7話
「貴方、本当にそれでよいと思っていますのぉ~?」
「え?……えっと、どういうことでしょうか」
セシリアは目の前にいる令嬢の髪型へと視線を向けた。
「はぁ。嘆かわしいですわぁ。ちょっと、こちらへいらっしゃいなぁ」
「え?」
セシリアは手に持っていた扇をパタンと閉じると、わざとらしく大きくため息をつくと、教室の後ろへと控えていた侍女を呼びつけた。
そして顎をくいっとして侍女へと指示を出す。
「失礼いたします」
「え? あ、はい」
侍女達はさっと櫛とリボンを準備すると、乱れていた令嬢の髪を可愛らしく編み込みを結いなおした。それは見事な手際であり、一瞬の事であった。
「令嬢として身だしなみは大事なことですわぁ。はぁ。乱れていることに気付かないなんてぇなんておどじさんなのかしらぁ? はぁ。手間を取らせないでちょうだいなぁ」
「は、はい……」
セシリアはそういうとその場から立ち去っていく。
そんなセシリアの様子を見ていたエヴォナは笑みを深めた。
ヒューバート殿下の好みが、最近は悪役令嬢のようにきつい女性だとセシリアに教えたのである。
何というか悪役令嬢というにはまだインパクトは足りないが、最初のころよりもよくなってきている。
「そうよ。もっと、もっとやりなさい……もっと意地悪すればいいのに!」
そうエヴォナは呟く。
その頃セシリアは図書室へと向かうと、悪役令嬢が出てくる小説ばかりを借りていた。
悪役令嬢という単語自体最近知ったセシリアである。エヴォナに言われた時にはよくわからず、そして聞いてもあまりピンとこなかった。
だからこそ出来るだけ悪役令嬢になりきれるようにと、図書室でそういった類の小説を読み漁る。
そして、自分なりに解釈をすると頑張って悪役令嬢を演じてみた。
「ちょっと貴方。その参考書は去年改正されて内容が大幅に変わっておりますわよぉ」
「え?」
セシリアは令息が持っていた参考書をつまみ上げると、大きくため息をつきながら本棚から一冊取り出し、それを押し付けた。
「そんなことも知らないなんておバカさんですわねぇ。こっちを持っていきなさいな。改正後の物ですわぁ」
「あ、はい」
美しい髪を優雅な手つきで掻き上げて立ち去る。
セシリアの中の悪役令嬢のイメージはまだまだ乏しいものであったが、それでも精一杯にセシリアは悪役令嬢という物を演じ始めたのであった。
土砂降りの日に車輪がぬかるみにはまって動かなくなった馬車に乗った令嬢に対しては。
「はぁ。貴方こんな土砂降りの日に道を阻むなんて。邪魔ですわ。早くこちらへ乗りなさい」
「え? よろしいのですか?」
「さっさとなさいなぁ。あぁ~。邪魔ですわぁ~」
という風に悪役令嬢らしくきつい口調で言い放った。
そしてまたある時には、令嬢に対して大きくため息をつきながら言った。
「まぁ。貴方。そんな顔色みっともない。さっさと下がっておきなさいなぁ」
そう言って侍女達に命じて体調不良で今にも倒れそうな令嬢を保健室へと下がらせた。
セシリアはそうして着実に、自分なりの悪役令嬢を演じたのであった。





