二十九話 桃色の時間
純白の衣装は、花嫁の証。
そんな花嫁の衣装の仕上がりを見つめ、セシリアはほうと息をついた。
とても、美しい衣装だ。
自分が着るのがもったいないと思うほどに美しいそれを、セシリアは衣裳部屋にて眺めながら、結婚式までの日取りを数えていた。
準備すべきものはほとんど終わり、後は結婚式を待つのみ。
シックスは王太子としての仕事に向き合い、二人が取れる時間は限られてきている。それでも二人きりの時間がないわけではない。
ただ、セシリアとしては、もう少し一緒にいる時間が欲しかった。
「はぁ。私ったら、いつからこんなにわがままになってしまったのかしら」
小さくそう呟くと、セシリアは立ち上がり、衣裳部屋から出る。
セシリアはすでに住まいを王城内へと移しており、学園は卒業扱いとなった。
元々学力は十分であり、妃教育もつつがなく進んでいる。
ヒューバートとエヴォナの一件を払拭するためにも、シックスとセシリアの結婚式は急がれていた。
侍女を引き連れて廊下を歩いていると、綺麗な庭が目に入り、セシリアはそちらの方へとふらりと足を向ける。
いろいろと忙しい日々を乗り越えての今日はやっとの自由な休日である。
庭へと出たセシリアへ、侍女が日傘をさし、庭を歩いていく。
「綺麗ねぇ」
美しい花が咲き誇る庭で、花をめでていた時であった。
「セシリア嬢」
顔をあげると、そこには少し急いできたのか、小走りでこちらに来るシックスの姿が見えた。
「シックス様!」
セシリアはぱっと表情を明るくし、自らも歩み寄る。
「セシリア嬢が庭を歩いているのが見えてね、会いに来てしまいました」
「そうなのですか? ふふふ。うれしいです」
シックスの言葉にセシリアは微笑みを浮かべ、そして二人は一緒に庭を歩く。
侍女と執事は後ろへと下がり、二人は手をつなぐとあたたかな日差しの中をゆっくりと歩く。
風が優しく二人の間を吹き抜け、花が風に楽し気に揺れる。
「なかなか時間がとれずにすみません」
その言葉にセシリアは首を横に振ると、握っていた手をぎゅっと握り返し、そしてシックスへと身を寄せる。
甘えるようなその仕草に、シックスは頬を赤らめる。
「あぁぁ、早く結婚したいなぁと、毎日思います」
「私もです」
その言葉にシックスは驚いたように目を丸くし、そして、セシリアと向き合うと、少し言いずらそうに、口を開いた。
「あ、あの」
「はい?」
「私は、セシリア嬢を心から、愛しています。その、セシリア嬢は……少しは、私のことを好きになっているでしょうか?」
「へ?」
突然の言葉に、セシリアは顔を真っ赤に染め上げると、あわあわとした様子で視線をさまよわせ、そして、意を決したようにシックスと視線を合わせる。
シックスもその姿に緊張した様子で身構えた。
もちろん、息をひそめて見守っている侍女や執事や護衛の騎士達も、全員が二人の甘酸っぱいやり取りに息をのんでいる。
ドキドキ、ワクワクと、その場全体が桃色に包まれているのは言うまでもない。
ラストまで読んでくださったら嬉しいです(●´ω`●)





