちとは裏腹に、一生懸命に頑張り努力を重ねるセシリアに惹かれないわけがない。
一生懸命にヒューバートとの関係を築こうとする姿は健気に思えたし、国の為に一生懸命に学び、王家の一員になるための覚悟をして妃教育を真摯に受ける姿には尊敬をした。
惹かれないわけがない。
けれど、そんな自分の感情、自分の欲の為に、争いが生まれるのはセシリアが望むわけがない。そうシックス
は考えるが、それでも恋焦がれてしまう。
「……国の為でいいなら、私の妃でもいいのではないかと思ってしまう」
自らが呟いた一言に、シックスは慌てて口をふさぐと、小さくため息をついた。
これまでの頑張りを知っているからこそ、応援したくなった。
これまでの努力を知っているからこそ、邪魔など出来なかった。
順当にいけば、ヒューバートが王位を継ぐのが道理である。
シックスの外見は、この国の人々には好まれず、ヒューバートの外見の方が好まれる。
それに兄を退けて自分が王位に立ったとして、一時国が荒れる可能性だってある。
現段階では優秀な側近に恵まれているヒューバートの方が優勢である。各家はヒューバートが公爵家との婚姻をすることで後ろ盾を得て王座に就くと考えている。
その時、部屋がノックされ部屋の中へと現在宰相を務めるランドルフが姿を現した。
父よりも年を取った、ひげを蓄えたランドルフは昔から何かとシックスのことを気にかけてくれた。
「おやおや、恋煩いですかな?」
ため息をついて、机に頬杖をついたシックスの姿を見て、冗談を言うようにランドルフはそう口にした。
「はぁ。タイミングが悪い時にランドルフは来るな。それで、何かあったのか?」
そう尋ねると、ランドルフは小さくため息をついた。
「シックス殿下。本当にこのままで良いとお思いですかな? 先ほどヒューバート殿下が子爵令嬢に入れあげており、かなりの金額を貢いでいるという情報が入りましてな」
「何が言いたい?」
「そのままですよ。シックス殿下。本当は分かっているのでしょう」
優しげな表情から一変、鋭い瞳で見つめるランドルフに、シックスはため息をついた。
何が正解か。
本当に正解なのか。
自分の欲だけで、国のこれからに関わるようなことになってはならない。
「あと少し時間をくれ」
そういうと、ランドルフは小さく息を吐き、忠告するように言った。
「タイミングを見誤れぬよう。お願いしますよ」
ランドルフは部屋を出ていき、シックスはまた大きくため息をつく。
「タイミング、か」
それが分かる時がくるのか。シックスは瞳を閉じて頭の中で今後どうしていくべきかについて思考するのであった。





