十七話 飛び交うクエスチョンマーク
エヴォナに言われた一言が頭の中でぐるぐるとまわる。
セシリアは大きくため息をつくと、この一件についてシックスに話すべきか迷いそして結局言わないままに数日間を過ごしていた。
エヴォナが言うように、自分は逃げているのだろうか。
そう考えると、いずれ王妃となる自分の立場として、それはいかがな物だろうかと考える。
「これくらい、一人で解決するべきよね」
本当はシックスに相談した方が解決は早いのだろう。
ヒューバートに近づかず、このまま卒業して、関わりさえ持たなければきっと安全に進んで行ける。
けれど、本当にそれでいいのかとセシリアは小さくため息をつく。
上を見上げれば、青々とした雲一つない空が広がっている。セシリアは一人、講堂の裏手にあるベンチで座り、考えていた。
風に白い雲が流されていくのを見つめて、セシリアは首を横に振った。
「やっぱり、このままではだめだわ」
ヒューバートには、恋愛感情など一切ないことを伝え、そしてシックスには記憶喪失ではないということを、告白しなければならない。
そう考えたセシリアは立ち上がると、時計を見た。
今の時間ならば、ヒューバートは図書室で本を読んでいる頃だろう。ただ、本とはいっても娯楽本ばかりであり、難しいような物は手に取りすらしなかった。
すぐにそう思い当たり、長年婚約者であったからヒューバートの習慣を熟知している自分に苦笑を浮かべた。
セシリアは歩きだし、図書室を目指す。そして、たどり着いた図書室の扉を開け、そして一直線に、ヒューバートがいつも座っていた席を目指して進む。
日の光の差し込む、風が丁度入ってきて心地の良い席。
そこがヒューバートの特等席であった。
飲食禁止だと言うのに、執事に言って湯気の立つ紅茶を机の上にいつものように準備させていた。
ヒューバートは、ふと顔を上げ、セシリアの姿を見つけると笑った。
幼い時、婚約をしたばかりの時のような、真っ直ぐな笑みを向けられたのは本当に久しぶりであり、セシリアは思わず一歩後ろに後ずさった。
「セシリア」
愛おしげに呼ばれ、鳥肌が立つ。
まるで自分が来るのを見越していたような態度。
それに違和感を感じながらも、ここで逃げるわけにはいかないと、ぐっと足に力を入れると、セシリアは一礼した。
「殿下にご挨拶申し上げます」
「あぁ、堅苦しいのはなしだ。ほら、こっちに座れ」
ヒューバートが示したのは自分の横の席。
かつて、座ることなど一度も許してくれなかったと言うのに一体どういう風の吹き回しだろうと思いながら、セシリアはあえて少し離れた席に座った。
ヒューバートは肩をすくめると、懐かしげに言った。
「ほんの少し前まで、セシリアとはここで隣り合って愛を語っというのに、記憶喪失というのは悲しい物だな」
セシリアは目を丸くし、言われた言葉が理解せずに頭の中にクエスチョンマークが飛び交うのであった。





