2話
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王城でのお茶会は、王城の中庭で行われる予定で可愛らしくセッティングされており、色とりどりの花々が飾られていた。
今回は婚約者同士楽しく仲を深めてほしいと言う計らいから、気兼ねなく話が出来るように開放的な空間でと配慮されて準備が整えられている。
セシリアは朝早くから準備を済ませ、エヴォナに教えてもらった通りに、今回はかなり大人っぽいドレスに派手な化粧をし、装飾品もたくさんつけて着飾った。
自分の趣味ではないが、ヒューバートが喜んでくれたらいいなと、念入りに準備をしたのである。
セシリアの両親も、その装いに止めるべきか悩んだ様子であったが、セシリアの頑張りと、そしてどんな装いであろうとも超絶的に似合いすぎるからこそ止めるに至らなかった。
天気が良かったが、まだ冬が明けたばかりで今回選んだドレスではかなり寒く感じた。羽織を侍女は用意してくれていたが、それでも喜んでもらえるならと気合で寒さをセシリアは堪えていた。
「ヒューバート殿下はまだかしら?……紅茶も冷めてしまったわね……へくち!」
小さくくしゃみをしたセシリアは、なかなか現れないヒューバートに何かあったのではないかと心配を始めた。
「お嬢様、肩掛けをお持ちしましょうか?」
執事が心配そうにそう声を掛けるが、セシリアとしてはせっかくのドレスをヒューバートに見てもらいたかったのでそれを断った。
「大丈夫ですわ。でもありがとう」
「必要な際はお声掛けください」
「えぇ。わかったわ」
そう答えたものの、風は冷たくなる一方で、セシリアの手はかすかに震え始めた。
もうやせ我慢するのを辞めようと思った時であった。
予定時間よりも三十分ほど遅れたヒューバートが、面倒くさそうな様子で現れた。
「はぁ……面倒くさい。セシリア嬢。来てやったぞ」
その言葉に、最初から面倒だと思われているのかとセシリアは驚いた。けれどそれを面には出さずに立ち上がり、美しく礼をし、挨拶をした。
「第一王子殿下にご挨拶申し上げます。殿下の婚約者となりましたセシリア・フォーガットと申します。この度は」
「あぁ知っている。挨拶はその辺でいい。座れ」
「は、はい。ありがとうございます」
途中で他人の挨拶を切ることは無作法であるが、ヒューバートはそんなこと気にも留めない様子でセシリアの前に座ると、冷ややかな視線でセシリアを見た。
「お前本当に十歳か?」
「え? は、はい。そうでございます。ヒューバート殿下と同じ年でございますわ」
そう答えると、ヒューバートは顔を歪めながらセシリアを頭から足先までじろりと見つめて、ため息をつきながら言った。
「おばさんみたいだな。それに臭い」
「え? えっと、申し訳ございません……お好みに合わせられればと、思ったのですが」
おばさんという言葉、それに臭いという単語。それにセシリアは衝撃を受けていた。これまで直接的に悪態をつかれたことはなかったために、どう返せばいいのかもわからなかった。
「っは。それならもっと頑張るべきだな。俺の婚約者になったのだからこの俺に見合うように努力するのは当たり前だろう」
同じ年だと言うのに、自分を見下し命令してくるような口調に、セシリアはこれまで味わったことのない威圧感を覚えた。
「お前、俺と仲良くなろうとか考えているなら諦めろ」
「え? ですが、婚約者ですし」
「面倒くさい。このお茶会に来てやっただけありがたいと思えよ。それに口答えするな」
「え? は、はい」
どうして初対面の相手にこうも嫌な思いばかりさせられなければならないのだろうかと、セシリアの中でヒューバートの印象は最悪なものとなった。
お茶会の席は、十分ほどで終わった。終始面倒くさそうにヒューバートはため息をつき、必死にセシリアが話題を振ってはみるが、ただただ、ため息と相槌とだけで終わった。
「はぁ。ちゃんとお茶会に顔は出した。もういいだろう。ではな」
「あっ……はい。ありがとうございました」
セシリアの言葉など待つこともなく、さっさと席を立って行ってしまった。後ろを振り返ることなく、こんなお茶会など時間の無駄だと言わんばかりの雰囲気であった。
終始横暴な態度で終わったそのお茶会に、セシリアは何がいけなかったのか分からなくなり、うつむいたまま動けずにいた。
「……何がいけなかったのかしら……」
ただただ嫌な思いだけして終わってしまった。
項垂れ、拳をぎゅっと握りセシリアは、初めてのお茶会が明らかに失敗に終わってしまったことが悲しくて、唇を噛み必死に堪えていた。
朝早くから準備に時間をかけ、これまでエヴォナと共に化粧の方法なども頑張ったと言うのに、それが全部無駄に終わった。
何が悪かったのかもわからず、ただ、堪えるしかなかった。
その時、肩に柔らかな布の感触を感じ振り返ると、そこには黒目黒髪の可愛らしい男の子がいた。
黒目黒髪は、トラべニア王国では珍しいことから忌避されることがある。ただし、王国の初代国王は黒目黒髪の偉人であったので、国の歴史を正しく知っている人達からすれば、決して差別されることはない。
そして現在先祖返りで黒目黒髪をもって生まれたのは、第二王子のシックスだけである。
「よければそれをどうぞ。兄上が来るのが遅かったから、寒かったのではないですか?」
「え?」
その一言に、確かに肌寒くて、かけられた肩掛けのショールがとても暖かく感じた。
「あの、ありがとうございます」
そう告げると、男の子は少し悩むように眉間にしわを寄せると言った。
「突然声をかけて失礼しました。兄上のご婚約者に挨拶をしたいと思い、その、傍で控えていたのです」
「そうなのですね。わざわざありがとうございます。お初におめにかかります。公爵家より参りましたセシリア・フォーガットと申します」
王族への挨拶だと、セシリアは緊張していた。そんなセシリアに、シックスは伺うように声をかける。
「あの、大丈夫ですか?」
「え?」
「悲しそうだったので……」
泣いていない。けれど、シックスの言葉に、自分は上手くいかなかったことに対して悔しさなのか悲しさなのか、自分は泣きたかったのだということにセシリアは気づいた。
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