十六話 迷うセシリア
シックスが話をしてから、ヒューバートがセシリアに学園内で近づくことはなくなった。
それにセシリアは安堵し、これからはシックスと共に学園生活を楽しめると思っていたのだが、最近、シックスの様子がおかしいのである。
自分は何かをしてしまったのだろうかと、セシリアは不安になり、シックスと一緒にカフェでお茶を飲んでいる時に、思い切って尋ねた。
「あの、最近、ご様子がおかしいように感じるのですが……何かあったのですか?」
その言葉にシックスは少し驚いたように目を丸くすると、両手で顔を覆って言った。
「いえ、何もないんです。ただ……」
「ただ?」
やはり何かあったのかとセシリアは言葉を待つと、ちらりとシックスはこちらを見て呟くように言った。
「思っていた以上に、自分が許容の狭い男だったと、思い知ったんです」
「え?」
「すみません。なんでもありません。」
シックスはそう言うと、話題をわざとずらし、それ以上話をすることはなかった。
それがセシリアの中ではもやもやとなり、この数日間、ため息をついてはシックスのことばかりを考えている。
そして、ぼうっと午後の昼食を食堂で食べていた時であった。
ざわめきが起こると、自分の目の前にエヴォナがやってきたのである。
久しぶりに見る姿にセシリアは一体何のようだろうかと思っていると、エヴォナは可愛らしく笑みを浮かべながら猫なで声で言った。
「セシリア様ぁ~。お久しぶりですぅ。」
今更自分に何の用だろうかと、返事を返さずにいると、エヴォナは図々しくもセシリアの席の隣に腰掛けると、しゃべり始めた。
「あのぉ、やっぱり考えたのですが、お友達として、もう一度チャンスをもらえませんかぁ? やさしいセシリア様なら、受け入れてくれますよね?」
何なのだろうかとセシリアは思い、思わずため息をつくと席を立った。
「エヴォナ様、それは以前お答えしたかと思いますが」
立ち去ろうとするセシリアの腕をエヴォナは掴むと、にやりと笑って言った。
「えぇ~。恋愛のレの字も知らないセシリア様には、私がいないと、シックス殿下と上手くはいかないんじゃないですか?」
「何ですって?」
「うふふ。じゃあ良いことを教えてあげますぅ。シックス殿下が悩んでいるのは、ヒューバート殿下が何か言ったかららしいですよ? ふふっ」
その言葉に手を振り払おうとしたのを止めると、セシリアは眉間にしわを寄せた。
「ヒューバート殿下が?」
「えぇ……ねぇ、セシリア様、いつまで逃げるんです?」
「え?」
ぎりぎりと爪が食い込むほどにエヴォナはセシリアの腕を掴み、そして言った。
「ちゃんと、向かい合って、ヒューバート殿下と話を着けないから、シックス殿下が不安に思うんじゃないですか? 逃げてないで、ちゃんと向き合ってはどうです?」
その言葉に、セシリアはばっと腕を振り払い、はっきりと言い返した。
「大きなお世話です。それに、ヒューバート殿下はすでに貴方様の婚約者でしょう?」
エヴォナとヒューバートは国王陛下の命令によって婚約することとなった。いずれはヒューバートは王族の席から抜け、エヴォナの家へと婿入りするだろうと考えられている。
しかし、エヴォナは顔を歪ませると言った。
「私が欲しいのは、王妃の座ですから」
「なっ!?」
エヴォナはにやりと笑い、席を立つと手をひらひらと振って立ち去る。
「ふふふ。私、絶対手に入れて見せますからぁ~」
あえて、何をとは言わず、エヴォナは立ち去り、セシリアはため息をつくとその場を離れた。
そして考える。
「一度向き合う、か」
たしかに、いつまでも記憶喪失のふりはしていられない。
セシリアはどうすべきか、ため息をつきながら考えるのであった。