一話 婚約破棄されました
よんでくださる皆さまに感謝~
色鮮やかな赤い髪に、黒く妖艶なドレスを身に纏った公爵家令嬢、セシリア・フォーガット。顔には分厚く塗りに塗られた化粧が施されており、胸元を大きくはだけさせている。
そんな彼女の婚約者は、この国の第一王子であるヒューバート・レイ・トラべニア。金色の髪に青い瞳を持った王子様であった。
幼い頃に決められた婚約者であったが、セシリアは友人のエヴォナから王子の好みや化粧の最先端などを教えてもらい、頑張ってこれまで王子の婚約者を務めてきた。
お色気むんむんの女性が好きだと言うから、ドレスは常に胸元が大きく開き、落ち着いた色合いのものに。
化粧をしっかりとしている女性が好きだと言うから、顔には化粧を塗りに塗って、塗りまくった。
あまり賢くない女性が好きだと言うから、馬鹿のふりをした。
着たくもない気品の欠片もないドレスに、分厚い化粧。馬鹿みたいな喋り方。それはセシリアにとっては苦痛でしかなかったが、それでも王子の婚約者である以上、頑張らなければと、王子の好みに一生懸命に合わせた。
その結果。
セシリアはヒューバートの誕生日の舞踏会場にて、婚約破棄を言い渡されていた。
「え?」
意味が分からなかった。
突然楽器の演奏が止まったかと思うと、騎士によって会場の中央へと連れ出され、舞台上からヒューバートと、何故か横に寄り添うエヴォナから見下ろされている。
「今・・・何とおっしゃいましたか?」
ヒューバートは嫌悪感を露わにした表情ではっきりとした口調で言った。
「お前のように、下品で娼婦のような女とは婚約破棄をする。その代りに僕の婚約者には、清楚で美しく、教養のある、このエヴォナ・ランドール侯爵令嬢を指名する。」
王家の命によりなされた婚約だったはずだが、国王も王妃が外交に行っているこの期間に、婚約破棄など勝手にしてもいいのだろうかと、セシリアは動揺する。
しかも、今彼が言った言葉にセシリアは意味が分からずに声を上げた。
「ひゅ・・・ヒューバート殿下の・・・好みではないのですか?」
その言葉に、馬鹿にしたようにヒューバートは笑うと言った。
「お前のように馬鹿で体しか主張できないような女、好みな訳がないだろう。僕の好みは、このエヴォナのような女性だ。美しさの中にも品位を感じさせる、彼女こそ、僕の運命の人。真実の愛。そうだろう?エヴォナ。」
頬を赤く染めながら、エヴォナは微笑む。
「まぁ、殿下。恥ずかしいです・・・でも、私もお慕いしております。」
セシリアとは正反対の、白色を基調とした可愛らしいドレスに、髪の毛も柔らかに編み込み、ふんわりとした清楚系に仕上げられているエヴォナ。
セシリアは、その光景を見て、なるほどと、自分は騙されていた馬鹿な女だったのだと恥ずかしくなり、唇を噛むと、二人を睨みつけた。
その態度にヒューバートは眉間にしわを寄せて言った。
「お前は僕の妃にはなれない。残念だったな!はっはっは!」
「ふふふ。ごめんあそばせ~。」
セシリアは自分が騙されていたという事にも、王子が自分の事をこれっぽっちも考えてくれていなかったという事にも悲しみが込み上げ、そして逃げるように会場を後にした。
馬車に乗り込もうとした瞬間に、引き留めるように腕を掴まれてセシリアは振り返った。
「セシリア嬢!どうしたのです!?」
そこには、ヒューバートの弟である第二王子のシックスが驚いた様子でセシリアを見つめている。シックスはヒューバートとは違い、王家の髪色と瞳の色を引き継いでいない。この国の初代国王と同じ髪色である漆黒の髪と瞳を持っていた。
ただ、いくら初代国王と同じ髪色と瞳であっても、この国には珍しい色合いから、あまりその外見は人々には好まれていない。
その為なのか、あまり人々の前へと姿を見せないシックスではあったが、セシリアとは幼い頃から仲が良かった。
「シックス殿下・・・も・・申し訳ありませんが、本日は帰らせていただきます・・・」
涙声でそう言われ、シックスはセシリアの手を離すと、ハンカチを手渡す。
「事情は分かりませんが、ゆっくり休まれて下さい。引き留めてしまい、すみません。」
「いえ・・・」
セシリアは馬車に乗り込むと、ハンカチを握りしめてポタポタと涙を流した。
これまで王妃教育を頑張ってきたが、それも全て無駄である。
騙されるバカな自分が嫌で嫌でしょうがなく、セシリアは声を殺して、涙を流し続けた。
読んでくれてありがとうございますぅ~(*'ω'*)