二十二話 エヴォナという女
授業が終わり学園でセシリアは帰り支度をしていた。
ここ最近シックスは何やら忙しいらしく、セシリアに謝りながらも授業が終わるとすぐに帰るか、もしくは授業自体を休むことがあった。
もう少しシックスと一緒の時間が過ごしたなと思っていたセシリアが小さくため息をついた時であった。
「ふふふ。ねぇセシリア様」
カツカツと靴を鳴らしながら、エヴォナがセシリアの目の前に現れたのである。
セシリアはその姿に、またため息をつきたくなるのをぐっと堪えると、笑みを浮かべて言った。
「エヴォナ様、学年もクラスも違うというのに、わざわざどうしましたか?」
「シックス殿下に愛想をつかされそうな、セシリア様の様子を見に来てあげましたのよ?」
「は?」
突然の発言に、クラスに残っていた令嬢たちすらもざわつく。
それほど大きな声でエヴォナは声をあげており、セシリアは頭が痛くなるのを感じながらも首を横に振った。
「シックス殿下は、そのような方ではありません」
エヴォナはその言葉にそれはそれは楽しそうに両手をぱちぱちとたたきながら、笑顔で言った。
「あらぁ、じゃあ、なんでシックス様は私の家に最近よく手紙をくれるのかしらぁ?」
「え?」
「お父様に最近シックス殿下から手紙が届くのぉ。私としてはきっと、求婚のお手紙かしらぁと思うのだけれどー」
セシリアはその言葉に一瞬動揺したものの、首を静かに横に振った。
「エヴォナ様、それは不敬というものです。シックス殿下は、そのような方ではありません。私は、シックス殿下のことを信じております」
「はぁ?」
エヴォナは一気に不機嫌になると、眉間にしわを寄せた。
「あなた、シックス殿下に自分が愛されていると本当に思っているの!?爵位が合うからよ! あなた自身に価値があるわけじゃないわ!」
暴言ともとれるその言葉に、セシリアはこのエヴォナという女がよくわからなくなってきた。
昔は親切で優しくて、頼りになる友人だと錯覚していた。
きっとそれは、セシリアがエヴォナのことを信じ過ぎて反論することがなかったから成立することだったのだろう。
だが、セシリアだって変わる。
セシリアはふわりと微笑む。
クラスに残り、二人の様子をうかがっていた生徒たちが息をのんだ。
「エヴォナ様の言う通り、私は公爵家の令嬢でございます。故に、殿下の婚約者に選ばれました。それは貴族の令嬢の務めでございます」
「あ、愛がない結婚なんて不幸せよ!?」
「愛ですか……」
セシリアは静かに考えると、自分の胸を抑えて言った。
「愛なら、ここにあります」
「は?」
「私は、シックス殿下のことをお慕いしておりますので」
セシリアの言葉に、クラスにいた生徒たちは頬を赤らめ、エヴォナはイラついたように机をたたいた。
春のはずなんですよ。今は、でもね、私はもうクーラーを入れたいわけですよ(●´ω`●)でもね、我慢しているんです('ω')





