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※打切※ 機甲操兵アーカディアン  作者: 天城リョウ
第2章
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親の選択

「君がタケウチ・サカキ、オミナ夫妻の養子であることに変わりはない。ただ、今おふたりは君の傍にいれないから、わたしたちが代わりに」


「ツキノさん……」


「出会ってまだ1週間だし、これを話すのはもう少ししたらの予定だったんだけど、話してる内に〝今、言おう〟と思ってね」


「艦長……」



 本当は今すぐ飛びつきたかった。


 だが……ためらいが残っていた。



「でも、おふたりに本当のお子さんができたら」


「わたしは出産しないから、その心配は無用だ」


「えっ⁉」



 アキラが顔を上げると、ツキノ大尉は複雑な表情をしていた。



「まさか──」


「ああ、いや。体に問題はないんだ。わたしも夫も。ただ子供は作らないと決めているだけで」


「どう、して」


「わたしたちは、子供を作るとしたら遺伝子操作を施してジーンリッチとして産むべきだと思っている」


「‼」


「だが地球連邦では遺伝子操作は禁止。子供を産みたいなら逆に遺伝子操作が義務のルナリア帝国に亡命するしかない」



 アキラは考えたこともなかった。


 ただ、それは自分が親になるという視点でだ。子供としては両親に〝ジーンリッチに産んでほしかった〟と思った。


 今の世の中で親には子供をアートレスにするかジーンリッチにするか、という選択肢が確かにある。そのために住む国を変えることが容易ではないとしても……


 大尉の言葉を、艦長が継いだ。



「月で初めに生まれたジーンリッチと僕は同い年でね。彼ら人工の天才たちが月社会を発展させ、アートレスによる地球社会が彼らとの競争に敗れて衰退していくさまを目の当たりにした」


「わたしもだ。歳はこの人より若いが」


「僕たち自身、ジーンリッチと争い、彼らの才能に敗れてきた。子供を自然のままアートレスとして誕生させれば、自分たちと同じ想いをさせる。そんなことはできない」


「はい……」



 地球連邦で遺伝子操作が禁止されているのは政府からの押しつけではなく、それを自然に反するものと嫌悪している大多数の国民の声が反映された結果だ。


 遺伝子操作を悪とは思っていないアキラには共感できず、親の思想のために子供がとばっちりを受けて未来を閉ざされていると感じる。



「わたしは、ずっと子供が欲しかった」


「それなのに……?」


「ああ。それなら月に渡ってジーンリッチとして産めばいいのに、そうしていないのは。わたしが月社会に順応できるとは思えないからだ」


「管理社会、ですもんね」


「そう……職業選択の自由がなく、遺伝子から判定された才能に見合った職に就かされる。わたしはパイロットをしていたいし、たとえ月でもなれるとしても、そんな社会では窒息してしまう」



 天才科学者の伯父サカキでさえ順応できなかった。


 大尉のその判断が慎重すぎるとは言えない。



「僕も。そんな環境じゃ余裕がなくて〔いい親〕をできないだろう。なのに子供を作るのは無責任だと思うから」


「だから地球連邦で生きる。そしてアートレスの子供を産んでジーンリッチとの差に苦しむ人間を増やす気はない……が、すでに生まれてきている子と親子になるなら問題ない」


「それが、ボク……?」


「ただ誤解しないでほしい。条件に合うなどと考えたわけじゃない。君と出会って、愛しいと思った。それが一番の理由だ」


「ツキノ、さん」


「ツキノちゃんから〝アキラくんと親子になりたい〟って言いだしてね。その時は驚いたけど、僕も君と過ごす内に同じ気持ちになったよ」


「艦長……!」



 アキラは手首で涙をぬぐった。


 だがとまらず、あふれてくる。



「喜んでお受けします……ただ呼びかたは、すぐには」


「いいんだ。嬉しいよ」


「ああ、アキラくん!」



 運転席の艦長が頷き、隣の大尉にはガバッと抱きしめられた。







 いつしか日は沈んでいた。


 長い橋を渡りおえてオアフ島に戻った車は、街灯に照らされた夜道を走り、程なくして停まった。艦長と大尉に続いて車を降り──



「あれ?」



 アキラはそこが出発時と同じ軍港の中ではないと気づき、辺りを見渡した。駐車場の横には芝生に覆われた広場、柱と屋根だけの開放的な東屋パビリオンも見える。


 そこに大勢の人だかり。


 顔ぶれは、制服の軍人と私服の民間人が半々といったところ。所属の垣根なく笑いあいながら宴の準備をしているようだ。


 テーブルの上に並んだ皿には肉や野菜が盛られている。バーベキューコンロの火が夜闇の中、チロチロと赤く光っている。



「今夜はここで夕飯だよ」


「また交流会だ」


「そうでしたか」



 艦長と大尉に言われ納得する。


 この辺りは軍港や基地などの軍施設と、民間の住宅地とが隣接している。軍施設の運営には周辺住民の理解が不可欠とのことで、両者はよく交流会を開いている。



「おっ。来たな、アキラ!」


「ミシマ中尉。みなさんも」



 大尉の部下の飛行科の男たちが寄ってきた。彼らは艦長と大尉にあいさつすると、その肉壁でアキラを包囲して歩きだした。アキラは押されて歩かされる。みな背が高いので周りが見えない。



「お前はこっちだぜ」


「は、はい?」



 わけが分からないまま演壇に登らされる。囲みが解かれると会場中の視線が集まってきて、人前が苦手なアキラは緊張した。



「おーい、アキラ!」


「こっちこっち!」


「あっ……みんな!」



 最前列に先日の交流会で一緒に機甲操兵(ブランクラフト)アーカディアン(操縦シミュレーション)をやって仲良くなった地元の少年少女たちの姿を見つけ、少しほっとする──パーン‼



 アキラ! お誕生日おめでとう‼



 鳴りひびいたクラッカーと会場の全員からの祝福に、アキラは目を丸くした。演壇に艦長と大尉が上がってくる。ふたりともイタズラが成功した子供のような顔をしていた。



「あの、これ」


「その顔だと驚いてくれたみたいだね。博物館に連れだしたのは、これの準備を悟らせないためってのもあったんだ」


今日きょう──10月13日は、君の誕生日だろう?」


「ああ⁉ 最近、日付を見てなかったので……!」



 ドッと会場中が笑った。ここにいる全員が自分のために、こんなにも周到なサプライズを用意してくれていたのだ理解して、アキラは鳥肌が立った。



「ありがとうございます! みなさん‼」



 この場にカグヤがいてくれれば。いないのに、こう思えてしまうことに罪悪感を覚えるが……体中を満たす温かさは偽れない。アキラは心の底から思った。



(幸せだ)

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