十一話 愚かなる者
セシリアはヒューバートのことをじっと見つめた。
王家と公爵家との結婚は決められていたものであり、自分は両親から王家を守り、敬い、そして国を栄えさせていくために貴族として生きていくことを教え込まれてきた。
だからこそ、ヒューバートがこれまで自分の意見を聞かなくても、ないがしろにされても、それでも堪えて、これまで生きてきたのだ。
それを意図も簡単に切り捨てたヒューバート。
セシリアは静かに、呼吸を整えてから言った。
「申し訳ございません……記憶にないのです」
これまで、セシリアはエヴォナからの忠告の通りに、ヒューバートが好む女性と言うものを演じ、そして好かれようと努力してきた。
しかしそれは、セシリアがヒューバートのことを愛していたからではない。
それが務めであったからである。
セシリアは美しく頭を下げると言った。
「第一王子殿下、私は、第二王子殿下であるシックス王太子殿下の婚約者でございます。これからはシックス様が私の唯一であります。以前のことは関係ございません。私は貴族の娘としての自分の役割を果たすまでです」
「なっ!?」
ヒューバートは頬を引きつらせる。
エヴォナは、慌てた様子でセシリアに向かって甘えるような声をかける。
「セシリア様! 私達は友人ではありませんか……何故、教えて下さらなかったのですか?」
その言葉に、セシリアは静かに、エヴォナと出会った頃のことを思いだす。
友人だと思っていた。
けれど、今でははっきりと自分が利用されていただけだとセシリアには分かっている。
「失礼ですが、友人、ですか?」
あえてセシリアは困ったようにそう言い、そしてチラリと視線を会場へと走らせる。
すると数人の令嬢達がさっとセシリアの後ろへと移動し、エヴォナを威圧するように冷ややかな視線を向ける。
セシリアを心配し、手紙やお茶会で励ましてくれた令嬢達である。そこにいる令嬢達こそがセシリアにとっては友人であり、大切にするべき相手である。
だからこそ、美しい微笑を浮かべてセシリアは言った。
「私の友人はこちらにいます」
エヴォナは顔を引きつらせる。
「か、過去のことは忘れましょうよ! 私たち、親友じゃない!」
その言葉に皆が顔を歪める。
ヒューバートは焦ったようにエヴォナの腕をつかむ。
「エヴォナ!?」
掴まれた手から逃れるようにエヴォナは慌ててセシリアの方へと歩み寄ると、セシリアの手をぎゅっと握って行った。
「ね? 親友じゃない。貴方はただ忘れてしまっているだけなのよ?」
その言葉に、セシリアは首を横に振ると、優しくエヴォナの手を引き離すと言った。
「先ほども言いましたが、私の友人はここにいる方々であって、貴方ではありませんので」
ここにきてやっと、ヒューバートとエヴォナは自分たちに向けられている視線が冷ややかなものばかりであることに気づいたのであった。
春になったら、美味しいものが食べたい。
夏になったら、さっぱりしたものが食べたい。
秋になったら、いろいろ食べたい。
冬になったら、あったかいものが食べたい。
一年中、美味しいものが食べられたら、幸せですよね( *´艸`)