十三話 現実と妄想の狭間
ヒューバートは舞踏会が終わると、自室へと戻り、そして笑い声を上げ始める。
「くく……はっはっはははははは!」
自分が王太子となる未来以外を、思い描いたことなどなかった。
シックスが王太子?
腸が煮えくり返るような怒りと、ふつふつと燻る感情。
今でも耳障りな、ひそひそと囁かれる声が蘇る。
ヒューバートは怒りのままに部屋にあるものを壊し、枕を剣で引き裂く。
「ふざけるな! 王になるのはこの私だ……くそくそくそ……分からせてやらなければ」
獣のようなその瞳に、今日のセシリアの姿が思い浮かぶ。
美しかった。
一目見た時、この人こそが自分の求めていた女性であると、そう感じた。
それと同時に、エヴォナに対しても怒りと憎しみを抱き始めた。
「あの女が、私とセシリアとの仲を引き裂いたんだ……私達は愛し合っていたのに」
頭の中で、真実と虚構が重なり始め、ヒューバートの思考は自分の都合のいいように、自分の物語を作り上げていく。
「そうだ……エヴォナが私を洗脳していたんだ。セシリアは私のことが好きだったのに、それを。何ていう女だ。魔女だ。あいつは魔女だったんだ。いや、そうだ。きっとシックスがこれを計画したんだ。私からセシリアを奪うために」
狂っていくヒューバートは、部屋の調度品を壊し続けながら、ぶつぶつと言葉を呟く。
「あぁ、可愛そうなセシリア。私から引き離されて、きっと泣いたに違いない。そうだ。記憶喪失なのだから、きっと私との思い出も失っていることだろう。うんそうだな。思い出させてあげよう。そうすればきっと、私の所に帰って来てくれる」
ヒューバートの瞳には狂気が宿る。
「セシリアが戻ってくれば、きっと父上も分かってくれる。それにシックスはダメだな。どうにかあいつを消さなければならないだろう」
部屋の中にぶつぶつという声が呪いの言葉のように響く。
「あぁぁ、待って居てくれセシリア。お前を私が救い出してみせる」
妄想の中、ヒューバートは恍惚とした笑みを浮かべた。
シックスが王太子となった舞踏会から数日後、セシリアは久しぶりに学園の門をくぐる。
王立学園に通っていたセシリアではあったが、婚約破棄の一件以来休学していたのだが、本日より復帰することとなっている。
ただし、本来は第二学年にいたセシリアであったが、一つ下のシックスと同じクラスへと移動となっている。
今まではヒューバートとエヴォナと同じクラスであった為、学園側と王家とでシックスと同じクラスが望ましいだろうということに落ち着いたのだ。
重複しての授業であるため、日程は妃教育にも時間を当てることとなったのであった。
この時のセシリアは、まだ、ヒューバートが狂い始めたことに、気づいていない。
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